青島 広志 「作曲家の発想術」講談社現代新書 2004年発行 740円+税 怒濤の如く、馬車馬の如く本を読んでいたのは30歳代迄でして、その後ガクンと読書量が減ったのは、基本的には自らの集中力問題でしょう。学生時代を過ごした京都、その後、長く住まいした大阪では本は潤沢に手に入ったが、その後、博多〜岡山と転居したら、自分が思い描くような本屋が存在しなくて(うんと大都市以外ではどうしても品揃えが少ないのか?それとも時代か)一気に読書量が落ちた、ということもあるかもしれません。東京に出張して本屋を覗くとたいてい読書意欲が沸きますもの。 それでも昨年くらいからそれなりに読書は増えていて、これはご近所BOOK-OFFの威力かもね。音楽の本はほとんど読まなくなっていて、これは久々の新刊入手であり、楽しく、歯応えのある一冊でしたね。筆者は1955年生まれだから、ワタシより少々上ながらほぼ同世代の売れっ子作曲家(残念ながら、音楽は聴く機会を得ず)であり、超多忙な生活を送っている(らしいことは本書から理解できる)が、文書の説得力、自らの状況の客観的戯画化の妙も含め、これほど楽しめる”音楽の本”に久々出会った!との感慨も深い。 全体構成は大きく三つになっていて、第1章は「作曲家への階段」〜これは自らの例を引きつつ「余は如何にして作曲家になりしか?」みたいな生い立ちが詳細に語られるが、幼い頃から音に鋭敏であり、ピアノを習い、芸大に行き〜それはそれとしてなかなか興味深いが、世代的に、山本直純さんとか岩城宏之さん辺りの破天荒なできごとは、そうあるものではない。団塊の世代とその子供達の間に挟まれた中途半端な(ジミでさえあると思う)世代であるワタシ達は、どーも基本的にお茶らけているというか、冒頭に作曲家の容姿が一般的に(三枝成彰を例外として)ほとんど容貌魁偉で、美しい旋律に憧れ、訪ねてきた婦女子を失望させる(乙女の夢を無惨に破壊する)・・・旨からスタートしていることも秀逸。(表紙裏著者近影で納得!ちなみに本文に含まれる少数のイラストもユーモラス・・・著者が自ら書いたのか?) それでも、彼はきっと天才秀才の類で芸大を卒業し(その辺りも相当戯画化している)、職業作曲家になっていく経過はある意味悲惨であり、高尚な芸術とはかなり無縁な世俗的な浮き世のツラさも沢山経験しております。芸術家も芸術だけではメシは喰えない!という自明の理を正直に語って説得力あるが、ま、彼は売れっ子作曲家ですな。この章が、読み物としてもっともおもしろい。 第2章は「オーケストラ曲」「吹奏楽」「協奏曲」・・・ま、合唱とかオペラ、舞曲、編曲とかの説明でして、ワタシもド・シロウトなりにそういった説明本はずいぶんと読んだ記憶もあるが、これほど例が的確かつ具体的リアルで、一般的でクソおもろくもない・・・学術系とは正反対の楽しい説明は初体験。あちこち細部にユーモアと(例の如し)お茶らけが時に合いの手を入れるが、自らの作曲経験(いや、これが純粋な作曲技法ばかりではなくて純実務的な苦労とかたいへん興味深い)も踏まえて、基本真面目で深遠、かつ実践的な分析です。 第3章「作曲なんてこわくない!」は、昨今流行の「ノウハウ」実践編でして、曰く「作曲とはもっとも安上がりな趣味だ」とのこと。知人の結婚式にオリジナル作品を頼まれた、というシチュエーションがリアルであり、ありがちで、その作曲技法と発展系の平易な説明は見事であります。 嗚呼、久々歯応えのある音楽本を楽しんだ!
(2004年10月7日)
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