クラシック音楽向上委員会編 「クラシックB級グルメ読本」

クラシック批評B級宣言!
洋泉社 1997年発行  1600円

 許 光俊、荒俣育代、片山杜秀、鈴木敦史、宮岡博英、池尾拓、中野和雄、板倉重雄、渡辺和彦、米田栄(以上敬称略)等、ニューエイジ(かどうか面識ないけど)、いわゆる旧態とした日本の「音楽評論」に異を唱える面々の過激な一冊。洋泉社って、けっこうこういうパターンの本が多くて、楽しませていただいております。

 正直言って、読んでいてじつに据わりの悪い、集中できない本でした。内容のことじゃないんですよ。あちこちに〜そうとうにたくさん〜ちりばめられている「漫画」(いとうしんじ画)は、ものすごくヘタクソ。ワタシゃ、あんまりアニメ系には興味がなくて、いまどきの水準はわからないけど、線も雑だし、登場する指揮者もぜんぜん似てないし、字も汚い。内容も(いろんな逸話を集めたんだろうけど)表現も稚拙。ま、素人ワザですね。お金出して売るようなプロの仕事じゃない、というより、本のジャマ、全部削除していただきたいくらい。(いしいひさいち、や、やくみつる、の至芸の爪の垢でもせんじて飲め)

 それをガマンすれば(ガマンできないけど)、読みどころは多くて、ワタシ(みたいな音楽ファン)への批判もちゃんとある。曰く「俺はメジャーじゃない。でも、それのどこが悪いんだ?本当のところ、マイナーなものこそ価値があるんだ。みんな気付いてないけどね。」「マイナーであることは、大衆から優越したエリートであることの証であるかのような、理解されない天才を演じるのが、この種の人々の常である。」・・・・な〜るほど。「これは皆が知らないけれど、とてもよいのだ」は「これは皆がよいと言うからよいのだ」の裏返しであった、と。

 CDが、安くなって大量に輸入される。「音楽評論家諸氏が築いてきた虚構の体系が、薄っぺらな広告看板、恣意的・政治的な宣伝に過ぎなかったことが歴然となる」・・・・・そうだな、そうかもしれないな。虚構、とは思わないけれど、世代論や経済発展のせい(そりゃ、LPが超贅沢品であった時代と、中古CD6枚1,000円の処分、では聴き方も変わるでしょう)で、音楽のありがたみは薄れているかもしれない。でも、ワタシは「無名でも安物でも音楽は感動できる」ことを単純に発見しただけだと自覚しているんですが。(「<邪悪>という倫理」)

 クラシックのCDが売れない現況。うわさには聞いていたけれど、売れ筋でも1,000枚いかないらしい。それで、日本における西洋音楽の受容と、旧御三家(フル・ワル・トス)〜新御三家(カラ・ベム・バーン)隆盛時代のDGの戦略。巨匠時代の終焉と最近の混迷はご存じの通り。録音では、むしろ傍流だった面々が注目を集めているのはその反動でしょうか。(「クラシックの首を絞めるものたち」)

 以上二つの論文が、この本の哲学的、歴史的概論を形成していて、あとは実例編だからグッと読みやすい。「巨匠と名匠」との違い、後者ではワルベルクとシュヒターを例として挙げているのは感慨深いもの。「コンクールが技術偏重を生み出した」という、ありがちな論評の根拠のなさ、一方でコンクール入賞くらいでは飯が食えなくなっている厳しい現状もリアル。

 「ライナー・ノーツ」の件。これはかねがねワタシが思っていたことそのまま。CD屋さんでの、売場の(笑うに笑えない)やりとり。(とんでも・クレームとか万引き〜やっぱりね)クラシックCD・バイヤーの狭い世界と、外資系ショップの価格変遷はここ数年疑問に思っていたことが氷解する思いでした。

 内容は相当に「濃い」。超下品イラストをすべて省いて文庫化して欲しいですね。必ず買います。


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written by wabisuke hayashi