樋口 隆一 「バッハ」新潮文庫 1985年発行 400円 新潮文庫でのシリーズから。いまでも出ているのでしょうか。数冊手元にあります。以前は真面目だったなぁ、「音楽を聴くにはそれなりの基礎知識もないと・・・」なんてね、一生懸命読んだものです。ここ最近、このHP更新はちょっとお疲れ気味で、ネタ切れを反省して取りだした本。 樋口隆一さんは、1990年前後にNHK-FMでバッハのカンタータの解説をしていたような記憶があります。ま、正直言って、専門用語がほとんど理解できなかったが、独特の柔らかい口調がやさしく、エア・チェック・テープでずいぶんと新しい曲を知ったものでした。懐かしい。 バッハの生涯、親類一同の詳細説明、年譜、現存している関連施設の美しい写真、どれも文句なしにわかりやすく、何度も読んだのに、知っている逸話ばかりなのに、感心し、感動する。兄に隠れて屋根裏で音楽の勉強をしたこと。若き日、アルンシュタットのオルガニスト時代の大喧嘩とか、ブクスデフーデとの出会いで彼の作品が「前衛化」した(有名なトッカータとフーガ ニ短調 BWV565、ほかアルンシュタット・コラールBWV715,722,726,729,732,738)こと。聴衆はとまどいを隠せなかったとのこと。 ま、村の盆踊りにロック・バンドの即興演奏を入れたようなもんでしょうか。いつの世も若者は過激でなくてはいけない。たしかに、トッカータとフーガ ニ短調は今聴いても衝撃的だし、聴いたことのないアルンシュタット・コラールも思わずCDを取り出したくなりました。(Stockmeierの20枚組全集。Art&Music CD20.1539-58 5,990円で購入。これが全集では一番安い)これが素敵な本との出会いのチカラ。 で、こんな逸話を順繰りに取り上げても仕方がないので、とくにこの本ならでは、というところを紹介しましょう。10人の学者、演奏者による「BACHへの思い」が挟まります。指揮者の小泉和裕さんが「アウフタクトの一瞬」という一文を寄稿されていて、「BACHの音楽は最初のひと振り(アウフタクト)ですべてが決まってしまう。途中で修正できない。」と。「いったんその曲に相応しいテンポと呼吸でスタートできれば、その楽句の呼吸法さえ的確にしておれば、技術的な問題はない」。 「バッハの音楽は二次的なもの(刺激や興奮を求めたもの)ではなくて、人間にとって根元的なもの」という言葉は、日頃バッハの音楽に対するワタシの思いを表現してくれていて、目の前が開けるようでした。 じつはこの本、ワタシにとっては実用的なものでして、カンタータの題名を調べているうちに再読したもの。シュライヤーの8枚組のカンタータ集をを買いました。(CCC 000151 2CCC 2,190円)いつもながらなんの解説もないBOX。どれもいきいきと生気に溢れていて、シュライヤーとかマティス、ローレンツ、ハマリ、アダム、なんていうワタシみたいな声楽には暗い人間でも知っている立派な歌い手が共演しています。トランペット(きっとギュートラー)の輝かしい音色にも痺れました。 でも、ドイツ語ばかりで題名さえわからない。このさい、歌詞はあきらめるとして、せめて題名だけでも、と取り出したのがこの本で、BWVの番号で題名と年代がわかるんですよ。ありがたい。 良い音楽の本は、行間から音楽がきこえてくるし、また、得た知識の中でまた音楽が聴きたくなる。(ん?これ、お酒の宣伝に似ている)そんな小さな本でした。 部屋には、まだオルガン曲が流れています。
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