Bach 「音楽の捧げもの」BWV1079(アストン・マグナ)


CENTAUR CRC2295 Bach

音楽の捧げもの BWV1079
フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035
「ゴールトベルグ変奏曲」のベース・ラインによる14のカノン

ダニエル・ステップナー(芸術監督) アストン・マグナ(バロック・フルート、バロック・ヴァイオリン、バロック・ヴィオラ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、フォルテ・ピアノ)

CENTAUR CRC2295 1995年録音  700円で(これは中古)購入

 不朽の名盤と評される、カール・リヒターの演奏(1963年)を聴いたことを機会に、このCDの存在を思い出しました。結論的にBach の魅力は演奏スタイルを問わない、という自明の理だけれど、謹厳実直この道一筋的集中力に対して、こちら古楽器による軽快で奥床しく、ゆらゆらと秘めたる嘆きの色濃い別種の個性がありました。

 三声のリチェルカーレ/六声のリチェルカーレはフォルテ・ピアノのソロ(ジョン・ギボンス)で表現されます。チェンバロと異なって、素朴ながらもっと表情が豊かで、響きに芯があってアンサンブルのキモとなっておりますね。「ゆらゆらと秘めたる嘆きの色濃い」と(先ほど)書いたが、技術的にまったくスムースであり、さらり粛々と流れて「濃い」演奏はありません。クールな佇まいが結果として「ゆらゆらと秘めたる嘆きの色」として表出される、ということです。

 クリストファー・クルーガー(fl)はノン・ヴィヴラートで無垢な響きを実現しております。これはほとんど”能面が影で表情を変化させる”世界に近くて、微妙でジミな、しかも深い世界であります。弦楽器群の流麗なる技量にも舌を巻くばかり。全体として、軽快で切れあるなリズムを基調として、静謐な世界を作り上げております。ラスト、「鏡のカノン」は消え入るよう・・・

 フルート・ソナタ ホ長調 BWV1035は、そのジョン・ギボンス(fp)/クリストファー・クルーガー(fl)によるものであり、上記演奏の魅力となんら変わるものではありません。自在なる技巧を誇り、淡々と抑制されたフルートと、しっかり芯のある通奏低音。「14のカノン」はBWV1087でしょうか。全員参加によって、さらさらと快速で過ぎ行き、消えてしまうような作品であります。(ルドルフ・ゼルキン(p)が1976年、マールボロ音楽祭のメンバーと「アリア」も含め約20分掛けて演奏しております。こちら「アリア」抜きとは言え、わずか5:31也)

(2006年8月25日)


 バロック音楽ほど、ここ30年くらいで演奏スタイルが一変したものはないでしょう。ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの類は、一時ほど「古楽器でなくては・・・」といった風潮でもなくなって、大時代的で超個性的な演奏の人気はぶり返してきている感じ。

 ワタシが子供時代人気だった有名室内オケも浮沈が激しくて、いまでもCDが売れているのは「イ・ムジチ」くらいかな。(これとて、昔とはなんとなく意味あいが違うような)録音活動だけで活躍は評価できないのは当たり前ですが、シュトゥットガツト室内管とかミュンヘン・プロ・アルテ室内管、そして大御所パイヤール室内管も最近は活躍しているイメージはありません。(けっこう来日していたり、演奏会はしているのかもしれませんが)録音用オケだったと推察される「コレギウム・アウレウム」も、かつては衝撃的だったのに、いまではその折衷主義的な演奏スタイルが中途半端で、廉価盤の音源に。(個人的には好き)

 80年くらいから次々と出てきた「古楽器オケ」の評価も揺れていて、難しい。エンシェントは最近さっぱり新譜が出ないし、イングリッシュ・コンサートも、CDの出方を見るとかつてほど元気はない感じ。ターフェルムジーク・バロック管も、期待されたほどの系統的な録音に至らず。ま、これは全体的に不況で録音が盛んでなくなっただけかも知れません。で、つぎつぎと新しい団体が出てきて、もう覚えられないくらい(これは老人力?)。

 閑話休題。

 「音楽の捧げもの」はワタシのもっとも好きな曲のうちのひとつ。とくにトリオ・ソナタ。「ベスト云々」の特集ではリヒター盤が不動の地位を誇っていて、それはそれで納得(ワタシもCD所有)。学生時代だったかな、FMでルツェルン音楽祭の演奏を放送していて、ニコレの禁欲的で深々としたフルートに痺れていたものです。

 その後、クイケン・カルテットの来日時のFM放送をカセットに録音して、ずっと愛聴していました。(いまでもあるはず)古楽器が出始めの頃、フラウト・トラヴェルソの鄙びた音色は一発で気に入ったけど、バロック・ヴァイオリンの音色の汚さにはちょっと閉口していたこともあって、シギスヴァルト・クイケンで開眼した思い出も今は昔。

 「Music fron Aston Magna」は、個人輸入で数枚格安で手に入りました。USAの音楽祭の団体のようで、(いまや当たり前ですが)技術的にはそうとうの高水準で、楽しめます。録音も極上。ジョン・ギボンズというひとがフォルテ・ピアノを弾いていて、チェンバロより表情が豊かで楽しめます。フルートも地味ながら洗練されていて、全体としてすっきりとした演奏ぶり。昨今の激しいリズムや、驚くような強弱は見られなくて、静謐さを感じさせますね。集中力は一流。

 かといって、大人しすぎるようなつまらなさでもない。肩の力が抜けた、流れのよい演奏でしょう。オーソドックスで好き嫌いは少ない演奏かも。「クリティカル・エディション」とか、「これがほんとうのBach だ!」みたいな「リキみ」は好きじゃなくって(わからないのが本音)、本当の時代の音はタイム・マシンの力を借りないとわからないはず。その時々の演奏スタイルの流行は、素直に楽しみたいもの。

 Bach の魅力は、どんな演奏スタイルでも、使用楽器でも揺るぎません。現代楽器、大編成のマルケヴィッチによる演奏も好きですし、シェーンベルクの「六声のリチェルカーレ」も大好き。


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written by wabisuke hayashi