Mozart 交響曲第39番 変ホ長調K.543
(ハンス・グラーフ/ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団)


CAPRICCIO 49 288  13枚組2,817円

Mozart

交響曲第39番 変ホ長調K.543
交響曲ヘ長調 K.19a
交響曲イ短調 K.Anh.220 (16a)「オーデンセ」
交響曲ハ長調K.208/102(213c)

ハンス・グラーフ/ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団

CAPRICCIO 49 288 13枚組2,817円

 Mozart は21世紀を迎えてほとんど古楽器による録音が主流となりました。同時に廉価盤の時代となって、かつて贅沢品であった全集!も市井のサラリーマンが日常入手できる価格へ〜音源入手も聴く機会も難しかった初期交響曲だって、こうして自由自在に堪能できる時代へと至ったのは僥倖とすべきなのでしょう。これは現代楽器による、オーソドックスかつ要らぬ虚飾を脱ぎ去り、作品そのものを味わう演奏として日常座右に置くべき価値有、と思います。

 著名な後期作品と、馴染み薄い初期作品との組み合わせも配慮あるもの。さて演奏は〜

 変ホ長調交響曲K.543の立派な序奏より、実直であり、力まず、そしてテンションの不足とも感じさせないバランス感覚。サウンドは地味で、艶光りするものでもなし。主部に入っても落ち着いた味わいはそのまま、徒に疾走せず、かといってダルな勢いではない。ニュアンスは細かく、メリハリ充分溌剌として、でも指揮者の主張を前面に出したものではないんです。安心安定、真面目実直、耳目を驚かすべき爆演とは無縁だけれど、シミジミ味わい系の静かな感銘が飽きさせない演奏。繰り返しちゃんと実行して下さって、ワタシはほっとしちゃうんです。

 オーケストラの技量は安定して、よく整ったアンサンブル、上手いオーケストラだと思いますよ。刺激的な響きとか、濁りとは無縁、これは適度な残響と、空間奥行きを感じさせる録音も幸いしているでしょう。第2楽章「アンダンテ」も一聴淡々としているようだけれど、じつはリズム感がけっこう弾んでいるんです。

 この作品のキモは第3楽章溌剌「メヌエット」だと思います。アーノンクールの洗礼を受けてからかな?やたらと元気よく叩き付けるようにリズムを刻んで、トリオのクラリネットで牧歌的雰囲気を強調する、そんなイメージになったのは。あくまで中庸なテンポ、バランスよく、やや優等生的に仕上げているのがグラーフの個性でしょう。終楽章「アレグロ」はやや速めのテンポにてきりりと締め括っております。けっして喧しい印象を与えない、作品前面、指揮者の個性を優先しない39分間でした。

 こういうのが一番飽きが来ないもんですよ。まさに座右に置くべき”リファレンス”(参照の基準)也。

 残りは馴染み薄い初期作品であって、ヘ長調交響曲 K.19aは1981年に発見初演された、意外と最近の発見作であります。屈託のない軽快軽妙なる嬉遊曲のテイスト溢れる楽しさ。この頃から、ちゃんと(お約束)”暗転”〜短調に崩れゆく彼の世界が出現しております。イ短調 K.Anh.220 (16a)交響曲「オーデンセ」は1982年の発見はけっこう話題となって、当時やたらとFMにて放送され、おかげで細部旋律まで馴染んだ短調の美しい作品であります。新全集では偽作扱いであって、9歳の作品としてはあまりに劇的ほの暗い旋律であるし、ちょっとMozart の個性と違う印象もあります。ま、名曲は名曲に間違いなし、たっぷり愉しみました。

 ラスト、ハ長調交響曲K.208/102(213c)は歌劇「羊飼いの王様」K.208の流用であって、これぞ正真正銘(先入観抜きに)”嗚呼、Mozart !”と確信させる沸き上がる感興であります。ハンス・グラーフは、おそらくは初期作品に於いて、いっそう誠実なメリハリを誇って個性が似合っていると思われます。3楽章途切れず、連続して演奏されるシンフォニア・・・ワタシはJ.C.Bach にクリソツだと思うですが。木管がほんまに美しい。

(2010年6月20日)

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written by wabisuke hayashi