Mozart ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノーム」/第14番 変ホ長調K.449
(アルフレッド・ブレンデル(p)/
アントニオ・ヤニグロ/イ・ソリスティ・ザグレブ1966年録音)


BRILLIANT 99352 (6枚組) VANGUARD録音 Mozart

ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノーム」
ピアノ協奏曲第14番 変ホ長調K.449

アルフレッド・ブレンデル(p)/アントニオ・ヤニグロ/イ・ソリスティ・ザグレブ(1966年)

BRILLIANT 99352 (6枚組) VANGUARD録音

 ワタシは1970年代に学生時代を京都で過ごして、中古屋にて見掛けた(たしか)1,200円〜咽から手が出るほどこのLPが欲しかったのも佳き思い出。アルフレッド・ブレンデルは既に2008年、この「ジュノーム」演奏をラストに引退しております。おそらくは4種ほどあるはずの、一番最初の録音也。PHILIPS以前の録音を集成した35枚組も欲しいところだけれど、あまりに既存ダブりが多くて手が出ない・・・せめて、手許にあるCDをしっかり愉しみましょう。これはたしか10年ほど前に入手したもの。

 録音が優れていること、往年の名手アントニア・ヤニグロのオーケストラは洗練され、素晴らしく繊細なバックを務めていることを特筆しておきましょう。彼はチェロの名手だけれど、ザグレブでこんな立派な室内アンサンブルを率いていたことは、既にほとんどの人に忘れ去られたことでしょう。残念。

 「ジュノーム」は女流が得意とする作品だけれど、ブレンデルは知的で、粒の揃った底光りするピアノで聴き手を魅了します。当時まだメジャーレーベル・デビュー前の35歳、中庸で落ち着いた味わい、細部迄ていねいに仕上げた完成度は驚くべきもの。後年の再録音再々録音に比べ、あらゆる意味で遜色はありません。冒頭オーケストラの呼びかけに応じていきなり、ピアノがソロで登場します。華麗なる幕開け。もともとヴィクトワール・ジュナミ(Victoire Jenamy)嬢のために作曲されたとのこと、女流が似合う華やかな作品でしょう(クララ・ハスキル、リリー・クラウス・・・)。ブレンデルは愉悦に不足はないが、仕上げが緻密であって、中庸なテンポ、端正なる佇(たたず)まいを崩さない。白磁の輝きのようなしっとりとした落ち着きと艶有。

 第2楽章「アンダンティーノ」は物憂げな悲劇であり、ブレンデルはウェットではなく、たっぷりとクリア豊かな音色、ゆったり涼しい表情にて余裕の歩み。ヤニグロのオーケストラは朗々と歌って、ピアノともどもゴージャスであります。終楽章「ロンド」は一転、晴れやかな旋律は玉を転がすような魅力的な勢いに充ち、興が乗っても額に汗が浮かばぬクール。途中から最後に向かって、名残惜しくテンポを落として、夢見るような歩みのメヌエットは絶品!洗練もここに極まって陰影豊か!と評したいソロとバック。

 やがて破顔一笑、晴れやかなテンポに戻って優雅なラストを迎えました。

 変ホ長調協奏曲K.449は、弟子のひとりであったバルバラ・フォン・プロイヤー嬢のために作曲された、とのこと。ウキウキと屈託のない旋律は「ジュノーム」よりシンプルでであり、ブレンデルは知的で、粒の揃った底光りするピアノであることに変わりはない。テンポが徒に揺れたり、情感が波立つこともない、粛々と流れの良い音楽が走ります。第2楽章「アンダンティーノ」も穏健な表情の旋律であり、安寧の風情漂う飾りのなさ。イ・ソリスティ・ザグレブの弦は絶品。ピアノはそっと囁くようにデリケートであります。

 終楽章「アレグロ」も剽軽なリズムが軽妙であり、ピアノはあくまでクール、抑制が利いております。響きはけっして濁らず、高音が刺激的になることもない。淡々として、やがて静かに聴き手に熱を伝えました。

(2010年10月1日)

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written by wabisuke hayashi