Mozart ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調K.482/
第23番イ長調K.488/ロンド イ長調K.386
(イングリット・ヘブラー(p)/ロンドン交響楽団)


PHILIPS UCCP-9001 Mozart

ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調K.482(コリン・デイヴィス)
ピアノ協奏曲第23番イ長調K.488(ヴィトルド・ロヴィツキ)
ロンド イ長調K.386(アルチェオ・ガリエラ)

イングリット・ヘブラー(p)/ロンドン交響楽団

PHILIPS UCCP-9001 1965-66年

 ユルいサラリーマン生活も最晩年に至って更にユルく、老後の半引退日常に至っております。若い頃一生懸命集めたLPは贅沢品、その思い出から抜けられず、CDは大多数処分しても、パブリックドメインに至った音源をネットから日々入手して思い出に浸る生活・・・Ingrid Haebler(1926ー墺太利)は往年のMozart弾き、写真だけど別嬪さんでしたよ。エエとこの奥様みたいな雰囲気、録音当時40歳そこそこ、現在もご存命らしい。久々の拝聴は中低音が充実して余裕のPHILIPS録音、しっとりと落ち着いて美しいピアノは記憶どおり。Colin Davis(1927ー2013英国)も同世代、Witold Rowicki(1914ー1989波蘭)は10歳ほど上、Alceo Galliera(1910ー1996伊太利亜)という伴奏の顔ぶれも渋い実力者を揃えました。ピアニスト以外皆鬼籍に入ってもオーソドックスな演奏は現役。

 Mozartの協奏曲は1990年代にクリスティーネ・ショルンスハイム辺り、力強い古楽器演奏に出会って、さらにマルコム・ビルソン全集はジョン・エリオット・ガーディナーの雄弁な伴奏に驚き!しばらくそちら方面ばかり聴いていた時期もありました。やがて一周りしてモダーン楽器演奏も各々個性が気軽に愉しめる、そんな時代がやってきております。LPCDが高価だった頃には”唯一無二の存在”論議も盛んだったけれど、現在はダイバーシティ(多様性)でっせ、大切なのは。

 変ホ長調協奏曲K.482は、次のイ長調協奏曲K.488と同じ頃1785年の作品。両作品とも楽器編成にオーボエを欠いてクラリネット2本が入る珍しいもの。第1楽章「Allegro」闊達な管弦楽の始まりは2:14、やがてホルンやクラリネットの天上の声に支えられ、淡々とソロが入って語り合います。例の床しい暗転も陰影深く、可憐に清潔に音楽はほほえみ浮かべて進みます。(12:38)第2楽章「Andante」一転、静謐な悲しみに充ちた緩徐楽章へ。ピアノはデリケートに嘆いて、途中管楽器のみの間奏は絶品!これは我らがヴォルフガング中でも傑作中の傑作、それが過ぎるとピアノはいっそう色彩を帯びるところ。その対比が素晴らしい聴きどころ。(9:40)映画「アマデウス」の朝帰り場面に記憶が結びついた第3楽章「Allegro」なんともノンビリとした気怠い明るさが最高。激しい超絶技巧!とは無縁だけど、ピアニストには上手い下手がもろに出てしまうのがMozartの恐怖とのこと。ゆったり名残惜しく振り返るような中間部絶品、しっとり落ち着いた、バランス演奏を堪能いたしました。(11:32)

 イ長調協奏曲K.488はニ短調協奏曲K.466と並んでピアノ協奏曲中の人気作品でしょう。自分にはお気に入りの優劣など付けられません。第1楽章「Allegro」ロマンティックに優雅な甘い主題が印象的な導入(ソロ登場まで2:06)同じ旋律をそっとなぞって愉悦に充ちて軽快、ほんのり暗転もしみじみ美しい楽章でした。(10:57)第2楽章「Romanze」は一番人気、いきなりの寂しげなピアノのモノローグ、メランコリックな絶望の深淵に打たれるもの。それに呼応する管弦楽も優しげ、これはシチリアーノのリズムなんだそう。(6:29)第3楽章「Rondo;Allegro assai」は一転、快活な疾走もあわてず、上品な佇まいを崩さぬヘブラーのピアノ。管弦楽の優雅な響きはロヴィツキの統率が一番と感じました。(8:31)

 イ長調ロンドK.386は3年ほど前1782年の作品。こちらオーボエ2本、ホルン2本、ティンパニもありません。Mozart時代の演奏会は交響曲協奏曲各楽章ばらばら、途中に必ず歌が入る構成、そんな一部だったのかも。ドラマを感じさせる、短い時間に感情が動く珠玉のピアノ、優雅に晴れやかな逸品であります。弾むようにリズミカルなガリエラの伴奏もお見事、この人は協奏曲伴奏の名人でした。(8:11)

(2021年6月12日)

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written by wabisuke hayashi