Mozart ピアノ協奏曲第20番
Beethoven ピアノ協奏曲第3番(ケンプ)
Mozart
ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466(1941録音)
Beethoven
ピアノ協奏曲第3番ハ短調 作品37(1942年録音)
ケンペン/ドレスデン・フィルハーモニー
ピアノ・ソナタ第24番 変ホ長調 作品78(1932年)
ケンプ(p)
History 20.3163-306 40枚組 5,990円で購入したウチの一枚
「この演奏にはギヴ・アップ。技術的に切れる訳じゃないけど、ゆらゆら揺れるテンポ、燃える情熱(Mozart のロマンツェ中間部!)で、とにかく雰囲気タップリでマイリました。あちこちに細かい仕掛けがあって、フツウにやればわざとらしいはずなのに、説得力は比類なし。針音たっぷりだけれど、音質は気にならない演奏。バックも良いですよ。数日間聴いて、HP原稿を断念!って、とにかく聴いてみて。何も書けない自分がなさけない。」
こうCLASSIC ちょろ聴きに掲載したのが2002年2月19日〜光陰矢の如し。ウィルヘルム・ケンプ(1895-1991)は、巨匠としての評価が高かったし、1960年代DG看板ピアニストとして、Beethoven を中心に多く録音が残されました。最晩年の録音は、速いパッセージで技術的にやや怪しい感じも散見されるけど、そんな些細なことはどーでもよくて、淡々と静かな味わい系の極北。
ワタシはリヒテルのファンで、硬質で叩きつけるようなタッチが大好きです。でも、乱暴じゃない。弱音でも緊張感が途切れないし。なんやらケンプって、その対極にあるようで、ぜんたいホンワカとして、えもいわれぬ”暖かさ”を感じさせました。この有名なるMozart のト短調協奏曲だって、わざとフォーカスの甘いような美しい風景写真みたいで、しっとりとした朝霧に遠景が浮かび上がる・・・風で、なんともやさしい。
大柄なスタイルではなくて、粛々と、リキみなく音楽は進みます。どこかしこ、そっとつぶやいているような繊細さ。ケンプ未だ40台中盤〜技術的な衰えはないし、カデンツァで思わぬ劇的な感情の表出もあります。淡彩で、地味な演奏だと思うけど、浪漫的とはこういうことか。ケンペン/ドレスデン・フィルのバック共々これほど気持ちの良い、静かな気持ちで楽しめる演奏も珍しい・・・
1961年に彼はライトナーとBeethoven 協奏曲全集を完成(ステレオ)しているし、モノラル期にケンペン/ベルリン・フィルとの全集があったはず。このSP録音はそれより更に前のもので、ま、ケンプ得意中の得意、十八番(おはこ)ということなんでしょう。ワタシは5曲のピアノ協奏曲を苦手としていて(交響曲も!)CDを売り払ったことも再々。
このハ短調協奏曲の演奏にも威圧感はありません。細部まで大切に、そっとやさしく旋律の流れを導いているようで、静謐そのもの。だから、時に見せる決然たる表情も活かされます。うん、こんなBeethoven だったら良いじゃない。滋味深い、ってこんな感じか。しかもBeethoven に不可欠なる堂々たる構成感に不足はない。
ワタシは「カデンツァ」は誰それの作曲、なんて全然わかりません。(不勉強で)ここでは”一発ぶちかまし型”ではなくて、高級素材を活かして薄味で上品に・・・風説得力か。ラルゴの切々たる訴え(囁くように、静か〜に)は類を見ないし、やっぱオーケストラがヨロシなぁ、器用じゃないというか、硬質でガンコというか。
終楽章って、ギンギンにラッシュする楽章でしょ?ずいぶん、ゆるりというか、やさしい表情で淡々と進めていただきました。こういうBeethoven も威圧感がなくて好きだな。軽やかだけれど、テンポはけっこう遅い。推進力がないわけじゃなくて、重くはなくて、ていねいに仕上げております。
針音もかなりあるSP録音だけれど、聴きやすい音質ですね。余白のソナタはわずか6分ほどの小曲だけれど、可憐で明るくて、ちょっと陰りも哀しくて、珠玉の美しさ。(2004年1月1日)