Mozart ピアノ協奏曲第20/21番
(ゼルキン(p)/アバド/ロンドン交響楽団)
Mozart
ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K466(カデンツァはBeethoven )
ピアノ協奏曲第21番ハ長調 K467(カデンツァはゼルキン)
ゼルキン(p)/アバド/ロンドン交響楽団
DG GCP-1029 1981/82年録音 250円(中古)で購入
次の原稿はKalinnikovかDOULAND辺りで・・・・なんて思っていたのに、昔馴染みの曲なんて・・・・と我ながら安易で申し訳ない。でも、この録音、ここ最近すっかり忘れられていませんか?ルドルフ・ゼルキンは最晩年DGでMozart 全集を目指したが、たしか完成を見ずに亡くなったはずでは・・・?(記憶曖昧)1991年5月8日没。88歳。だからこの演奏は80歳近い頃の録音となります。
この演奏、発売直後から気になっていた演奏で、ゼルキンのピアノの味わいが並じゃないんです。ようやく安く売っていたので、喜んで手に入れてみるとこれは記憶以上の価値と評価したいところ。まず、アバド/LSOのバックがすばらしく奥ゆかしくて、気品漂うアンサンブルでした。地味な弦、木管は控え目でありながら色気も漂うやさしさ。これほどのMozart のバックは久しく聴いたことがない。
ゼルキンのピアノの枯れ方がなんとも言えません。やや技術的にはアヤしいが、カッチリ表面を整えただけの演奏とは雲泥の差で、Mozart の旋律に感じ入って、じっくり味わい尽くしているような世界。淡々としてリキみはないし、テンポもやや遅めでしょうか。ニ短調協奏曲は、思わずデモーニッシュさを強調したくなるが、これほど押しつけがましさを感じさせない演奏も珍しい。
そうだなぁ、ワタシの一方的な思い込みだけれど、シゲティの味わいに近いかも。ニ短調協奏曲は、カッコ良い演奏じゃないですよ。スピード感も勢いも弱まっているが、この爺さんは最後まで応援してあげたい。ロマンツェはシミジミと胸に迫るが、終楽章のもたつきを気になさる方はいらっしゃるでしょうね。個人的には、ゆったりとした呼吸を感じます。
ハ長調協奏曲は名曲です。(というか、17番以降はすべて!ほかにも素敵な協奏曲はいっぱいある)ゼルキンのピアノは、もう美音とはいえないが、くすんだ懐かしさが漂います。テンポが微妙に揺れます。絶対に走りすぎない。この曲、夢と希望に溢れて溌剌と若々しい演奏が似合うと思うが、まるで小さな孫たちが無心で遊ぶのを見つめる老人の視点のように聞こえます。
アバドは慈しむように、そっとソロを包み込んで繊細。出しゃばりすぎの濃厚さ皆無で、LSOのワザも光ります。第2楽章アンダンテ「短くも美しく燃え」(嗚呼、これ美しい日本語)が、こういった演奏の体質にあっていることは想像付くでしょ?ポツリポツリのシンプルな旋律を黄金に変えるマジックは、人生の荒波をくぐったヴェテランにしかできないのでしょう。エキセントリックなところはどこにもないのに、ひとつひとつの音が、驚くべき説得力で表現されました。
「聖なる演奏」〜なんども聴いて、なんど聴いても美しく感動する曲。ゼルキンは、また別の曲を聴かされるかのような鮮度でした。終楽章の軽やかさは、肩のチカラが完全に抜けて、なんとも暖かい〜まるで満開の桜が散る木の下で、過ぎ去った楽しい思い出を回想するかのような切なさ。(2002年4月26日)
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