ヴィトルド・マルクジンスキ(p)(1963年ロカルノ・ライヴ)


DOCUMENTS/membran(AURA)  223603-CD8 10枚組1,770円にて購入したウチの一枚
Brahms

間奏曲変ホ長調 作品118-6
ラプソディ ト短調 作品79-2

Beethoven

ピアノ・ソナタ第23番ホ短調 作品57「熱情」

Chopin

夜想曲第13番ハ短調 作品48-1/ バラード第3番変イ長調 作品47/ マズルカ第15番ハ長調 作品24-2/ マズルカ第17番変ロ短調 作品24-4/ スケルツォ第3番嬰ハ短調 作品39/ マズルカ第45番イ短調 作品67-4/ ワルツ 変ト長調 作品70-1/ 練習曲ハ短調 作品10-12

 ヴィトルド・マルクジンスキ(p)

(1963年3月13日スイス・ロカルノ/聖フランチェスコ教会ライヴ)

DOCUMENTS/membran(AURA) 223603-CD8 10枚組1,770円にて購入したウチの一枚

 ヴィトルド・マルクジンスキ(1914〜1977年)は往年のポーランド出身のピアニストでして、1960年前後EMIに録音が残っております。が、既に忘れ去られた存在でしょうか。ワタシの世代でもほとんど聴く機会(もちろん録音)を得ませんでした。旧ERMITAGEやAURA盤でも出会っていなくて、このボックスセットで初耳〜音質、演奏とも印象深い立派なものであることに気付きました。作品収録も配慮有。

 ネットで検索すると”情熱的で詩的な演奏が特徴”とのことだけれど、激しく燃えるような灼熱演奏を連想したら、それは少々異なるでしょう。Brahms は非常に静謐に、そっと繊細に開始され、モノクロの世界が深遠です。いつ聴いても”中年の寂寥”(寂しい背中)を連想させる、鬱陶しくも地味、そして共感に充ちた作品。マルクジンスキは(もちろん)流麗方向表現ではなく、でもごつごつした無骨でもない、もっと自然な流れのあるもの。

 Beethoven 苦手のワタシは(残念ながら)ピアノ・ソナタでもそれは例外じゃないんです。聴く機会は少ないが、”熱情”はリヒテルの”鬼神のような!”それこそ”叩き付けるような情熱!”〜カーネギーホール・ライヴ(1960年)が念頭にあるんです。(かつてFMで聴いた劣悪録音)その印象に比べると、バランス良く、芯はしっかり、リラックスして流れの良い、威圧ではない”詩的な”演奏に仕上がっております。終楽章のラッシュが強烈な作品だけれど、あくまでリリカルで響きは濁らない。演奏会の一部として、このようなスタイルだったらBeeやんだってたっぷり愉しめちゃう。

 ラスト”十八番(おはこ)の”Chopin 集となります。どれも独特のリズムの揺れ、タメ、間があって”ちょっとだけアクのある、クサい(?)”演奏です。時に若手に見られる上手いけど、味がない凡百演奏とは正反対の世界であって、味わい深いもの。当時59歳、細部技術的な甘さや、弾き崩しはありません。自信に溢れた節回しがどれも決まっていて、甘美な旋律をむしろ男性的に、陰影豊かに歌い上げて陶然としました。艶やかなる美音ではないが、ワルツ 変ト長調の”名残惜しい力の抜き方”なんて名人芸でしょう。聴衆を(ワタシも)うっとりさせて、各曲拍手も盛大。

 ああ、久々にピアノ・ソロでエエのん聴いちゃったな。作品配置も絶妙です。(暗〜激〜華へ)ラスト練習曲ハ短調「革命」が、聴衆の拍手収まり切らぬうち一気に、激しく開始される臨場感が伝わりました。心のこもった”ブラーヴォ”有。

(2008年3月7日)


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written by wabisuke hayashi