Mahler 交響曲第3番ニ長調
(アンドルー・リットン/ダラス交響楽団)


Delos DE3248 Mahler

交響曲第3番ニ長調

アンドルー・リットン/ダラス交響楽団/ナタリー・シュトゥッツマン(con)/ダラス交響合唱団女声セクション/テキサス少年合唱団

Delos DE3248 1998年

 ギネス級の大曲はわかりやすい旋律に溢れて大好き、長丁場もあっという間に過ぎ去ります。Andrew Litton(1959ー亜米利加)はエドゥアルド・マータの急逝を受けてダラス交響楽団の音楽監督1992-2006年在任。その後ベルゲン・フィルに転身して2015年に降りてから以降の動静が伺えません。手堅い表現のイメージのある人、彼の大曲Mahlerは初耳?Delosレーベルの音質に恵まれました。ほか第2番「復活」/第4番/第5番/第10番の録音も存在します。1960年頃の記憶では荒っぽく元気なイメージのサウンドも、思わぬしっとりとしたオーケストラの響き、端正なアンサンブルに驚いたもの。Indexは詳細を極めた分割となっておりました。(だからタイミングは面倒で拾えない)四管編成+多種多様な打楽器+ハープ2台+女声ソロ+合唱団が加わる巨大な編成作品。

 第1楽章「力強く、決然と (Kraftig. Entschieden.)」冒頭の力強いホルン強烈ぶちかましから、力みとか前のめりの表現に非ず、余裕のしっとりサウンド、適度な力感にスケールは大きいもの。この辺り、広がり奥行きたっぷりに音質が重要なポイントでしょう。金管は素晴らしい技量だけど、トロンボーンなどわずかに音色がオモロない感じ。木管によるデリケートな行進曲は低弦のリズム感に支えられてしっかりとした歩み、やがて金管や打楽器は分離よろしく明晰に爆発して高揚、迫力は充分でしょう。延々とメーデーの行進の熱が高まってちょっと軽量に走り過ぎ、隊列混乱は小太鼓が隊列を立て直す〜そんな風情の対比は弱くて、誠実に整った演奏であります。ラストもちょっとテンポアップの意味深さは弱いかも。

 第2楽章「きわめて穏やかに (Tempo di Menuetto. Sehr masig. Ja nicht eilen!)」の落ち着いて朗々、ユーモラスに懐かしい風情、細部解像度よろしく、テンポは中庸。途中たっぷり名残惜しいテンポの揺れも優雅、時に出現するテンポ・アップにはやや軽さを感じました。ここもオーソドックスに誠実素直な演奏でしょう。第3楽章「急がずに (Comodo. Scherzando. Ohne Hast.)」は寂しげな出足からデリケート、やがて華やかに爆発するスケルツォ。その爆発はいまいち羽目の外し方が弱い、ここも生真面目さが顔を出してスケールは大きくない感じ。途中テンポの極端な落とし方はワザとらしく、ポストホルンがいまいち浮き立たないのは不満。ラスト辺りのホルンはたっぷり黄昏れて美しく、金管はパワフル。各パートの分離は極めて明瞭に、打楽器はリアルに響いて、音質の鮮度を感じさせます。

 第4楽章「きわめてゆるやかに、神秘的に 一貫してppp(ピアニッシシモ) (Sehr langsam. Misterioso. Durchaus ppp.)」は最近は指揮者としても活躍しているNathalie Stutzmann(1966-仏蘭西)の落ち着いた声がしっとり静謐であり深淵。遠い管楽器との組み合わせも素晴らしい臨場感ですよ。浮遊するホルンの深い音色には満足、オーボエの呼応もヴァイオリン・ソロも線が細く、弱いと感じました。第5楽章「快活なテンポで、大胆な表出で (Lustig im Tempo und keck im Ausdruck.)」は無垢な天使達の可憐にリズムに乗った歌声、この作品の一番好きなところ。マイルドな響き、ここの声楽と伴奏のバランス、各パートの音色の際立ち方は絶品でしょう。

 第6楽章「ゆるやかに、安らぎに満ちて、感情を込めて (Langsam. Ruhevoll. Empfunden.)」は万感胸に迫って人生を振り返る終楽章。誠実に端正に、遠浅の海岸に音もないさざ波のような感動が押し寄せました。熱血とか激情の嵐とは無縁の演奏、弦の響きはちょっとおとなしいけれど、金管の迫力充分、オーケストラの技量はほんまもんです。ラストのテンポアップはちょっぴり落ち着かない。これは自分の葬式に流してほしい希望No.1音楽。

(2024年1月13日)

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written by wabisuke hayashi