Mahler 交響曲第9番ニ長調
(ルドルフ・バルシャイ/モスクワ放送交響楽団)


BIS-CD-632
Mahler

交響曲第9番ニ長調

ルドルフ・バルシャイ/モスクワ放送交響楽団

BIS-CD-632  1993年チャイコフスキー音楽院ライヴ  

 Mahler は大好き。ディジタル時代に至って、こういった大規模作品は演奏効果も華やかだから演奏機会も、録音も増えました。若い頃は貧しく、LPCDも高価だったし、特別なキモチでありがたく聴いたものですよ。旧ソヴィエット時代、緻密な集中力を誇るアンサンブル(モスクワ室内管弦楽団)で注目されたルドルフ・バルシャイ(1924-2010)がイスラエルに亡命したのが1974年、政治的状況が変わって1993年久々故国に戻ってBeethoven のミサ・ソレムニス(ロシア・ナショナル管弦楽団)と、このMahler を演奏したとか、そんな要らぬ薀蓄さておき、たまたま両方共拝聴機会を得ました。いずれ好感を以て拝聴いたしました。

 そんなエピソードを前提に音楽は聴くべきでもないでしょ。ワタシはかなりデーハーな第10番(2001年)+第5番(1999年)(ユンゲ・ドイチェ・フィル)が気に入って、嗚呼そういえば、みたいな流れで「第九」を聴きましたよ。世評は概ね好評、一部意見が割れているのはありがちな事象でしょう。同じことを指摘しても正反対の結論に至るのは音楽が嗜好品だから。

 ライヴ、しかも(よろしからぬ方に)定評ある旧ソヴィエット?ロシアの音質。遠慮会釈もない粗野な金管の咆哮を期待したいモスクワ放送(モスクワ・チャイコフスキー)交響楽団を、緻密なバルシャイがどうコントロールするのか。19年ぶりの凱旋公演、熱狂的な反響(だったらしい)・・・そりゃ自分の耳で確認しなくっちゃ。CD一枚に収まっているから、テンポは中庸〜速めか。

 第1楽章「Andante comodo」始まりました。少々肌理は粗く、茫洋としてちょっぴり芯の甘い音質?(との評価)いえいえライヴでも充分合格点な鮮度でしょう。骨太粗野なオーケストラはいつになく神妙であり、バルシャイにコントロールされ端正、それでも微妙な怪しい吐息、熱気を感じさせるのはライヴの感興なのでしょう。時にいつものリミッター外しそうになる凶暴な金管出現し(そうになって)てニヤリ。最近、健全クールなMahler ばかり多くて、久々安易に近づけぬ危うい風情を微妙に感じた、そんな開始でしょう。

 第2楽章「Im Tempo eines gemachlichen Landlers - Etwas tappisch und sehr derb」。緩やかなレントラー風のリズムはヴィヴィッドに躍動しております。しかし粘着質にあらず、バルシャイはかなり引き締めて、クールなアンサンブルは粗野・硬質な印象を与えません。ラス前辺りアッチェランドに高揚を感じても、落ち着かない印象を与えない。このアンサンブルの整い方はほとんど驚異的、このオーケストラの実力をちょっと見なおしております。。

 第3楽章「Rondo-Burleske: Allegro assai」。スケルツォ楽章はいくらでも粗野粗暴に演奏できるところだし、オーケストラの金管の重量級迫力爆発は快感です。けど、やはり足取りしっかり、リズムをかっちり端正明快に刻んで細部を曖昧に走らないバルシャイの個性継続。終楽章「Adagio - Sehr langsam und noch zuruckhaltend」ここの評価がけっこう割れて、速めのテンポ表現はさらりとして、ここは一発詠嘆の節回し(泣き)を期待されているんでしょう。さっぱりとした風情、引き締まったサウンドとか、この流麗さが相応しいと受け止めました。(金管は例の露西亜風でっせ、ホルンのヴィヴラートとか)熱血入れ込み系のMahler は苦手です。

 聴衆の拍手は熱狂的でした。バルシャイの仕上げ、アンサンブルの磨き上げはお見事。

(2015年8月1日)


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