Mahler 交響曲第6番イ短調
(ジュゼッペ・シノーポリ/ベルリン・フィル1986ライヴ)


Mahler

交響曲第6番イ短調「悲劇的」

ジュゼッペ・シノーポリ/ベルリン・フィルハーモニー

1986年9月19日 ベルリン・フィルハーモニー・ホール・ライヴ  FM放送からのエア・チェック・カセット〜MDへ

 2001年4月、「アイーダ」指揮中に急死。54歳。ワタシが特別にシンパシーを感じていた指揮者ではなかったが、もったいない若さ。まだ20年以上やれる年齢、これから極めつけの名演を残せる可能性だってあったのに、と思うと残念。

 シノーポリは廉価盤には関係薄い人だったので、ワタシはあまり聴く機会がなかったのでした。イメージとしては、少々エキセントリックな個性派、といった感じ。レコード・デビューした頃はときどきFM放送などで注目していましたが、ここ最近は演奏に粗さを感じることもあって、敬遠気味でした。主に歌劇場で活躍していたようで、ワタシには縁遠いまま逝ってしまいました。


 じつはこの録音の少々前に、同じ曲でシュトゥットガルト放送響のライヴが放送されていて、本当にすごいクセモノ演奏だった記憶がありました。(留守録に失敗して、前半が録音できなかったので廃棄)それにくらべると、この演奏はベルリン・フィルの個性が強烈で、さすがのシノーポリも完全には自由にならなかった感有。そこも興味深いところ。

 この曲に欲しいもの。重量感あるリズム、金管の厚みのある絶叫、特殊な打楽器の効果、深遠な「間」、そして狂気、こんなところでしょうか。優秀なオーケストラは必須です。艶やかなアンサンブルも欲しいもの。ベルリン・フィルなら期待できるし、ある意味期待通りでした。

 第1楽章の行進曲は、前のめりで焦燥感があり充分重い。以前聴いたときの記憶では、もっと緻密なアンサンブルだったはずなのに、やや粗さが目立ちます。最初は気になっていましたが、なんどか聴くうちに納得。何故か。

 天下のベルリン・フィルは、時に音がスルリと出すぎて流れてしまうことがあるんです。この演奏、そうとうにテンポが頻繁に揺れるし、シノーポリはもっと好きにオーケストラをコントロールしたいんですよ。「そう簡単にはいかないぞ」というオーケストラ側との齟齬が「粗さ」に聴こえる。焦燥感となります。セクシーで分厚い響きではあるが、いつになくザラリとした肌触りとなって、この歯ごたえは悪くない。

 第2楽章は、かなり恣意的な旋律の長さの変更があって、これも面白い。というか、ちょっとヤバそうな恐ろしさ、みたいなものがあって、この曲特有の不健康さをタップリ味わせてくれます。引きずるような重さ。そして、高音で鳴く木管と打楽器には狂気の影が・・・。

 第3楽章が、このオーケストラの売り物である磨き上げられた弦の魅力全開です。ウィーン・フィルの甘く、美しい味わいとはずいぶん違っていて、シルクの光沢ある厚みと、ややくすんだ奥行きが感じられる響き。詠嘆に満ちた旋律の歌い口は最高だけれど、これとて怪しい後味あり。


 MD一枚に納まらない演奏なので、第3楽章までで一枚目は終了。「余白は残したくない」という哲学にしたがって、カセットから収録、ここで小休止となります。

ペンデレツキ 「無伴奏チェロのための音楽」  モニゲッティ(vc) 1986年ベルリン芸術アカデミー・ライヴ

ヨハン・シュトラウス 円舞曲「美しく青きドナウ」 セル/ウィーン・フィル(1934年)

Mozart 歌劇「皇帝テトゥスの慈悲」序曲+α  クーン/ウィーン・フィル(1992年ザルツブルク・ライヴ)


 さて、問題の終楽章。ワタシ6番はここでこの曲の魅力にハマった、という自覚があります。(この演奏だったか、テンシュテットだったか)チェレスタのエキゾチックかつ怪しげな音色、管楽器の超低音、そして超高音の細かくも破天荒な音形、曲そのものが現代音楽(新ウィーン学派)に近づいていて、「時代の不安」をそのまま音にしたような名曲。

 わずかに顔を見せるやさしい旋律は存分に歌い、不協和音寸前にまで崩れるところはイヤラしいくらいに強調、あきれるほど「間」を取って、強調するバスのピツィカートへの効果を高める手口。ここでは、前半での「齟齬」は完全に払拭され、オーケストラは自由自在にコントロールされます。ひとつひとつの音の意味深さ(というより「ワケ有」か)、艶、重量感、そして「陰」。(ジミとか、暗い、ということではない)

 終楽章だけでも30分を超える大曲。で、忘れちゃいけないのが、この曲の必殺技「打楽器」〜ハンマーを先頭に一撃必殺で腹を貫通し、脳天を打ちぬく衝撃。オーケストラの圧倒的技量には何度聴いても圧倒される思い。最後まで失われない「美」「不安」「悲劇」そして「狂気」。


 もともとがFM放送のエア・チェックですから、電波状況による「シャー」というノイズ少々有。しかし、音に芯もあって、低音・高音とも良く伸びた音質でした。なによりフィルハーモニー・ホールの適度な残響が明快。(「復活」におけるサントリー・ホールは残響過多で、捉えどころを失う場合がある)

 5回ほど繰り返し聴いて、ようやく彼の世界に入ったような感想ででした。フィルハーモニア管とのスタジオ録音はどんなものなのでしょうか。未聴です。(2001年6月1日)


シノーポリの音源はほとんど持っていないくて、棚卸しをしてみました。

Brahms ドイツ・レクイエム 作品45  チェコ・フィルハーモニー/プラハ・フィルハーモニー合唱団(DG461 684-2)
Mahler 交響曲第2番「復活」 フィルハーモニア管弦楽団/東京音大合唱団(1987年サントリー・ホール・ライヴ)
Mahler 交響曲第8番 変ホ長調 フィルハーモニア管弦楽団/桐朋学園管/大学合唱団/ほか(1990年東京芸術劇場ライヴ)

・・・・これしかありません。


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written by wabisuke hayashi