Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調(アントン・ナヌート/リュブリャナ放送交響楽団)


GMS 500.071 Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調

アントン・ナヌート/リュブリャナ放送交響楽団

GMS 500.071 録音年不明  250円(中古)

 じつは第6番も一緒に売っていたけれど、そちらはヘンヒェンだったので既に(BRILLIANTで)所有済み。もしかしたらGMSで全集になっていたのかも知れません。これ、ホルヴァートの「復活」と同じシリーズですね。それにナヌートの第1番が入っていて、あまり良い印象を持たなかったので、あえて集めようと思いませんでした。(5,000円でナヌートの全集を目撃したのは2000年のこと)ま、250円だし、と広島のBOOK OFFで購入したもの。

 これ、驚くべき素朴さと暖かさに充ちた立派な演奏でした。ワタシはショルティ/CSOの演奏をボロカスに書いたことがあって、ちょうどあれと対局にあるような世界。完璧な技巧、血の通わない節回し、懊悩に欠ける歌、美しいが暖かさが存在しない。メイク完璧の美人だけれど、微笑みが業務的〜そうではなくて、もっと自然で、素朴な歓び。草の香りがするような。

 まず、音質がよろしいことは保証しましょう。ま、極限鮮明とはいかないにせよ、DDDというのはウソでもないらしい。適度な奥行きと残響。技術的にも不満を感じません。終楽章がやや乱れ気味だけれど、全体としてアンサンブルも立派だし、オーケストラの厚みにそう不足も感じません。柔らかくて、聴き疲れしないサウンド。期待のマッケラス盤(EMI)が、イマイチ不満だったのを癒してくれる一枚でした。

 ま、リュブリャナ放響はずいぶんと聴いてつもりでいたけれど、今回は難曲・大曲でしょう?少々心配だったが、この暖かで余裕のある響きは驚きの連続でした。緊張感にもチカラ強さにも不足するわけではないし、冒頭のトランペットを始めとして、各パートの技量にもなんの不満もなし。どこも中庸というか、テンポに特別な変化はないんです。

 第2楽章はゴリゴリと切迫感で演奏しがちだけれど、とてもやさしい。第3楽章の牧歌的なワルツはこの表現にとても似合っていて、例えばホルンにせよ木管にせよ、耳目を驚かすような響きではないし、全体に溶け込んではいるが、とても味わいのある音色で余裕なんです。

 第4楽章「アダージエット」は、ひじょうに抑制された静けさが印象的です。いくらでも官能的に、扇情的に演奏可能な楽章だけれど、そっと息を潜めているようで、これはこれで白眉。他の楽章と同じで、思いっきり艶やかな弦、というわけではないが、この表現になんの不満もない。むしろサラリとして、やや流し気味に聞こえるかも知れないが、じつは考え抜かれ、配慮し尽くされた表現なんです。

 終楽章は、ややアンサンブルに疲れが見えます。考えてみればこの曲、各楽章ごとにずいぶんと心情が変化しているようであり、終楽章は一歩間違えればノーテンキ風演奏になってしまうかも。リュブリャナ放響は、適度な湿度を最後まで失わないし、ナヌートのリキみ過ぎない表現で締めくくられました。(2002年5月3日)


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