Mozart 交響曲第40/41番
(ペーター・マーク/パドヴァ・エ・デル・ヴェネトー管弦楽団)


ARTS 47363-2 Mozart

交響曲第40番ト短調K550
交響曲第41番ハ長調K551「ジュピター」

マーク/パドヴァ・エ・デル・ヴェネトー管弦楽団

ARTS 47363-2 1996年録音  中古にて500円で購入

 2001年、ペーター・マークが亡くなったとの情報はメールでいただきました。81歳。シノーポリの死が劇的に報道されたのに比較して、なんと地味で、寂しいことでしょう。晩年、ARTSレーベルでまとまった録音を残してくれことはありがたく、これを機会にベルン響時代、英DECCAの録音、いくつかCD復刻されていないVOX時代の録音も再発されることを期待します。

 かつて「ワルターを継ぐべきMozart 指揮者」と期待された手腕は、この録音でも充分すぎるほど確認できました。ワタシはたまたまARTSレーベルのCDに出合う機会が少なく、ようやくこれから、と手に入れた一枚だったのです。仰け反り、呆然とし、お尻のアナ方面からジンワリと喜びが立ち上ってくるような(例えが下品で申し訳ない)、凄い演奏。

 オケが渋すぎ。イタリアのオケでしょ。イタリアでは有名なのかも知れないが、東洋の片隅にまで名声は届かなかったらしく、初耳でした。どう考えても「超絶技巧集団」ではなくて、ベルリン・フィルやCSOと比べると少々格落ちかも。でもこのコク、心のこもった歌心、想像を絶する味わいの深さ。これはヴェテラン職人マークさんの磨き上げたワザなんでしょう。

 ちょっと古楽器系演奏のようなメリハリのあるリズム感。乾いて粗野なオケの響き。これほど明快で、わかりやすいMozart は滅多にありません。超有名曲で「個性」を感じさせる難しさはいうまでもありません。ある意味枯れているが、ひからびて骨と皮ばかりの演奏でもないんです。

 弦も薄いし、ホルンの音色も特別なものではない。「仰け反り、呆然とし」とは言ったが、もの凄い特別エキセントリックな、という意味ではありません。素敵なト短調交響曲は、淡々と、適正なテンポで進み、聴き流してしまえば、それはそれでフツウの演奏なんです。じゃ、なにが違うのか。

 ひとつのひつつの旋律、パートに込められた歌の意味深さ、例えばホルンを強奏させる説得力。弦の変幻自在するニュアンス(泣き、といってもよい)の細やかさ。なんども聴いているはずなのに、まるで初めて耳にするような木管の美しい節回し。「Mozart の音楽はここが聴きどころなんですよ」と、マークが懇切丁寧にワタシに語りかけてくれているよう。(第2楽章アンダンテ、木管旋律の受け渡しは極上)

 メヌエットは、オケの響きがずいぶんと地味だけれど、リズム感がしっかりとして素朴な味わいがある。終楽章は抑制された表現と素朴な響きが、かえって悲劇性を増強させました。豊かで艶やかな音を求める人には、このオケの「鳴らなさ」は耐えられないかも。マークは編成を最小限にして、室内楽的な効果を求めたのでしょうか。


 ハ長調交響曲は、ト短調を上回る(正反対の)快演。弦のプルトを増やしているようで、オケに厚みが増しています。(前曲との違い〜指揮者の明快な哲学〜は歴然)冒頭から圧倒的なスケール、念を押すような強烈なリズム。繰り返される提示部の説得力。あらゆるパートは考え抜かれた個性を感じさせ(例えば低弦クレッシェンドの衝撃)、木管は高らかに歌い、トランペットとティンパニは叩きつけるような迫力。

 大げさではないが、細かいテンポの揺れ、頻出する「間」の劇的効果。しかも、自然な呼吸を失わない。ここでもアンダンテ楽章の説得力は比類がないが、「天使が天上から舞い降りる」メヌエット楽章は、もっと艶やかな響きで聴きたいというワタシの好みはあります。曲が進むに連れて、オケの濁りが気になる人はいるかも知れません。

 終楽章、第1楽章とともに繰り返しがあるのは嬉しい。ラスト・ジュピター音型の直前での極端なテンポ・ダウン。一歩間違えれば、クサく、わざとらしくなりそうな「大見得」。でも、この部分はワタシが思い描いていた表現なんです。経験の少ない若手がこんなことやっちゃうと、ヘンなことになってしまいがちだけれど、胸を打つ高揚感がここにある。


 ティントナーはまったく無名の世界から、晩年NAXOSのBruckner録音で全世界に、その存在を知らせました。(日本の学生さんからのファン・レターに感激したそう)マークは、例えばフォルクス・オーパーの指揮者とか、英DECCAへのメジャー録音の経験があったとはいえ、再度脚光を浴びて欲しかったもの。ARTSレーベルで、Mozart 、Beethoven 、Mendelssohnのまとまった録音が残されたことが、せめてもの救いでした。合掌。(2001年4月27日)


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written by wabisuke hayashi