アレクサンドル・ラザレフ指揮読売日本交響楽団
(2008年6月5日、東京サントリーホール、P席)。
(ヘムレンさんより、コンサートの感想が届きました)
もうご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私はラザレフを追っかけております。もともとは7,8年前にロンドンのバービカンセンターでショスタコーヴィチの交響曲5番を聴いて以来のファンです。このときは、はからずも生まれて初めて「ブラボー」と叫んでしまい、手が腫れるほど拍手をいたしました。
その後、来日公演を3度ほど聴いていますが、なかでも日本フィルとのショスタコーヴィチの交響曲11番は、ぼくの生涯におけるコンサートNo.1の座を占めています。このときは2楽章あたりから落涙が止まらなかったです。ショスタコーヴィチ聴いて泣く人も珍しいわな。
それで、今回はチャイコフスキー・プログラムで、テンペスト、ロメオとジュリエット、そして交響曲4番。実は2年ほどまえ、ラザレフは同じ読売日本を振ってチャイコフスキーの交響曲全曲を演奏しています。ぼくは残念ながら、その一連の公演を一度も聴けずじまいでした。この一連の演奏はライブ録音されて、ExtonというレーベルからCDになっているのですが、なぜか2、3、5、6番のみが発売され、後期では4番だけがCD化されていないのです。録音が、あるいは演奏に問題があったのかな、と思います。それで今回は、読売日本と4番だけを再演している。これはCD化するぞという意気込みを感じます。当日のサントリーホールにはマイクが4、5本ぶら下がっていました。
今日の演奏も凄かったです。最初のテンペストはオーケストラのためし運転といった感じ。拍手もまばらで、まあこんなものかな。そして2曲目のロメオとジュリエットから美しいポリフォニーが聴かれるようになりました。この曲はホルンが長いソロを取りますが、とても上手で安定した演奏でした。終曲となって、まだ前半が終わっただけなのに、ブラボーと叫ぶ人まで登場して会場は異様な雰囲気でした。
後半、4番の交響曲冒頭の主題は、普通は落ち着いたアンサンブルとして演奏されることが多いと思いますが、ラザレフはテンポを煽って、かなり超速・大音量のファンファーレとして演奏し、そうしておいて続く部分であたかも夜中の微風のように幽かなピアニシモにされると、背筋がゾクっとしました。この指揮者の特徴ですが、強弱のメリハリを少し大げさにつけることによって、音楽に織り込まれている感情を表出させるのでしょう。後半の管楽器のソロ合戦みたいなところでは、やっぱりファゴットとホルンが大活躍でした。
2楽章はオーボエで始まって、最後はファゴットが同じ主題を引き取って終わります。オーボエの悲嘆にくれつつも何か救いのある音色が、ファゴットのやるせない枯淡の音が染み入ってきました。
3楽章はほとんど全部、弦楽器はピツィカートです。これがもうポルカのように弾んでいる。それでもピツィカートですから音量は低いですね。リズムが弾むのに音がでない。そのもどかしさがベースにあって、弦楽器がところどころで弓で弾き始めると、解き放たれたような自由な精神の解放が感じられました。
最終楽章。打楽器、とくにティンパニが大活躍。弦楽と木管の絡み。冷静なファゴット、転がるようなクラリネットとからみつくフルート、飛び回るピッコロ。時に金管の咆哮、クールなホルン、爆発するトランペット。そして爆発的なフィナーレ。
終演と同時にブラボーが飛び、サントリー・ホールが歓声と拍手で震えました。ラザレフはほとんどアンコールをやりませんが、それでも歓声は収まるどころか、指揮者が登場するたびに大きくなっていく。こういうコンサートに来ると、本当に音楽って素敵だなと思います。いやあ、心に残る素晴らしいコンサートでした。
ラザレフは、読売日本以外にも、日本フィルといくたびか共演していますが、来季(2008/09年)からは音楽監督に就任することが決まっています。日本フィルとはプロコフィエフの交響曲全曲がこの秋から始まります。これまた見逃せないことになりそうです。
(2008年6月21日)