Mozart ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調K271「ジュノーム」/
第26番ニ長調K537「戴冠式」(リリー・クラウス(p))


日本コンサート・ホール・ソサイエティ CHS1131 Mozart

ピアノ協奏曲第 9番 変ホ長調K271「ジュノーム」

ヴィクトール・デザルツェンス/ウィーン国立歌劇場管弦楽団(1959年録音)

ピアノ協奏曲第26番ニ長調K537「戴冠式」

ジャン・フランコ・リヴォリ/アムステルダム・フィルハーモニック管弦楽団(1960年録音)

以上 リリー・クラウス(p)

日本コンサート・ホール・ソサイエティ CHS1131 (コンサート・ホール・ソサイエティ加入記念/1,000円で購入)

 音楽は嗜好品だし、聴き手の体調やら時代の変遷で好みは変遷する、プロの評論家だってあてにはならぬ(というか、好みはどーにもならん)〜というのがワタシの一貫した主張であります。時代は価値観多様な様相となり、究極の一枚とか、至高の名演!最後の巨匠!なんつう大仰なことで論争する必要もなくなりました。CDというフォーマットは時代遅れになりつつあり、【♪ KechiKechi Classics ♪】 が、市場高すぎる販売価格に対するレジスタンスであったことなんて、ほんの昔のジョーダンに成り果てました。

 でもね。大切なのは音楽に対する真摯な態度、まっすぐに向き合う精神+耳なのでしょう。それは幾十年経ても変わらぬ真理。歴史的録音がパブリック・ドメインとなって自由に音源入手できるようになったこと、そして現役の音楽家たちは不況の波で録音機会が大幅に減ったこと、クラシック音楽は保ちのよろしい音楽だから、昔懐かしい音源ばかり(景気の良い頃の録音が、ごっそりメーカー倉庫に眠っている!)聴いちゃうのはマズいことなんでしょう。このCDは(p)1989だから、20年以上前に入手し、あちこち転居を供にした昔馴染みであります。久々の拝聴は、オーディオ環境も自分の耳も変化しているから、少々ドキドキもの。

 リリー・クラウス(1903年- 1986年)は往年の名ピアニスト、最晩年SONYから出たMozart のピアノ・ソナタ全集と協奏曲全集(1960年代中盤)は既に全盛期を過ぎていたのでしょう。モノラル時代、そしてこの1960年頃に輝かしい記録が残っておりました。以下のコメントはこのサイトごく初期、10年以上前のもの、「ジュノーム」に対する音質や、オケの感じ方には大きな変化がありましたね。1959年録音は曇ってはいるが、意外と分離の良い聴きやすい(マシな)音質、デザルツェンスのオケ(実態不明/フォルクスオーパーかも)はそれなりに洗練され、立派なサポートぶりと聴き取りました。

 なにより、リリー・クラウスのピアノが絶品!ここの評価は揺るがない。さらりと(素っ気ないくらいの)速めのテンポで始まります。玉をころがすような音色、流れの良さ、思わせぶりな揺れなど出現しない〜なんだ、十年くらい経って聴いてもリリー・クラウスには変化はないじゃないの。但し、”輝かしい音色”というのは少々違うかも知れないな。キラキラしているが、それは”輝かしい”のではなく、もっと自然体のニュアンスに充ちたもの。聴く機会の多いクララ・ハスキルだったらもっと表情の陰影が深かったはず。

 第2楽章「アンダンテ」の密やかな哀しみは深いですね。ここでも淡々として風情に変わりはなくて、特別な”色”、”揺れ”があるワケじゃないんです。ましてや強烈な打鍵など皆無、もとよりMozart にそんなものは必要ないけれど。静かに、しっとり粛々と聴き手の胸に染みこむ甘美な情感。終楽章「ロンドープレスト」に入っても同様のテイストが続いて、流れは自然であり、流麗であります。途中ため息のように立ち止り、名残惜しげに振り返って、やがて気を取り直したように駆け抜けていく風情がみごとでした。音質の件は、ちょっとガマンしましょうね。

 ニ長調K537「戴冠式」が大好きなのは、中学生の時、初めて聴いたMozart の生演奏がこの作品だったから。明るく屈託のない旋律リズムは大好きです。懐かしいジャン・フランコ・リヴォリの情報はこちらを参照のこと。かなりオン・マイクで奥行きも残響も少ない録音だけれど、歴史的録音だと思えばガマンできんこともない。これも以前の印象と変わらんな。平板な音質は、伴奏とのソロのバランスを崩して残念。しかし、虚飾のない溌剌としたタッチに変わりはない。こちらのほうが、いっそう元気と推進力を感じるのは作品の個性でしょうか。

 第2楽章「ラルゲット」の無垢な静謐、最終楽章「アレグレット」の晴れやかな表情に曇りはないんです。クラシック音楽って、息の長いものですね。1,000円という価格はこうしてみると、けっしては高くはない。

(2010年11月20日)

 Mozart は無条件で好き。そのなかでもピアノ協奏曲は、もう最高。どんな演奏を聴いても、たいていジ〜ンときます。なんでも良いんです。演奏に対してコメントを付けるなんて、畏れ多くて・・・。閑話休題。クラウスはステレオ録音で全集が出ていた(SONY。未聴)けど、最近はさっぱり話題にもなりません。

 「ジュノーム」は、やっぱり女性の演奏で聴きたいですね。曲そのものが、若くてお洒落で、健康な女性を感じさせるじゃないですか。21歳のMozart がつくった天使の歌。リリー・クラウスは、もうこの時には少々お年を召されていたかも知れないけれど、可憐で華麗な味わいがあって、この曲にはピッタリ。

 そっけなく、早めのテンポで始まります。デザルツェンス(誰も知らないでしょ?ワタシも名前だけのおつきあい)の指揮のせいかな、と思ったりしましたが、クラウスのピアノもそのテンポで淡々と進みます。例の如しで、このレーベル、相当に音が曇ります。が、ピアノの粒立ちが良くて、玉を転がすような、なんという輝かしい音色。

 淡々としていて、力みもないし、なんの飾りもなく、自然な歌。アンダンテは涙をこらえて、悲しみを隠しているような密やかなモノローグ。終楽章は生命がハジけるような、しなやかな躍動感。安らぎの声。

 オケはフォルクスオーパーでしょうか、弦などやや濁りはあるものの、デザルツェンスはクラウスを引き立てて立派。(奥行きのない音の薄さはどうしようもありません)

 「戴冠式」は、後期の傑作中ひときは評価の低い曲ですが、ワタシは大好き。初めて聴いたナマのMozart なんですよ。軽快で屈託のない旋律に文句なし。冒頭の、低弦がズンズンとリズムを刻むところからドキドキしちゃいます。(兵隊の行進みたい)

 リヴォリも、ほかのレーベルではあんまり見ないなぁ。アムステルダム・フィルというのも相当怪しい。(ほかのCDでアムステルダム・フィルハーモニー協会管、というのがあったけど、実在のオケなんでしょうか)録音は「ジュノーム」よりいっそう怪しい。クラウスのせっかくのピアノも、ややビビリがち。

 でも、やはりクラウスのピアノは絶品の光を放っていますね。「ジュノーム」と同じような世界で、ほとんど特別な飾りは付けていませんが、ウキウキするような華やぎを感じさせます。この曲って、普通に弾くとほんとうにつまらないと思うんですよ。ヘタな個性をつけてもクサいばかり。難曲。

 音色そのものが健康な色気に溢れて、歌になっていること。不必要な強弱や、不自然なテンポの揺れもありません。全体に、やはりテンポは早めでしょうか。爽やかで、自然体の演奏です。
 バックは伴奏の域を出ません。録音のせいで、奥行きがずいぶんと薄く感じます。

   旧い音源なので、海賊盤(駅売り激安CD)の音源としても見かけました。録音と、バックの演奏を少々我慢していただくと極上の世界です。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi