Bach ブランデンブルク協奏曲全曲
(ヘルムート・コッホ/ベルリン室内管弦楽団)


ART  0029242ART Bach

ブランデンブルク協奏曲 全曲 BWV1046〜1051
管弦楽組曲第2番ロ短調 BWV1067
管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068

ヘルムート・コッホ/ベルリン室内管弦楽団/グリューネンタール(fl)

ART 0029242ART 1971年から74年録音 2枚組1,000円で購入

 久々の再聴で、やはり胸にズシンときました。これ、ドイツ・シャルプラッテン、いまでいうとベルリン・クラシックス、最近はCCCのレーベル名も出ているが、この辺りの廉価盤レーベルとしてARTは出ていました。まず、豊かで瑞々しい空間を感じさせる録音が素晴らしい。もっと、ナマナマしい鮮度のある録音はたくさん存在するが、自然な奥行きのある、聴き疲れしない音質は貴重なんです。

 これは、もちろん演奏の質にもよるでしょう。どっしりとした重み、どこをとっても濃い墨、極太の筆で描かれた楷書の表現。これを時代遅れと感じるかどうかは微妙なところ。ワタシとて、イル・ジャルディーノ・アルモニコ(1995年シュタイヤーマルク・ライヴ)の、古楽器・軽快・スリム・快速・ノリノリ・スマート、そして歌うような演奏には心底痺れました。でも正反対のガンコさにも魅せられるのは、これもひとつのトレンド、と主張してみたいもの。

 基本的には「バロック演奏には自発性と即興性が必要」というのがワタシの主張です。だから、ミュラー・ブリュール盤(NAXOS)はイマイチ不満でした。リズムの重さ、バロックらしからぬスケール感でいえば、コッホ盤のほうがいっそう堅苦しい印象もある。でも、このまるでBrahms を聴くかのような演奏には魅力がいっぱいなんです。


 協奏曲第2番のどっしりとした、遅く重いリズムを聴いてください。これは大相撲における大型力士の魅力。トランペットの朗々たる輝きは力士の艶やかな肌、ヴァイオリンの良く歌うヴィヴラートは飛び散る汗なんです。リコーダーの高らかな歌は呼び出しの節回しでしょうか。一種特有の「間」と「熱気」。土俵に歓声も上がる。

 ・・・なんてワケわからんこと言っておりますが、名手揃い。鳴りすぎるリコーダーは録音のマジックでしょうが、どのパートも信じられないくらい、べらぼうに上手い。「これでいいのだ」という確信が、聴き手を圧倒する説得力有。

 地味で飄々とした味わいの第6番とて、その自信に満ちた足取りは並みじゃない。「この曲って、こんな重戦車のような曲だった?」と不思議に思うばかりなんです。「中低音の楽器編成」=「地味な響き」とはならずに、「バリトンとバスの大歌合戦」みたいに朗々と歌われちゃ、唖然とするばかり。逆に妙な快感さえある。

 第1番は、もともと大編成が似合う曲だけれど、一発目の通奏低音からズシリと腹に響いて、巨大なスケール感が凄い。ホルンの勇壮さはまるでBrucknerか。この激遅テンポにも屈せざるをえないド迫力。

 協奏曲第3番は屈指の名曲。第1番と続けると、雰囲気がまったく変わらないことに閉口します。第2楽章はチェンバロのやや長めの劇的な即興演奏が嬉しい。もちろん金属的音色の現代楽器。さすがに第4番は可憐さもあるし、「重さ」より「落ち着き」を感じました。リコーダーの雄弁さ、ヴァイオリンの技巧にも文句なし。

  さて、もっとも有名な第5番。これもそう「鈍重さ」を感じないのは、既に耳が慣らされているせいか。厚みのある瑞々しい弦に乗って、グリューネンタール(?と思う)の渋くも朗々とした音色に痺れます。ゆったりとした大きなリズム感にカラダが揺れます。

 この曲のポイントである、ながながしいチェンバロ独奏や如何に。これが往年のヴァルヒャとかリヒターを思い出させるような雄弁さ。第2楽章も切々と悲しげ、終楽章の踊るような楽しいリズム感は、少々太りぎみのダンスか。やや鈍い。

 どれも、カッチりとしたアンサンブルは申し分なくて、その水準は極上物。


 管弦楽組曲が2曲おまけです。これも「昔はこうだったよなぁ」と思わずにはいられない重厚さ。こういうスタイルは最近見なくなりました。まるで、Mahler 編曲版と見まがうばかりの濃厚な味わい。組曲第2番は、立派な演奏に間違いないが、暗さがやや耐えられません。

  組曲第3番はこういう演奏があってもおかしくない、スケールをもともと備えています。リズム感がバロックとは縁遠い(ちっとも舞踏風にハズまない)が、トランペットの輝かしさ、ティンパニのクレッシェンドの効果も上々。有名な「アリア」の美しさは、昔からこれで聴きなれているから安心できる。(低弦がピツィカートじゃないのですが、もともとの楽譜はどうなっているのでしょう?)

(2001年7月6日)



(以下1998年執筆分)

 ベルリン・クラシックス系の2枚組廉価盤シリーズで1,000円(2枚)。この曲は「つぎは古楽器で買おう」と思いながら、けっきょく現代楽器のCDを買ってしまいました。管弦楽組曲の第2番はかなり以前から、FMの録音テープで馴染んでいた演奏。

 コッホは1975年に亡くなっていて、強烈な個性で聴かせる人ではなかったし、現代楽器の演奏ですから最近では話題に上ることもありません。
 じつはこのCDを買うときにも「バウムガルトナーのを持っているしなぁ、似たような演奏ばかり集めてどうする?」と逡巡、ウチに帰ってから「1,000円だし、次回その店に行ったとき売れていたら後悔する」と思い返して、翌日購入したもの。(1998年)

 2枚目のブランデンブルク協奏曲第2番を聴いていたら、その辺をウロウロしていた中学生(当時)の息子が「これ、なんていう曲?」と訊いたくらい、ハッとする精気に満ちていきいきとしたリズム。ゆったりとしたテンポで、どんなフレーズも弾き崩しがなく、明快でがっしりと腰の据わった演奏です。

 で、ほかの曲も一通り聴いてみたのですが、ようはするに「どれも同じ」なんですね。どの曲もゆったりとして、味わいのあるキッチリとした演奏。最近のバロックの演奏は、速いテンポで羽のように軽くて、即興的で・・・・というタイプが全盛。それに比べると時代遅れでしょう。立派な演奏なんですけど。

 個別の曲のコメントを付けようとして再聴してみたけど、やはりどれも同じ。その確信に圧倒される思い。(ちょっとだけ・・・・第3番が始まったとたん、そのスケールに度肝を抜かれます)はっきり云って、これはこれで大感動。まいりました。

 でも、こんな演奏も好きですね。凄い説得力。どの曲も同じようで、テンポが変化に乏しいし、自由な即興演奏も見られません。ちょっと(いや、かなり)重すぎるかなぁ。まるで重戦車。軍隊の行進。確信犯。

 一人ひとりの演奏家がそうとうの実力で、アンサンブルの充実ぶりも並じゃない。(旧東の方のベルリン放響のメンバーとのこと)録音もしっとりとして、音に奥行きがあって、ガチャガチャして濁った響きはどこにもなくて、渋い音色。音も重心が低いんです。
 唯一ソロでクレジットのある、グリューネンタールのフルートなんて最高。痺れます。

 「ドイツ的でオーソドックスな演奏」と云ってしまえばそれまでですが、1970年代の旧東ドイツではこんな音がまだ生息したんですね。強面、リズムが重い。生真面目すぎ。面白味の少ない演奏かもしれませんが、飽きが来ないんですよ。楷書のBach も最近滅多にないから、貴重です。タップリLP3枚分、これで1000円。文句あるか。

 疑問があったら聴いてみて。驚きますよ。


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written by wabisuke hayashi