フランス・ピアノ作品集(グラント・ヨハネセン)


VOXBOX CD3X 3032 Franck

前奏曲、コラールとフーガ

Faure' 

夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74、即興曲第3番 変イ長調 作品34、第5番 嬰ヘ短調 作品102

Chausson

いくつかの舞曲 Op.26 「献呈(Dedicace)」「サラバンド(Sarabande)」「パヴァーヌ(Pavane)」「フォルラーヌ(Forlane)」

Saint-Sae"ns 

ブーレ(左手のための練習曲)

D'indy

ヒースの歌

Severac

夾竹桃の下で、演奏会用華麗なるワルツ「はっか摘み」

以上 CD1

Dukas 

ラモーの主題による変奏曲、間奏曲と終曲

Chabrier 

気まぐれなブーレ、バッラビレ、即興曲

Satie 

つづれ織りの前奏曲、クロッキーとスケッチの手帳、金粉

Roussel

ピアノのための組曲 作品14より「ブーレ」、三つの小品 作品49

Milhaud

四つのロマンス、栄光の歌

Ravel

グロテスクなセレナード

以上 CD2

Saint-Sae"ns 

ピアノ協奏曲第4番ハ短調 作品44

ベルンハルト・コンタルスキー/ルクセンブルク放送管弦楽団

Faure

バラード 嬰ヘ長調 作品19、幻想曲ト長調 作品111

ルイ・ド・フロマン/ルクセンブルク放送管弦楽団

Debussy 

子供の領分

以上 CD3

グラント・ヨハネセン(p)

VOXBOX CD3X 3032 1972年〜1976年録音 3枚組2,100円程で購入

 グラント・ヨハネセンは、アメリカのピアニスト(1922年〜)らしいけど誰やねん?状態で、他の録音では見かけたことがありません。(ネットで検索するとけっこう出てきますね)この収録から協奏曲(的作品)を抜いてかつて国内盤LP(ワーナー・パイオニアLP3枚。3,600円「ベルエポックの時代」)で出ていました。収録曲もやや渋めだし、ましてや「どこの馬の骨」(?すみません。失言でした)ヨハネッセンさんの演奏では、なかなか手が出ないでしょう。いまからでも遅くはない。見つけたら買うて下さい。

 Franck (フランク)のピアノ曲は意外なほどCDになっていないし、SE'VE'RAC(セヴラック)は知らないでしょ?D'indy(ダンディ)のピアノ曲だって「フランスの山人」くらいでしょうか、CDになっているのは。ましてやDukas(デュカース)なんて「魔法使いの弟子」しか知らないし。Roussel(ルーセル)の作品だって、ややメジャーなChabrier(シャブリエ)、Satie(サティ)、どれも旋律が洒落てます。切ない味もある。こんなに楽しいCDは珍しい存在なんです。

 まず全体として、ピアノの印象。明らかなスタインウェイ。高音がよく鳴って輝かしい。粋じゃないし、陰影にやや乏しく(抜くこと、呟くことを知らない)て、時に叩きすぎ!かも知れないが、とにかくわかりやすい、明快なのがウリでして、録音もじつに鮮明そのもの。まっすぐ真面目な「アメリカの良心」みたいな演奏でしょうか。技巧的には文句なし!というか、バリバリの技巧派だと思います。乱暴な演奏をイメージしてもらっちゃ困るが。


 Franckはコルトーが得意にしておりました。ボレットとかルービンシュタインなんかの録音もあるようだけれど、なかなか手に入りにくい作品です。有名なヴァイオリン・ソナタとかピアノ五重奏曲に似て、官能的で隠微な(つまりとてもエッチな)美しさに溢れて、濃密な深夜の闇をイメージさせます。これもひとつの「フランスらしさ」なんでしょう。ヨハネッセンのピアノは過度の思い入れではなくて、さらりと、しかし明快な技巧で濃すぎない表現が望ましい。

 Faure'も繊細で甘やかな旋律に間違いないが、もっと健全で夢見るような世界なんです。夜想曲は有名なChopin より心境が複雑だし、即興曲の楽しげな表情が暖かい。この曲に限ったことではないが、ヨハネッセンには「粋」とか「雰囲気」を求められないが、少なくとも曲の持ち味を損なうような力量ではない。抑制された歓びがあるようで、奥ゆかしいんです。Chaussonは、名曲「詩曲」の深遠さをそのままピアノに写したような、静謐さと高貴さが溢れます。

 Saint-Sae"nsにはいかにも擬古典的な構成美があり、D'indyにはやすらぎが満ち充ち、SE'VE'RAC には独特のひょうきんな躍動(時々、ちょっと切ない)が存分に楽しめました。CD1は、どちらかというと大人の楽しみのような、妖しい魅力の曲が揃いましたね。(収録76分)


 CD2は少々硬派揃い。Dukasの作品は、牧歌的なRameauの主題からいきなり激しい変遷を経つつ、時に難解さも伴って、なんと17分を越える力作。Chabrierのリリカルでシニカルな味わいは、この演奏にとても似合っていると思いますね。ちょっと華やかすぎるかな。「Ballabile」ってバレエ音楽のことだそうで、たしかにハズむようなリズムが剽軽で楽しい。即興曲は、ああ粋な作品だ。ヨハネッセンさん、ここじゃちょっとノリノリじゃないの。

 Satieは、とくに淡々とした無感情なる作品ばかり選んでいるようであって、こういった明るくきっぱりとしたピアノによく似合っておりました。近代仏蘭西きっての粗野で破壊的(とはいっても、そこはやはりお仏蘭西ながら)Rousselは期待通りの暴れん坊将軍であって、技巧が光ってこその作品でしょ。MILHAD(ミヨー)のロマンスは静かで断片的なつぶやきのよう。栄光の歌は華やかであって、少しずつ和音が崩れていく不思議な小品。

 ラスト大御所のRavel 登場だけれど、グロテスクなセレナード、とはずいぶんと渋い選曲。この一枚はちょっと晦渋で苦みのある作品を集めたのでしょうか。一枚目がヨハネッセンの明るさ全開が少々疲れたが、二枚目なら作品の個性と調和してます。(収録73分)


 CD3一番ラストがDebussyなんです。この「子どもの領分」はかつて聴いたことがないような、乾いた推進力有。機械のような正確な技巧(この場合誉め言葉と思って!)が美しい。なんの逡巡もない。「ゴリウォークのケークウォーク」の輝かしいノリこそ、このアルバムラスト飾るに相応しい「熱気」がありました。

 さて、LP時代は収録されなかった協奏的作品三曲〜ヨハネッセンはFaureのスペシャリストらしくて、ずいぶんと録音が存在します。「バラード」も「ファンタジー」も存分に甘いが、その甘さは爽やかで正確なんです。粘着質でもなし、鼻歌で流したような味わいでもなし。粒立ち良い純粋な音色で、正統派・真正面からの表現は、静かな説得力充分。もっと有名でも良い作品だよね。演奏会でもあまり聴かれませんよね。難しい作品なのかな。

 Saint-Sae"nsのピアノ協奏曲は正直やや苦手方面で、まだまだワタシお勉強が足りません。でもさ、このハ短調協奏曲ってけっこう切な目で、良い感じの旋律じゃない。腕が鳴るような技巧が鋭利な味わいを醸し出して、いつものSaint-Sae"nsとは違って馴染みやすい。というか、その旋律に抵抗が少ない。コレ、まるでLiszt風演奏だね。途中「ミッキーマウスの歌」に似ている旋律が出てきます。(68分)収録作品が珍しいし、VOX中おそらく最高水準の音質、しかも”わかりやすい”演奏。なかなか良くできた三枚組でした。

(2004年4月9日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi