Mozart ピアノ協奏曲第26番ニ長調K537「戴冠式」/
第5番ニ長調K.175/ロンド イ長調K.382 (イェネ・ヤンドー(p)/
マーティアス・アンタール/コンチェントゥス・フンガリスク)


NAXOS 8.550209>

Mozart

ピアノ協奏曲第26番ニ長調K537「戴冠式」
ピアノ協奏曲第5番ニ長調K.175
コンサート・ロンド イ長調K.382

イェネ・ヤンドー(p)/マーティアス・アンタール/コンチェントゥス・フンガリスク

NAXOS 8.550209  1991年録音

 前週にピアノ協奏曲第22番 変ホ長調K.482/第11番ヘ長調K.413(387a)を久々に聴いて、ソロも管弦楽も飾りのない表現を好ましく受け止めました。そこでこちらも7年ぶりに再聴することにしました。

ニ長調協奏曲K.537「戴冠式」。第1楽章「Alleguro」第2楽章「Larghetto」第3楽章「Allegretto」

ニ長調協奏曲K.175。第1楽章「Allegro」第2楽章「Andante」終楽章「Allregro」

 16年を経て再聴。1999年岡山在住〜2007年大阪(尼崎居住)〜2013年名古屋(長久手)と転居し、未だにあまり姿を変えず【♪ KechiKechi Classics ♪】継続〜シーラカンスかよ(んな学術的価値ないけど)。Mozart はお気に入り、その中でもピアノ協奏曲は別格、幾種もCDボックス棚に揃えて、やがて一種のみ(カルメン・ピアッツィーニ)残して他すべて処分したのは数年前。時代は”データで聴く”流れに〜NMLでは「アンドラーシュ・リゲティ」となっているけれど、伴奏はマーティアス・アンタールに間違いありません。オーディオ環境も変わって、ちょっぴり改善され、聴き手の耳も成熟した・・・それとも華麗なる加齢を重ねただけなのか。Jeno Jando (1952-)は未だに(日本では)知名度薄いハンガリーのヴェテランです。

 16年経っても印象は変わらない。モダーン楽器による芯のあるピアノは端正にオーソドックス、安定してしっとり、コンチェントゥス・フンガリスク(フンガリクス?)はていねいなアンサンブル、控えめにピアノを支えております。音質も聴き疲れしない自然なもの。カデンツァの情報は欲しいところ(K.537「戴冠式」に作曲者によるものは残されていない)とても華やかな楽しい世界が繰り広げられておりました。

 ニ長調協奏曲K.537「戴冠式」は名曲居並ぶ後期作品中、やや人気が薄いもの。陰影や劇性に足りませんか?ワタシは子供の頃から大好き、それは小学生の時に初めて演奏会で聴いた協奏曲がこれだったから。第1楽章「Alleguro」はずん、ずんとリズムを刻んで(ウキウキしませんか)入場行進のよう。やがて管弦楽は躍動に弾けて、提示部ラストが繰り返される印象的な明るさ。第2楽章「Larghetto」のシンプルな音型による淡々とした出足は、管弦楽に優しくフォローされ、落ち着いた対話が続きます。第3楽章「Allegretto」はめまぐるしく転調し、いつもより暗転は少なめかも。しかし、この疾走する愉悦感は筆舌に尽くしがたい魅力でしょう。ヤンドーは走り過ぎず、叩き過ぎず、流麗さに不足もない。

 ニ長調協奏曲K.175は17歳、最初のオリジナルピアノ協奏曲でしたっけ。我らがヴォルフガングはすべて名曲ばかり、トランペット、ティンパニも入って21分に及ぶ堂々たる構えの傑作であります。例えば交響曲だったら初期と、晩年の作に同じ表現様式にて臨むには少々ムズかしさがあるかも知れないけれど、こちら32歳の「戴冠式」と続けて違和感やら、作品の魅力に欠けることもないでしょう。栴檀は双葉より芳し、やや明るくストレート屈託のない前世代(マンハイム楽派?)の風情をちょっぴり感じさせるくらい。第1楽章「Allegro」は悠々たるスケール、第2楽章「Andante」には典雅な落ち着き、終楽章「Allregro」晴れやかな表情が若々しくフィナーレを締めくくりました。

 ヤンドーは若き日の作品ということではない、粒の揃ったタッチに仕上げてお見事。ロンド イ長調K.382は後年1782年の演奏会に際して(再)準備された終楽章なんだそう。なんとも云えぬノンビリとした主題は変幻自在、7回変奏されカデンツァとコーダへと向かいます。これはもうヴォルフガングのマジック、ヤンドーはやや早目、スッキリ仕上げて途中、詠嘆の表情もたっぷり瑞々しい。

(2015年6月6日)

 ヤンドーはたいへんな実力者だと思いますね。NAXOSでベートーヴェンのソナタ全集やMozart の協奏曲全集、シューベルトのピアノ曲全集、最近ではバルトーク、リストの全集に取り組んでいます。Delta-Musicには、リストのピアノと管弦楽のための作品全集も残していて、向かうところ敵なし、どんな曲でも演奏可といった感じで意欲的な録音を続けています。

 このひとはメジャー・レーベルには顔を出さないので、ほとんど一般には名前は知られていない。「廉価盤専門の便利屋」と、甘く見たらあきまへん。リストの全集に取り組むくらいですから、たいへんなテクニシャンであるはず。地味ながら、どれもしっかりとしたオーソドックスな演奏で外すことはありません。ワタシ自身は、めずらしくナマでも聴きました。

 Mozart のピアノ協奏曲はどれといわずお気に入りで、手元にはかなりCDがあります。飾り過ぎてもダメ、普通に弾いてもそこそこに感動する名曲ぞろいでしょう。Bruckner演奏に似ているようで、少々違うかも。彼の全集は複数台の協奏曲、コンサート・ロンドも含めた完全版。

 「戴冠式」は後期の傑作中、ひときは地味で評価も低い。(が、ワタシは好き)ヤンドーは適正なテンポ、しっかりとした芯のある音色で、曲そのものの味わいを上手に表現しています。音色は地味〜派手さもないし、きらびやかな輝きでもないが〜無駄がない。淡々として、ヘンな思い入れもなく、クセを感じさせない。第2・3楽章での装飾音はとても楽しいもの。

 第5番は初期の作品ながら、それなりの大きさを感じさせる曲。「戴冠式」に比べれば屈託のないシンプルな旋律ですから、もう少し軽快にサッパリとまとめて欲しかったところ。立派すぎる演奏か?この辺りの曲は、古楽器が相応しいのでしょうか。後半に行くに従ってノリがでてきて、楽しい演奏に間違いはありません。

 コンサート・ロンド ニ長調は、ながくNHK-FMの朝の番組のテーマとして使われていた曲。他愛のない素朴な旋律に聴こえますが、じつは名曲中の名曲。聴けば聴くほど、魅了される不滅の名旋律。この変奏曲を聴いているとジ〜ンときますね。ヤンドーは早めのテンポで淡々と進めますが、途中でテンポを落としてしっとりと歌ってくれました。

 バックも充分の実力。Mozart の協奏曲って、わりとしょうもない薄い音の伴奏でも楽しめるものですが、バランスの取れた繊細なオーケストラだと思います。派手な個性はないけれど、いい味を出してます。少々乾き気味だけれど、録音も聴きやすい。演奏者の個性より、Mozart の作品をそのまま味わえて、座右に置くにははこんなのが相応しいかも。(1999年)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi