Schubert 即興曲 作品90/142(マルティン・ファン・デン・フック)
Schubert
即興曲 作品90/142
マルティン・ファン・デン・フック(p)
BRILLIANT 99678/19 2000年録音 11枚組 2,790円(税抜)で購入したウチの一枚
通常7枚でソナタ全集は収録可能だけれど、有名ピアノ・ソロ作品やデュオ作品も含め、計9人のピアニスト(少々知名度低いが)、11枚でこの価格!もってけ泥棒!しかも全部2000年新録音鮮度抜群!絶対買えよ!〜はい、即買いました、的素敵ボックスでしたね。(あとでスリム・ボックスになって収録便利だったが)
マルティン・ファン・デン・フックは1954年ロッテルダム生まれのピアニスト、だそうです。(解説に写真説明入り)この作品、ほんまに名曲ですよね。でも、これはとても難しい〜語り過ぎてもうるさいし、なにもしなさ過ぎても異様にシンプルな繰り返しが、時にツマらなく感じられることもあります。さて、フック様はどんな感じ?
いきなりハ長調作品90の第1番でしょう。これが少々辛気くさい旋律の繰り返しになっていて、淡々健康着実に進んでいくフック様。息詰まるような緊張感とか、極限のニュアンス付けてみました!方面ではなく、もっとのびのび、時にテンポも揺らせて、柄は少々大きめでしょうか。ほんのちょっぴり叩き過ぎ?煽り過ぎ、語り過ぎ、考え過ぎか。お次第2番変ホ長調は、流麗なるテクニックを爽やか、軽やかにに表出して欲しい・・・これはヨロしいんじゃないですか。なかなか。
細かい音形を次々走らせながら、千変万化の表情を見せて下さいました。中間部の暗転は抑制が利いております。夢見るような第3番変ト長調には少々”色気”やら”流れ”が足りませんか?少々生真面目にきっちり弾き過ぎですか?ラスト第4番は、桜が風に散りながら清流に浮かぶが如き儚さ・・・変イ長調、これは明るい表情がかえって切なげだし、中間部の寂しげな味付けも適度で、お見事な技巧だと思います。
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さて作品142に参りましょうか。第1番ヘ短調は、複雑に表情が変化していく、少々大規模なる作品ですね。フック様は、病的なる美音ではないんです。きっちり細部曖昧さなく、ていねいに表現して下さってわかりやすい世界。デリカシーにも不足はない。第2番変イ長調は万感籠めた懐かしさ!この作品は古今東西〜例えばバックハウスなどで(長く)馴染んでいるせいか、清潔清廉正確丁寧だけでは語り尽くせない。いえいえ、ここでの演奏も充分胸を打つべき高い水準です。でも”人生の陰影”とか”諦観”を求めてしまうと、フック様には少々可哀想ですな。一歩引いて、ちょっと醒めてますか。冷静かな。
第3番変ロ長調「ロザムンデ変奏曲」〜優しく美しい旋律ですよね。平静なる表情の穏和なこと。タッチが柔らかいこと。哀愁の変奏曲でも自然体が崩れない。ラスト第4番ヘ短調はなんやら、ノリが足りない・・・こうしてみると、大多数は快調で美しいピアノじゃないですか。
ピアノの音録りは難しいらしいが、適度な会場残響と空間が感じられて聴き疲れしません。ピアノの音色に”コツンとした芯”はとくに感じないし、そう美音とも思わないが、十全なる技巧(技巧派を目指していないと思われるが)と表現は、稀代の名曲を楽しむためにほとんど不足を感じさせない充実ぶりでした。
(2005年6月18日)