An Historic Return Horowitz at Carnegie Hall(1965年ライヴ)


SONY SX10K89765/5-6 Bach /Busoni

トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564

Schumann

幻想曲ハ長調 作品17

Scriabin

ピアノ・ソナタ第9番ヘ長調 作品68「黒ミサ」
詩曲第1番 嬰ヘ長調 作品32-1

Chopin

マズルカ第21番嬰ハ短調 作品30-4
練習曲第8番ヘ長調 作品10-8
バラード第1番ト短調 作品23

Debussy

人形へのセレナード(「こどもの領分」より)

Scriabin

練習曲 嬰ハ短調 作品2-1

MOSZKONWSKI

練習曲第11番 変イ長調

Schumann

トロイメライ(「こどもの情景」より)

ウラディミール・ホロヴィッツ(p)

SONY SX10K89765/5-6 1965年 カーネギー・ホール・ライヴ

 例の如し、草臥れサラリーマンによるド・シロウト感想駄文であります。これは1953年以来12年ぶりのカムバック「An Historic Return」の記録であります。うんと若い人はともかく、それなり経験を重ねた音楽ファンなら、誰でも知っている名盤中の名盤でしょう。ワタシ如き云々すべきことはなにもない・・・ホロヴィッツ61歳の記録、1989年迄長命を保った最晩年とは異なって、未だ現役、魔術のようなテクニック、美音は健在です。

 2008年オークションにてボックス・セット入手。4年以上棚中放置した罰当たり者(いくつか断片聴きしていたけれど)、その間にオーディオ・セット変更(=ディジタル・アンプへ)、これが大規模管弦楽の厚みを堪能するには少々非力?小編成作品、室内楽、ピアノ・ソロ辺りだとクリアに、リアルに鳴って下さるんです。オーディオにカネを掛けるつもりは毛頭なくて、その辺りは自分の縄張り外、そのことを大前提に・・・

 Bach 始まりました。ゾクッ!とするようなセクシーな音色、ホロヴィッツ以外あり得ぬ個性、これが東洋の片隅、尼崎のマンションの一室に、ホール空間が眼前に広がるリアルな空気感。いきなり痺れました。オーディオ専門の方の評価はどうかは知らぬけれど、自分とってはこれぞ極上音質の手応え有。あとは陶酔の時間が流れました。自分の得意な単品作品ばかり並べて演奏会構成するピアニストって、もうあまり見掛けないんじゃないでしょうか。一昔前はリヒテルとか、そんなコンサート演目組める大物おったんですが。

 BWV564は著名なるオルガン作品、巨大なるスケール+革新的な旋律を誇る名曲は、ピアノで朗々、スケール大きく表現され、ライヴ故の細かいミスタッチ伴いつつ、やがて徐々に熱を帯び、文句なしの感興に至ります。Busoni編曲がどうの、とか、ピアノによる演奏云々関係なく、ホロヴィッツの個性に彩られて浪漫の色濃い感銘。Schumannはお気に入りの作品であって、酔うような揺れに痺れます。勝手気ままではないのに、ほとんど自在に節回しを付けているような、時に止まり、間があり、劇的な詠嘆、疾走が繰り返される錯覚に陥りました。もの凄い雄弁。第2楽章のスタッカートにもかつてない躍動を感じます。第3楽章の繊細静謐なる陶酔も並じゃない。(ここでCD一枚目終了)

 Scriabinの「黒ミサ」はつかみどころのない、ほとんど無調難解な作品です。しっとり瑞々しく、存分に妖しく甘美官能的なタッチはホロヴィッツならでは。詩曲のほうはぐっとわかりやすい浪漫な旋律となります。水もしたたる〜とはこのピアノのことなのでしょう。次、Chopin が3曲続いて、こちらかなり馴染みな作品なのに、Scriabinのテイストそのまま引きずって、空気がかわらない。マズルカには土俗な雰囲気皆無、自在な(これも)揺れに充ちて、うっかりすると俄にCHPINとは気付きません。セクシーな練習曲というのも前代未聞でしょう。バラードの抜いたような静謐さ、極限の(さりげない)ニュアンスも彼の個性前面であります。

 Scriabinともかく、Chopin は標準演奏たり得ぬ、もの凄い個性であります。次からアンコールですか?

 Debussyの淡々として、もやが掛かったような世界。十八番であるScriabinの練習曲 嬰ハ短調は胸を締め付ける涙の旋律、MOSZKONWSKIは健全快速なる音型の繰り返しが魔術のような色彩を加えて流麗であり、万感胸に迫る「トロイメライ」は、甘美な睡りに誘う濃密な世界であります。熱狂的な拍手に納得。

(2012年10月28日)


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written by wabisuke hayashi