R.Strauss 交響詩「英雄の生涯」
(ヘルベルト・カラヤン/ベルリン・フィル 1974年)
R.Strauss
交響詩「英雄の生涯」作品40
ヘルベルト・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー/ミシェル・シュヴァルベ(v)
ECHO INDUSTRY(EMIの海賊盤) CC-1027 1974年録音 中古250円で購入。
お恥ずかしい「駅売海賊盤」(しかもこのCDはBOOK・OFFにて2度買いの過ちと記憶)、最盛期に比べおそらくは1/4ほどの約130枚棚中残、もう売ることも捨てることもできまへんで。演奏は最高!との評価(珍しく自分も、世評も)揺るがず、ところが録音評がいろいろなんですね。音楽は嗜好品なので評価が別れるのは当たり前、ワタシなど体調やら理解の深化(加齢か?)によって、ころころ評価を変えております。世の中に「究極の一枚」など存在するはずもない、各々が自分の宝物を探せば良いんです。オーディオは縄張り外と自覚して、きっと別世界に真理は存在すると想像していたけれど、リンク先のコメントを拝見しても音質評価は正反対に割れております。ふ〜む、なるほど。
こちらHQCDどころか、音源出目怪しい「駅売海賊盤」(著作隣接権改定前の駆け込みCD)+格安人民中国製ディジタル・アンプ+そもそも聴き手の耳も怪しいことを前提に、強烈な説得力と迫力、繊細な音質と聴きました。”お音が割れる”なんてこともなし。オリジナルはもっと一皮むけて、いっそうクリアに霧が晴れるような音質ですか?(以上、音質の件はコメント終了)
演奏印象は5年前と寸分違わず。冒頭「Der Held (英雄)」ボリュームが意外と小さいじゃないの、って、これは意識して抑えた開始なのでしょう。Des Helden Widersacher (英雄の敵)にも急いた印象はない、木管群の肌理細かい優秀なアンサンブルが印象的。Des Helden Gefahrtin (英雄の伴侶)に登場するヴァイオリン・ソロ(伴侶/ミシェル・シュヴァルベ(v))は絶品、これはラストまであちこち出現して、とろけるような美音をたっぷり聴かせてくださいます。
Des Helden Walstatt (英雄の戦場)。舞台裏からのトランペット(Mahler も使う手ですよ)を合図に、一気に戦闘モードに!打楽器の大迫力+金管の絡みあいは壮絶!かつ余裕。この辺り、オーケストラにたっぷり厚みがないとヒステリックになっちまう。シルクのように輝く優しい弦にも文句なし。(余談ながら、この怪しげ駅売海賊盤+我が家のエコ・オーディオ環境でもそうとうのクリアな分離と迫力堪能可能。響きはダンゴになりません)やがて混沌阿鼻叫喚の渦から「Der Held (英雄)」回帰して、その満足感たるや筆舌に尽くしがたいもの。
Des Helden Friedenswerke (英雄の業績)に入って、交響詩「ドン・ファン」のテーマ(ホルンはザイフェルト?)に泣けますねぇ。これをラストに音楽は静謐と諦観に向かって、力量あるオーケストラは弱音がしっとり豊かなんです。馴染みの著名作品旋律があちこち回帰して、「英雄の隠遁と完成」に向けてどんどん黄昏て、それはほんまに茜色の空を連想させる色彩豊かなものでした。こんな語り口の上手い、甘美な演奏を聴いちゃうと、ほかのが聴けなくなっちまうのが怖い。
(2013年3月31日)
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お仕事所用で地方に出掛け、BOOK・OFFを見掛けたら必ず立ち寄ります。これは岡山・津山店入手(5年程前?)だったかな?てっきり1959年DG録音かと思っていたけれど、じつは(p)1975表記を確認、EMIとの再録音〜カラヤン/ベルリン・フィル、アナログ最盛期の演奏と気付きました。賛否両論、喧(かまびす)しいカラヤンだけれど、それも生前圧倒的人気と膨大な録音故、こうして聴いてみるとその余裕と説得力に驚くばかり・・・って、じつは全く同じもの(駅売海賊盤)をダブり買いしていたことを発見!・・・大ボケです(既に処分済/BOOK・OFFへ)。閑話休題(それはさておき)
「余裕と説得力」・・・テンションの高い作品だし、いくらでも煽ること可能な派手派手しい作品かと思います。まず音質が重要〜こんな怪しげ非正規ライセンス盤で音質云々しちゃいけないが、自然体の奥行きある響き、あちこち不自然なパート突出もなく、バランス良く鳴り響きました。ワタシはR.Straussを少々敬遠しておりまして、”大見得!たっぷりとした節回し”的演奏(作品も)は避けたいところ。で、カラヤンは?
不覚にも感動してしまいました。(ご批判覚悟の上)
八分のチカラでまったく余裕綽々、バランスがよくて威圧感さえ必要としない圧倒的説得力。美しい「英雄」か。
そんな感動もあった数日後
どうも味が薄い。上手いオーケストラでさらりと流しました・・・みたいに感じちゃいましたね
とは、「音楽日誌」2004年6月の(いつもながらエエ加減なる、揺れ動く)コメントですな。そして幾数年を経、ワタシは少しずつR.Straussを聴けるようになって”エエ音楽だ”と感じるように・・・
これはほんま余裕の演奏であって、シュヴァルベの甘美なヴァイオリンを先頭に、シルクのように輝く弦が驚くべき効果を上げておりました。金管の技量迫力に不足はないけれど、常に”余裕余力”を感じさせて喧しさ皆無のマイルドさ。カラヤンは是々非々で聴いているけど、これは最盛期の記録だなぁ。緩みのかけらもない。
これが最新の手応え。
「Der Held (英雄)」にヒステリックな力みの欠片もなく、「Des Helden Windersacher (英雄の敵)」に於ける木管は、細部まで正確な技巧を誇ります。「Des Helden Gefahrtin (英雄の伴侶)」では、名手シュヴァルベのヴァイオリン・ソロ(伴侶を表現)が甘美であり、気品も漂う。上記既にコメントしたように、名人コンマスに率いられたベルリン・フィルの弦は、上質なるシルクの輝きです(愛の情景)。とろりとしてクサ過ぎ!と若い頃は感じたものだけれど、現在の耳には弱音の繊細な存在感に打たれるばかり。ホルンの美しい弱音って、ちょっと信じられない。
「Des Helden Walstatt (英雄の戦場)」こそド迫力オーケストラ実力発揮場面の神髄。戦いのシーンに於ける激しい打楽器も、ゆったりと的確にリズムを刻んで急がない。英雄と敵との戦いは、壮絶なる金管大活躍だけれど、響きは常に濁らない。ま、こんな場面はもっと若々しい推進力/躍動があってもよいのだろうが、「英雄の華々しい勝利」にシミジミ胸打たれました。やっぱり、ホルン(8本)が凄い。さすがベルリン・フィル、と認めざるを得ない。
「Des Helden Friedenswerke (英雄の業績)」辺りから音楽は黄昏(たそがれ)だして、カラヤンの老練な表現に似合います。相変わらずの瑞々しい弦に雰囲気たっぷりの木管が絡んで、官能(エッチ)の極みへ。「Des Helden Weltfucht und Vollendung der Wissenschaft (英雄の隠遁と完成)」に向けて、音楽は静謐に、かつ少々難解になっていくでしょうか。
弱音でオーケストラの厚み、深みが失われない驚き。弦はムーディですね。久々にシュヴァルベ登場、そしてホルンが壮大な夕日を眼前に繰り広げてくださって、感極まりました・・・(駅売海賊盤でばかりカラヤンを聴いていて、ちょっと反省)
(2008年9月5日)