アルテュール・グリュミオーの世界(1950年代)


アルテュール・グリュミオーの世界(1950年代) Tartini

ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」

Corelli

ヴァイオリン・ソナタ ニ短調 作品5の12「ラ・フォリア」

Vitali

シャコンヌ ト短調

Paganini

「こんなに胸騒ぎが」による序奏と変奏曲 作品13
魔女達の踊り 作品8

Kreisler

愛の悲しみ/愛の喜び/美しきロスマリン/ウィーン奇想曲/中国の太鼓

アルテュール・グリュミオー(v)/カスタニョーネ(p)

PIGEON GX287(PHILIPS海賊盤)1956/58年録音 1,000円で購入

 この購入価格もお笑いの世界だな。たしか、数年後に正規盤でもグリュミオーの録音はまとめて@1,000で出たと記憶します。閑話休題(それはさておき) 、これは1990年頃購入したはずで、当時としては出色の安価だったし、なにより選曲が優れて、しかも水も滴るような美音にも酔いしれるばかり。モノラルながら音質だって立派なものでした。

 まず、収録作品がまさにワタシ好み。LP時代、VANGUARD辺りの音源で1,000円/1,200円の「バロック名曲集」(音源寄せ集め)が出ていて、少々マニアック収録ほとんど初耳作品ながらどれも忘れられぬ嗜好を形作ったものです。Vitali「シャコンヌ」なんて、まさにそれ。(たしか、ヤン・トマソウの演奏/フランチェスカッティの管弦楽伴奏盤って、安く入手できないか/フェリックス・アーヨ盤ではチェロが効果を上げていた)バロック音楽は欧州各国を問わず大好きなんです。+ひたすらヴァイオリンの妙技を美しく、大仰に表現するPaganini、とどめはウィットに富んだKreisler・・・文句なし。1,000円も高くないっ!(こともないか)

 Tartini(ジュゼッペ・タルティーニ1692年〜1770年)はイタリアの人で、大Bach が1685年生だからほぼ同世代か。「夢の中で、悪魔が美しい旋律を弾いた」という、誠しやかなる逸話で有名だが、そうとうな技巧を要求される難曲だそうです。戦前より録音のレパートリーとして普及していたせいか、いわゆる”バロック”風には聞こえず、端正なる浪漫的旋律の名曲としての印象なのは、グリュミオーの表現故かも知れません。朗々と良く歌う上品なヴァイオリンだが、そこは未だ30歳代中盤、途中やや走り気味なところもありました。終楽章、細かい音形が重音で継続するところは圧巻!

 Corelliはソナタ全集(おそらくこれとは別録音)をLP時代に堪能したものです。「ラ・フォリア」とはもともと舞曲の一般名だが、あまりにCorelliが有名になったので、一般にはこれを指すようになってしまったそう。哀愁の旋律が次々と変奏されていく、これまたバロックとは思えぬ変幻自在なる作品です。グリュミオーはあくまで気品を失わず、艶やかに、表情豊かに歌を持続させます。

 (とくに)お気に入りVitali「シャコンヌ」だが、現在の研究では真作ではないそう。(そんなことは音楽の価値とは無縁也)これは大Bach に負けぬ劇的な魅力に溢れて、甘美な苦悩は(やはり)バロックの世界とはほど遠い効果を上げております。ヴァイオリンの響きはまったく濁らない。激昂しない。玲瓏(れいろう/金属などが澄んだ音で鳴る様子)として、楚々とした”涙”さえ感じさせて静謐甘美。浪漫と呼んでも差し支えありません。

 従って、続くPaganini/Kreislerとの(作曲年代による)違和感はまったくありません。「こんなに胸騒ぎが」のベル・カントな(?)旋律は前3曲との印象とかなり変わって自在な歌に間違いなし。「魔女たちの踊り」も含め(例の)超絶技巧が要求されるが、涼しげな表情と繊細な味付けで”汗水”を感じさせません。美しく、クールなPaganiniなんです。

 残りKreislerの代表作には文句なし。ワタシ「愛の悲しみ」が大好きなんです。胸が切なく、きゅっ!としませんか。正攻法で真面目、いくらでもポルタメント方面に表現できる旋律だが、控えめであり、抑制され、隠しても滲み出る色気が床しいヴァイオリンでした。 

(2007年5月25日)


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written by wabisuke hayashi