Brian 交響曲第1番ニ短調「ゴシック」(マーティン・ブラビンズ/
BBCコンサート管弦楽団/
BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団・合唱団他)


Hyperion CDA67971 (William Havergal) Brian

交響曲第1番ニ短調「ゴシック」

マーティン・ブラビンズ/BBCコンサート管弦楽団/BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団・合唱団/バッハ・クワイアー/ブライトン祝祭合唱団/バーミンガム市交響楽団ユース・コーラス/ウェールズ合唱団(コル・カエルディーズ)/エルサム・カレッジ少年合唱団/ハダースフィールド合唱協会/ロンドン交響合唱団/サウスエンド少年少女合唱団/デイヴィッド・グード(or)/スーザン・グリットン(s)/クリスティーネ・ライス(ms)/ピーター・オーティー(t)/アラステア・マイルズ(b)

Hyperion CDA67971  2011年7月17日 ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールBBCプロムス・ライヴ)

 (「音楽日誌」転載)
 ロイヤル・アルバート・ホールは”茫洋として芯が足らぬ”音質であります。奏者800人以上、演奏時間110分を超え、演奏至難、ギネス級の交響曲!といった要らぬ知識ばかり、じゃ、実際はどんな音楽なの?以前よりオンドレイ・レナルト盤(1989年)には興味はあっても、買う勇気は失せておりました。プロ初演1966年エイドリアン・ボウルトのも出ているらしい。1919年〜1927年作曲、初演は1961年、時代は既にStravinskyとかハードな新ウィーン楽派でっせ、やはり大編成なMahler の交響曲第8番の初演は1910年に済んでおりました。

 結論から先にいうと、わかりやすい穏健派の旋律はけっして難解に非ず。但し、これほどの大編成演奏者人数や長さを必要とする作品なのか?あちこち美しい旋律サウンドは連続するけど、例えばMahler に於ける人懐こい旋律、胸を締め付けるような詠嘆、大地を揺るがすほどの大音響、計算され尽くした構成〜に非ず。こちらやはり英国なのだな、情感の起伏の少ない含羞と矜持を基本として、けっこうカッコよいサウンドなんだけど、耳目を驚かせるような変化に乏しい全5楽章。なんせ長いし、編成バカでかいし、なんやワケわからん・・・Mahler の交響曲第8番変ホ長調だって、慣れるまでけっこう時間かかって、最初は阿鼻叫喚混沌混迷の渦としか思えませんでしたもの。ClassicMusicには少々の慣れと根性、お勉強が必要なのは当たり前。バングラディシュ・コンサートにてラヴィ・シャンカールも似たようなことを言っていた・・・はず)

 第1楽章「Allegro assai」〜冒険活劇映画風不安な出足、すぐ優しいヴァイオリン・ソロに導かれて静謐なサウンドが延々と続きました。美しく幻想的なサウンドは安易といえば安易なわかりやすい大衆的なもの。華々しい金管+打楽器を伴って、幾度か盛り上がり、緊張感もあり・・・結局、それは大爆発やら破壊には至らない、多くの楽器が登場するのにハデな色彩に至らないのはいかにも英国音楽でしょう。約12分。第2楽章「Lento espressivo e solenne」は葬送行進曲。耳あたりよろしい荘厳な旋律に厚みと不気味さ有。ややヒステリックに音量は上がって、金管に不協和音も出現、やはり英国の矜持と抑制を感じさせ、美しいが有為転変というか、変化には乏しいかも。Vaughan Williamsをちょっぴり思い出します。ここも約12分。

 第3楽章「Vivace」。静かにフクザツに蠢く開始。金管も打楽器も囁くように遠い。やがて弦の詠嘆が開始され、声高に絶叫してもそれは長く続かず、静謐な囁きに戻ります。そして再びの弦+管の叫びが戻って・・・やはりそれはすぐに収束していく。途中、打楽器大活躍!な嵐の場面有(ここキモでっせ)。わかりやすい旋律エピソードが繰り返される風情の12分間。ここまで計36分ほど?美しくわかりやすいけど、決め手に欠ける?大編成に相応しい大爆発も見られぬ感じ。どんなに盛り上がっても耳に不快なサウンドに至らず。アタッカで次楽章へ

 第4楽章「Te Deum laudamus: Allegro moderato」。冒頭ア・カペラの声楽はグレゴリオ聖歌を連想させ、それを多彩に発展させたような、美しい瞬間であります。わずか1分少々、この際5分位延々とこの路線で行って欲しいのに、即俗っぽい金管のシンプルな旋律に引き継がれます。そして喜ばしい、大洋のうねりのような合唱が絡んで華やかに盛り上がります。この辺り、Vaughan Williamsの海の交響曲を連想、というかよう似てませんか?この楽章、好きやなぁ。途中、無伴奏に至ってあくまで合唱主体、デリケート繊細な各声部の絡み合いに陶然とするのは、マーティン・ブラビンズの薫陶の成果でしょうか。18分。

 第5楽章「Judex:Adagio molto solenne e religioso」。女声合唱の幻想的な開始に、男声も呼応して不協和音は抜群に効果的。声楽ソロも出現して伴奏抜きア・カペラは延々静かに盛り上がります。女声ソロはグレゴリオ聖歌風でもあり、Vaughan Williams「南極交響曲」の雪女の呼び声風でもある。これが5分続いて(ここまで全曲中の白眉でしょう。最高傑作部分)、ありがちなトランペットのファンファーレ(「復活」終楽章を連想)〜冒険活劇風大衆的旋律が金管+打楽器の迫力で対比される・・・けど、さっきの神秘的な声楽とは別世界の俗っぽさでっせ。9分過ぎに声楽回帰しても基本は冒険活劇路線。オーケストラには優しい風情も復活して打楽器参加、いかにも明るく盛り上がって〜風かと思ったら、ラスト部分近く男声の不安な陰り有〜そのままクライマックスへ。16分。なかなかエエじゃないの、この楽章。

 第6楽章「Te ergo quaesumus: Moderato e molto sostenuto」終楽章36分、これが長い。さっきの楽章で終わっても良いじゃないの。オーボエ・ダ・モーレ〜テナーの甘美な歌より開始。これが朗々と盛り上がって金管の爆発へ引き継がれ、即収束して静かな木管、弦、テナーのソロに回帰する〜大爆発が続かぬのはBrianのパターンかも。この部分もわずか5分ほど、やがて少年合唱が爽やかに参入、喜ばしげなソプラノ・ソロへ(言語意味不明)〜分厚い合唱とオーケストラが参入して、この阿鼻叫喚混沌混迷な響きこそ終楽章に相応しいほんまの大爆発であります(10分辺り/でもすぐ終わる)。やがて声楽のみとなり、これってやはりグレゴリオ聖歌風?3分ほど後、徐々にオーケストラが参入して女声は海を表すようなヴォカリーズへ。14分過ぎにオルガンやオーケストラも全面参入、合唱と対等に渡り合う・・・

 各パートの響きは多彩・・・問題は構成感なのでしょう。美しい(かなり俗っぽい)エピソードが羅列される、といったことなのだな。ド・シロウトに有機的なつながりは見えません。せっかくの大編成もその必然性より、演奏機会を減らすことにしかなっていない・・・Stravinskyならいくらでも縮小編成改訂版を作るでしょう。Mahler だって「嘆きの歌」1楽章分ばっさり切って改定してますし。冒頭書いたように、やや残響過多、芯の甘い音質はライヴ+大編成だから仕方がない。ブラビンズの統率力、完成度はライヴとは思えぬでしょう(編集していあるのかも)。合唱の水準(ヴォカリーズ部分での説得力抜群)、艶やかなオーケストラも立派。

 ラスト、大音響(幻想交響曲風打楽器も凄い+合唱渾身の発声!)に至っても必ず静かに収束するのも英国か。特異な大編成問題、長大な作品ということでイロモノ扱いされているけど、ちゃんとした作品でっせ。2011年のプロムスはたいへんな話題となってチケット・ソールドアウトだったそう。8分に渡る拍手も収録。どこか業績の良い企業がスポンサーとなって、アマチュアでも集めて日本初演!してくれんか。

written by wabisuke hayashi