ギレリス1984年ライヴ


ERMITAGE  ERM163-2「ギレリス1984年ライヴ」
Scarlatti

ソナタ集
ニ短調K.141/ヘ長調K.518/ニ短調K.32/ヘ短調K.466/イ長調K.533/ロ短調K.27/ト長調K.125

Debussy

ピアノのために

Schumann

交響的練習曲 作品13

ギレリス(p)

ERMITAGE ERM163-2 1984年ロカルノ聖フランチェスコ教会ライヴ $1.99で購入

 これはまだ円高で、個人輸入がびっくりするほどお得だった時代の入手CDでしょう。以下の旧文書には日付がないから、20世紀中サイト開始直後のものと類推されます。ギレリスには「鋼鉄の打鍵」などという強靱硬質なるイメージが存在する(実際そういう録音もあるかもね)が、ここでは晩年の深く、幅広く、重心は低く、柔らかく抑制されたタッチでありながら”芯”をしっかり感じさせる、むしろ内省的なスタイルが魅力です。

 しかも、ありがたいことにワタシ好みの作品収録がずらり。テクニックの衰えは微塵も感じさせない(かな?「交響的練習曲」第3変奏曲「ヴィヴァーチェ」辺りは少々苦しいか)。

 「↓録音の関係で強奏がやや濁る」とは、かつての自分の言い分だけれど、数年ぶりに再聴すればそんなことはない。ピアノの自然な存在感と、けっしてヒステリックに響かない、落ち着いた味わいです。Scarlattiは「↓バロックとは思わせないロマンティックなテイスト」・・・そうですね。大河の流れのように淡々粛々として端正なスタイルは崩さないが、揺れ動くような情感が溢れました。(テンポが揺れたり、タメがあったりするワケではない)急がない、軽率ではない、そして鈍重では(もちろん)ない。

 Debussyだったら、もっと繊細神経質で、儚(はかな)げな表現が好まれるでしょうか。これはもっと漆黒に艶めいて、落ち着きある大人の演奏であります。仕上げが雑だったり、デリカシーに欠けるワケでもない。やや遅めのテンポは盤石であって、軽快流麗ではない。「トッカータ」はもっと快速で、熱気が充満していた作品の印象があるが、ここではしっかりとした歩みと、噛み締めるような味わいを堪能できます。

 Schumannの「交響的練習曲」って、こんな哀切の世界でしたっけ?このCDどこでもいっしょだけれど、華やかではないんです。勢いで流すことなどあり得ない。歩みは着実であって、迷いがない。表現の基本は「淡々粛々端正重心太芯」だろうが、作品の個性かな?ココロをざわめかせるような悲劇が感じられました。表情は常に抑制されているが、情感は豊かであります。

 万感迫る「フィナーレ」の晴れやかさ。(↓「カレーの宣伝に使われて」というのは「謝肉祭」の誤りではないか?中村紘子さんの出ていた)「演奏会のライヴ」としての存在感貴重な、繰り返し聴き、座右に於いて然るべき魅力ある一枚。

(2005年11年25日)


 この録音は、かつてFMで放送されエア・チェックして気に入っていたもの。(カセットもいまだに所有)その重心の低い(重苦しい・・・といった意ではなく)ピアノの響きに魅了されます。晩年の演奏ながら、技術的な衰えは見られません。録音状態もきわめて良好。

 まず、ワタシいつもお気に入りのスカルラッティ。ギレリスは得意にしていたみたいで、ほかにも数種類の録音が残っています。長調3曲短調4曲の選曲ですが、聴いた印象は「短調ばっかり」。なんか、音色がもの悲しいんですよ。

 かつて「鋼鉄のピアニスト」(当時、鉄工業が日本の花形産業であった)と形容されたように、強靱なタッチではありますが、硬質で透明な響きに、年齢的な暖かさも加わって、なんとも云えない奥行きのある音色。良い意味で音に重さと暗さがあり、深さも有。録音の関係で強奏がやや濁るものの、どの曲も哀愁漂って、バロックとは思わせないロマンティックなテイスト。

 ドビュッシーは、彼のピアノ曲の中でもっとも好きな曲のひとつ。
 ギレリスとドビュッシーというと違和感がありそうですが、この音色には説得力充分。「ドビュッシーはほんわかとして・・・・」なんて、思っていると大間違いで、堂々たる自信に満ちあふれた骨太さ。それでいて繊細さも失わず、トッカータにおける遅めのテンポ、コクのある響きの見事なこと。

 シューマンは、かつてフィナーレがカレーの宣伝に使われて一気に有名になった曲。スケールが大きくて、線が太く、圧倒されます。シューマン特有の、気紛れで甘い旋律は万全に表現されます。

 1960年前後のライヴ録音を聴くと、この人はもっと「叩き付けるような」打鍵だったと思うのです。ここでのピアノは、力はあるがもっと自然体で貫禄も有。重鈍ではないが、腹に響くような美しさ。

 晩年、DGに録音したブラームスとかグリーグ、ベートーヴェンは聴く機会を持っていません。ワタシも年齢を重ねてきたせいか、ギレリスのほの暗く重い音色も悪くないな、と思うようになってきました。


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written by wabisuke hayashi