Beethoven 交響曲第5/6番(フルトヴェングラー/ベルリン・フィル)


Beethoven

交響曲第5番ハ短調 作品67(1943年)
交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」(1944年)

フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー

MUSIC & ARTS CD-824  2枚組600円で買ったウチの一枚

   フルトヴェングラーには録音条件が整ったCDは少なくて、ガマンして聴かなくちゃいけないものも多い。彼の演奏は一概に好みだけれど、生来のズボラ性格で「どんな音源も揃えたい」などという大それた野望もありません。これも安かったから買ったもの。油断すると、どんどん増殖するのが怖いBeeやんの交響曲。

 「田園」が素敵でした。ベルリン国立歌劇場(もちろん焼け落ちる前)のライヴだそう。例の旧ソヴィエット軍が持ち帰った音源でしょ?音の状態は、それなりに満足できる水準。ウィーン・フィルとのスタジオ録音は未聴だけれど、聴き慣れた名曲に新しい光が差したように思いました。

 第1楽章は「Aregro ma non troppo」という表記だけれど、ずいぶんとテンポが遅い。ま、「テンポは会場によって変わる」(フルトヴェングラー談)だそうだから、早い遅いが問題ではない。でも、カラヤン(1962年)の表面的な演奏に比べると、ややクドい旋律の繰り返しを入魂の音に変えるにはこれしかない、といった確信を感じさせます。

 良く歌っていて、第2楽章は細部までのこだわりの徹底。アンサンブルの親密さ。密かに深呼吸をするような、落ち着いた味わい。ベルリン・フィルの音色が聴きもので、渋くって、どの楽器もなんとも言えない味わいが深い。カラヤン時代以降の艶やかな響きとは異なります。

 第3楽章スケルツォにおけるホルンの朗々たるソロは、ドイツの森にこだまする狩りの合図。リズムの重さ、時に思い切った「間」も個性的。激しいアッチェランドにアンサンブルが乱れるのはいつものこと。嵐は猛烈なテンポ・勢い。

 終楽章はクラリネット〜ホルン(またまた良い感じ)〜弦へ引き継がれる安堵の旋律が、たまらない喜びとなって押し寄せます。多少のアンサンブルを犠牲にしても、どんどんスピードを上げていくフルトヴェングラー。いつもながらの念押しに揺れるテンポ。ラスト、粘りに粘り抜いた、テンポ・ダウンの個性的なこと。

 ハ短調交響曲は一年前のライヴ録音(会場不明)で、バランスは少々悪い。でもこの演奏、流麗で早めのテンポ(しかも自在に揺れる)が決まっています。提示部の繰り返しをしてくれて、例の運命の動機のフェルマータを、ここまで思い切って強調してくれる人は滅多に存在しないはず。ここでもホルンが気持ちヨロシ。

 スケルツォは充分に不気味だけれど抑え気味、それで終楽章の盛り上がりの対比ができる計算か。フィナーレはゆっくり目のテンポではじめて、すぐ快速(相当に)となります。とめどもなくテンポ・アップしていって、もうどうにも止まらない。

 ま、それにしてもこれほどアツく、熱狂的で、個性ある演奏はもう消えてしまったのでしょうか。一期一会的な演奏で、日常座右に置くような録音ではないかも知れないが、永遠の価値がある演奏にはちがいありません。(2001年2月23日)


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written by wabisuke hayashi