フランスのピアノ協奏曲集


Boieldieu
ピアノ協奏曲ヘ長調

ワーグナー/インスブルック交響楽団/ガリング(p)

Massenet
ピアノ協奏曲

ランドウ/ヴェストファリャ交響楽団/ドース(p)

PIERNE ピアノ協奏曲ハ短調 作品23
Lalo ピアノ協奏曲ヘ短調

クンシュ/シュトゥットガルト・フィルハーモニー/ドース(p)

CHAMINADE
ピアノ小協奏曲 作品40

フロマン/ルクセンブルク放送管弦楽団/マルシアーノ(p)

ROUSEL
ピアノ協奏曲 作品36

スプリンガー/ハンブルク交響楽団/リッタウアー(p)

Francaix
ピアノ協奏曲

フランセ/ルクセンブルク放送管弦楽団/C.P.フランセ(p)

VOXBOX CDX5110 録音年不明(1960年代か)  2枚組 1,800円くらいで購入

 「暮らしの手帳」という雑誌があるでしょう。だいぶ昔だけど黒田恭一さんが連載をしていて、「聴き慣れた有名な曲を楽しむこと、そのことにはなんの問題もない。ただ、新しい未知の音楽を求めていかないと、音楽に対する気持ちにゆるみが出ないでもない」旨が書かれていた記憶があります。古今東西の古典と呼ばれる音楽は、なんど聴いても新しい発見があるもの。それでも、似たような曲ばかり、往年の巨匠、若手、珍しいライヴ、無名の演奏家、などと次々追いかけるばかりでは少々空しい。

 廉価盤の魅力は「未知の美しい音楽の発見に、経済的リスクが低いこと」が上げられるでしょう。どうしてこんな美しいのに、演奏されなかったり、録音が少なかったりするのかが不思議な秘曲は存在します。VOXは音質に少々難はあるものの、そういった未知なる曲のリリースに熱心なレーベル。全7巻にわたる「ロマンティック・ピアノ協奏曲集」は圧巻でした。(ただし、ワタシは第7巻以外は買い損ねているので残念)この「フランスピアノ協奏曲集」も貴重な録音であることは間違いはなし。

 ボアエルデューは、ベートーヴェンとほぼ同世代のフランスの作曲家。わずか20分弱。ベートーヴェン初期やハイドンのテイストを持った華やかなで牧歌的、素朴な喜びに満ちています。細かい音型が流れるようで、優しい味わいにも欠けていない。ガリングはかつてVOXでBach の鍵盤音楽の全集を録音していたような実力者で、軽快で弾むようなリズムが美しく、繊細。バックになんの不満もありません。(R,ワーグナーは、探すとけっこう録音がある)

 マスネは(ボアエルデューもそうだけど)オペラで有名ですが、ピアノ協奏曲は存在すら初耳。もともと彼はピアノの名手だったそうす。曲目表記上の調整は付いていません。28分ほど。幻想的で気まぐれな第1楽章はいかにもフランス的だし、第2楽章ラルゴの静かなソロが、もういかにもオペラ・アリアの旋律、で甘く切ない。そうだなぁ、さっぱりとしたラフマニノフ、といったらわかりやすいでしょうか。最終楽章は相当に似ている。

 ドースの技術はしっかりしていて文句なしだけれど、録音のせいか音色に芯を欠きます。ランドウのバックはかなりお粗末でリズムももっさりとしているが、ガマンできない訳じゃありません。

 ピエルネも珍しい。甘さ一辺倒ではなくてかなり変化に富んだ、多彩な旋律がひと味違う。ハ短調という調整からも想像できるように、劇性もあって、でもやはり浪漫的な美しい旋律との絡みもあり、これはこのセット中出色の名曲。20分弱。時代の関係か、この曲もラフマニノフの味わいが濃厚。スケルツォのお茶目な軽快さ〜妖精たちの戯けた踊りのような〜楽しさ。終楽章は、ピアノにかなりの技巧を要求しそうな細かい音型の旋律が続きます。深刻な旋律と、やすらぎが交互に出てきて、不安定な気持ちのまま終了します。

 この曲は、全体に音の鮮度を欠いてワン・ランク低い録音水準。但し、ドースのピアノは充実していて、シュトゥットガルト・フィルのアンサンブルも悪くない。

 ラロといえば「スペイン交響曲」。でも、ピアノ協奏曲もなかなか聴き応えたっぷり。24分ほど。スケールが大きく、ロマンティックなゆったりとした旋律が美しい驚きの名曲。まるでチャイコフスキー並(もっとシンプルだけれど)の臭い旋律。息の深い単純な主題の繰り返しが、じょじょにクレッシェンドしていく盛り上がりはなかなかのもの。(だから、すぐ覚えられる)第2楽章もパターンとしては同じ。(これをワン・パターンという。でも、やはり引きつけられる)終楽章は一転ブラームスばりの重厚なはじまりから、第1楽章の主題が回帰します。

 この曲、コンサート映えすると思うんですけどねぇ、誰かやらないもんでしょうか。ドースは力強くメリハリのついた打鍵が最高。バックもよく合わせているが、響きの薄さは隠しようがない。録音は(このレーベルにしては)まぁまぁでしょう。

 シャミナードは、フルート協奏曲などで有名な(たしか)女性作曲家。16分ほど。いかにも華やかで、旋律が気まぐれなラプソディです。小さい花火があちこちで乱舞しているような、きらびやかで粋な曲。オケとピアノの関係が有機的で、「ソロとバック」みたいな単純なもんじゃありません。これは楽しい。

 全体にややノイジーで、奥行きは薄目だけれど充分華やかな録音。そしてソロ。VOXでお馴染み、ルクセンブルグ放送管も手慣れたもんです。

 フランス近代のなかでは暴力的な音楽で楽しませてくれるルーセルは、ピアノ協奏曲でもその期待を裏切りません。いわば土俗的で、大衆的に崩したバルトーク。ここまでの5曲が、いかにもわかりやすい甘い旋律系の音楽だったのに対して、冒険活劇映画音楽の「危機の場面」風。無定見な旋律、不協和音の続出。でも、そこはおフランス、難解ではなくて、やや食傷気味だったここまでの「甘み」をキリリと引き締めてくれる「辛み」と感じました。

 この曲もそうとうな技術を要求されそうですが、リッタウアーのピアノは文句なしの技巧。音色も充実。主にVOXのみに登場するハンブルク響(放響ではないはず)も、期待を裏切ってなかなか繊細なアンサンブル。

 フランセはは相当な高齢だけれど、まだ存命なはず。(1912年生まれ)VOXに自作の録音をたくさん残していて、そのうちの一曲と想像されます。クロード・パイヤール・フランセは息子か親戚筋か?これが小粋で、軽快で、スキップしながら上機嫌でパリの町並みを散歩しているような味わい。鼻歌混じりでね。そう「パリのアメリカ人」に似ていて「パリのパリジャン」でしょうか。17分ほどでこのセットの中でもひときわ短い。全編、小声でおしゃべりしているような上品さも感じます。

 でも「フランスのピアノ協奏曲集」を締めくくるのに一番相応しい。ワタシのように東洋の片隅で、まだ見ぬパリを想像するじゃないですか。いかにも、それを音楽でそのまま表現してくれたような洒落た曲。演奏は細かいニュアンスたっぷりで最高。

(2000年7月20日更新)


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written by wabisuke hayashi