フリッツ・ブッシュ/デンマーク王立放送交響楽団2枚組


フリッツ・ブッシュ/デンマーク王立放送交響楽団2枚組 Beethoven

序曲「レオノーレ」第2番(1950年)

Mozart

交響曲第36番ハ長調 K.425「リンツ」(1949年)

Mendelssohn

交響曲第4番イ長調 作品90「イタリア」(1950年)

Brahms

悲劇的序曲 作品81(1950年)

Weber

歌劇「魔弾の射手」序曲(1948年)

Haydn

協奏交響曲 変ロ長調 Hob.105(1951年)

Brahms

交響曲第2番ニ長調 作品73(1947年)

R.Strauss

交響詩「ドン・ファン」 作品20(1936年)*

フリッツ・ブッシュ/デンマーク王立放送交響楽団/ヴォルシング(ob)ブロッホ(fg)ハンセン(v)メディチ(vc)/ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団*

IMG Artists(EMI)7243 5 75103 2 5 2枚組 1,050円

 フリッツ・ブッシュ(1890〜1951)は往年の巨匠世代(フルトヴェングラーが1886〜1954)の指揮者だけれど、1933年に母国を去って南米などに活躍の場を移したこと、これから録音活動が盛んになるであろう時期に亡くなってしまったこと、などの理由であまり聴かれる機会が少ない指揮者かと思います。1934年音楽監督に就任したイギリス・グラインドボーン音楽祭での「コジ・ファン・トゥッテ」(1934年)「フィガロの結婚」(1935年)「ドン・ジョヴァンニ」(1936年)が、もっとも高名な録音でしょうか。(正直、購入して数年、まともに通して聴いておりません!罰当たり!反省)

 更に、(ロンドン・フィルはともかく)デンマーク王立放送交響楽団というのが(録音でも)聴く機会が少ない、馴染みがほとんどない。(バーンスタインのNielsenくらい?)・・ということで、「未知の世界を探求する」ワタシの縄張り範疇である(と勝手に判断して)しっかり聴いてみたいな、と思いました。2枚目「魔弾の射手」よりスタート。

 1948年録音とは思えぬ少々ノイズ有〜SP復刻か?でも、それはすぐに気にならなくなってホルンの奥深い音色、弦のジミ目なことなど、ちゃんと独墺系のサウンドとなっておりますね。かなりキリリと賑々しい、勢いも、メリハリもある表現が同年代巨匠とは一線を画します。いかにも歌劇の幕開けに相応しい味わい有。お次Haydnの協奏交響曲はMozart に比べると(一緒のCDに収録される機会が多い)人気が落ちるようだけれど、ブッシュの直截な表現はピタリ!だと思いますよ。

 素朴でノンビリした旋律は、のびのび気持ちよく清潔に表現されます。過度の指揮者の個性前面ではなく、古典的佇まいのなかに、いきいきウキウキ楽しげな風情も漂う。ソロも親密で上手いものだし、オーケストラは厚みがあって暖かいですね。大仰なるテンポの揺れはあり得ないが、微細な表情の変化とノリが楽しめます。

 Brahms の交響曲がまた凄い。センスとしてまったく現代的で、異形なる濃厚浪漫的旋律表現はまったく存在しません。きりりとして、かっちりメリハリあるストレート系緊張感連続!トスカニーニ方面か?いえいえ、オーケストラの響き(響かせかた)がそもそも違っていて、もっと滋味深い方面なんです。煽ってはいないが、そうとうに強烈な勢い+淡々とした歌(第2楽章。それにしてホルンの音色に色気がある)もあって、胸が空くような、ぐいぐい燃えるような演奏。

 ちょっと体調回復(この執筆時点、昨夜は風邪かインフルエンザか?調子悪かったので)の反映かな?爽快な気分。この作品はいろいろ聴いてきたが、これほどの感銘は記憶がない・・・それとも、もっと交響曲第2番って、もっと静かにジンワリ味わうべき作品でしたか?少々異形ですか?

   「ドン・ファン」が収録中では一番旧い、戦前の録音となります。(オーケストラはロンドン・フィル)疾風怒濤風速いテンポと勢いに充ちたもので、途中優美な表情にも知的抑制が感じられて、音質を除けば時代を感じさせませんね。「フリッツ・ブッシュはザッハリッヒだ」とのコメントをネットで拝見したが、そうでしょうか。非情さ、みたいなものではなくて、暖かいサウンドに充ちていると聴きましたが。*指摘があり、ピッチが半音高い、とのこと。SP復刻の失敗ですか?

 デンマーク王立放響って、なかなか芯も厚みもある良い音で鳴っておりますね。「レオノーレ第2番」(推進力有)/「イタリア」(優雅な表情から大爆発へ)/「悲劇的序曲」(まさに”悲劇”累々)が1950年のライヴ録音でして、臨場感たっぷり、テンションの高さはスタジオ録音では聴き取れないもの。亡くなる前年でしょ?心臓で急死かなぁ、この時点でこれほどの元気ですからね。強弱のメリハリ、表情の刻々とした変化は先に述べたとおり。ここでは時に発揮される、テンポの揺れも有効でした。

 「リンツ」は、端正で真面目・真正面、スピード一杯の元気演奏でした。オーケストラの響きはあくまでマイルドで明るく、余裕があって瑞々しい。第2楽章はときにポルタメントも見られて、優雅で溌剌としてよく歌う。センスはモダーンで、古さはまっく感じさせません。バランス感覚もあります。(第3楽章「メヌエット」)爽やかでデリケートな味わいに充ち、希望に溢れ、楽しげなる最終楽章。ワタシは、すっかりフリッツ・ブッシュのファンになってしまいました。

(2005年4月22日)


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written by wabisuke hayashi