Faure ヴァイオリン・ソナタ第1/2番
(ピエール・ドゥカン(v)/テレーズ・コシェ(p))


FIC  ANC-114  ERATO?1958(56?)年録音  1,000円ほどで購入?
Faure

ヴァイオリン・ソナタ第1番イ長調 作品13
ヴァイオリン・ソナタ第2番ホ短調 作品108

ピエール・ドゥカン(v)/テレーズ・コシェ(p)

FIC ANC-114  ERATO?1958(56?)年録音  1,000円ほどで購入?

 ここ最近独墺系交響曲の高圧的な響きに耐えられなくなって、こういった小粋な旋律、”線は細目で豊満系の響きではない。粘着質とは無縁で静かにつぶやくよう”な演奏が好ましい。これは聴取に問題ない水準のモノラル録音。ドゥカン/コシェ往年の仏蘭西名手による演奏は、艶々のヴィヴラートを雄弁に表出するものではなく、飾りの少ない清楚な姿で語り過ぎない。ピアノの抑制したスタイルも好ましい。

 これがFaureのさっぱりと甘い旋律によく似合うのだな。購入は1990年代初頭だったはずだから、もう十数年の愛聴盤也。駅売海賊盤法外なる1,000円だって、これだけ馴染めば安いものです。

 第1番イ長調は夢見るような憧憬で開始されます。長調の作品だけれど心象風景わずかにゆらゆら揺れ動いてデリケート。第2楽章は物思いに耽る静謐さがあり、快活なスケルツォである第3楽章を経、ラスト、時に激情の迸りを見せながら、安らぎの味わいが瑞々しい。抑制を基本として、馥郁たる香りが漂う。

 ネットで記事を拝見すると、第2番ホ短調は難解で人気がないらしい。なるほど、久々の拝聴は不安げ不安定な旋律、リズムが支配する第1楽章「アレグロ」から、第1番イ長調ほどのわかりやすい甘美は存在しません。それでも幻想的で静謐な世界は、聴き手の感性を擽るに充分なる魅力たっぷりと思います。やがて、しっとりとした”歌”が混沌の中から出現して、さらさらと音楽は自然に流れます。

 第2楽章「アンダンテ」もムダを削ぎ落としたような”枯れた”絶望を感じさせる旋律、シンプルなリズム。終楽章は、変幻自在な転調を繰り返して、一筋縄ではいかぬ複雑な心情が描写されているよう。第1番イ長調のフィナーレより”激情の迸り”よりいっそう少なく、粛々と、やがて大きな情感のうねりがやってまいりました。

 亜細亜の片隅、ド・シロウトがイメージするとところの”粋なお仏蘭西”の香り、たっぷり満喫いたしました。

(2009年8月14日)

 ピエール・ドゥカン(1927〜1995)はフランスの往年の名ヴァイオリニスト(だそう)で、フランス国立管のコンサートマスター、パリ音楽院の教授でもあった由。(インターネットで調べました。あんまし、よう知らん)これLP時代、たしかエラート1000シリーズで出ていて楽しんだもんです。CDでちゃんと現役なんでしょうか。

 カンという若手ヴァイオリニストがいるでしょう。NAXOSからなかなか素敵なCDをたくさん出してくれてます。同じFaureもありまして(8.550906)、録音も新しくて爽やかだけど、このフランスの名人とは少々意味合いも味わいも違うみたい。

 結論的にいうと、色合いとか、香りでしょう。こんなこと言っちゃ元も子もないが。これは技術とかの世界じゃないからムズかしい話しですね。まぁ、なんと申しましょうか、スピーカーから香気が立ち上るような錯覚に陥ってホンワカ。

 この2曲、ちゃんと調べていないが、作品番号的に初期と後期の作品でしょうか。(調べてみると第1番が1875〜76年、第2番が1916〜17年作曲とのこと)イ長調ソナタは、憧れが沸き上がるようなピアノに乗って、ヴァイオリンが清楚でした。甘い情感が満ち満ちてこれは得がたい経験。ひとり静かに若い頃の楽しい想い出を噛みしめているようでもあります。

 ホ短調は旋律がやや複雑で転調もめまぐるしい。人生の苦悩が刻まれてるようだけれど、やはり甘やかさは滲み出ています。切ない「痛み」もちゃんとある。ヴァイオリンの音色がどうの、とかあまり気にならないが、線は細目で豊満系の響きではない。粘着質とは無縁で静かにつぶやくようであり、絶叫とは縁遠いヴァイオリン。

 これおそらくエラート原盤のはずだけれど、この後の録音が存在するのでなかなかCDにならないのでしょう。モノラルだと思いますが、悪い録音ではありません。1990年に(少なくとも)一度国内盤で発売されたが、現在、市場に出回らないのはもったいない。こんな怪しげCDでしか聴けないのも不思議な話しです。控え目なピアノも名人芸で、収録時間も少ないがこれがオリジナルの収録のはず。(2002年2月1日)


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written by wabisuke hayashi