Bach イギリス組曲第2/3番(ポゴレリチ)


Bach  イギリス組曲第2/3番(ポゴレリチ) Bach

イギリス組曲第2番イ短調 BWV807
イギリス組曲第3番ト短調 BWV808

ポゴレリチ(p)

DG F35G20076(415 480-2) 1985年録音 380円(中古 定価3,500円)で購入

 ワタシはポゴレリチの佳き聴き手ではなくて、このCDも偶然に、しかもBach だから、と入手したもの。つまり、彼の録音はほかに一枚しか(話題になったショパン・コンクール絡み)聴いたことがないし、しかも好意的な印象を持てずにおりました。この写真、ええオトコですよね。当時28歳か・・・ん?ワタシと同い年齢(とし)か、今やったら(ワタシ同様)おっさんになってますか?閑話休題(それはさておき)

 この2曲の演奏はまったく見事でして、イギリス組曲(この題名の由来は不明)特有の前奏曲がリズミカルに始まると、瑞々しく、音楽は粛々と進みます。アルカイックであり、淡々と快速であり、響きは乾かず、タッチはとても繊細で濁りがない。かといって艶やかなる美音とも言えない。特別なあざとい個性がハナに付くことはないが、たしかにポゴレリチの色が感じられて、裏地・隠し包丁的味わい深さが快い。

 リキみはどこにも存在せず、激昂することもなく、各舞曲毎の表情をガラリと変えるようなこともありません。配慮の行き届いた表現だけれど、息詰まるような入念なる化粧じゃないんです。むしろ、とつとつとした味わいで進んでいくが、変化に乏しいと単調に感じたり、退屈したり、そんなことはない。スタッカート奏法が基本(レガート表現はほぼ皆無)だけれど、例えばグールドのような「乾いた情感」みたいなものではないんです。あくまで自然体、あるがまま。

 リズムはハズんでいるが、浮き立つ感情が前面に表出しない。あくまで静謐であり、Bach の知的な世界が余すところなく語られます。無表情ではない、能面がその陰影で微妙にココロの動きを示唆することに似ているでしょうか。(おそらくは完璧にコントロールされた)技巧は、技巧として表面に浮かびません。両曲ともラスト・ジーグはずいぶんと素っ気なく、さっぱり終了しますね。そのことが、その後の無音に寂寥の余韻を生み出しております。

 ワタシは彼の演奏を聴くべき時期に至ったのでしょうか。このCDとの出会いを感謝しないと。彼は一時の話題としてではなく、息の長いピアニストになりましたね。

 1985年、この時期はまだディジタル収録の経験が少ない頃だろうが、理想的な音でピアノが収録されていると感じました。頭の中では、Bach の旋律が数日間鳴り続けました。

(2005年4月14日)


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written by wabisuke hayashi