Elgar 交響曲第2番 変ホ長調 作品63
エドワード・ダウンズ/BBCフィルハーモニック
Elgar
交響曲第2番 変ホ長調 作品63
エドワード・ダウンズ/BBCフィルハーモニック
NAXOS 8.550635 1993年録音 880円
同曲異演経験は音楽を楽しむ上で必須条件だと思います。それなりに高名な作品であれば、自分の琴線に触れなかったのは、たまたま出会った演奏との相性だったせいかも知れません。ワタシは10歳の頃からこの類の音楽に馴染んできたが、人生の折り返し地点を過ぎてから、ある日「!」的覚醒をいただいた音源はかなりの数に上りますね。一方で「たまたま出会って、それが安い」という購入動機なので在庫が偏ることもしばしば。このElgar 交響曲第2番を一枚しか所有していないのは偶然です。超・地味渋系作品だから、廉価盤でも中古出物でもワタシの縄張りに出現比率が低かった。
Sir Edward Downesは主にオペラ畑で活躍した大ヴェテランですよね。もう、引退したのかな?マンチェスターのBBCフィルは、1934年BBC北部管として創立、1967年にはBBC北部交響楽団、1982年には現在の名称になったらしい。昨年2004年に来日して、新潟地震のチャリティ・コンサートも実施したことは記憶に新しいところ。Elgar(というか英国)の作品は一般にジミだし、交響曲第1番が数枚手許にあるのに比して、聴く機会が少なかった。で、この度、第2番56分にようやく開眼。
まず、録音極上。マンチェスターのNew Broadcasting Houseというコンサートホールで収録されたそうで、残響といい奥行きといい、ズン!と響く打楽器辺りの揺れる空間も鮮明です。高音が刺激的にならず、自然にじんわり鳴って品を失わない。勇壮な金管楽器の叫びと、しっとり弦で歌われる冒頭から、響きに奥床しさがあって、抑制の美しさが映えます。Brahms の世界にも似るが、あれほど雄弁な世界じゃない。歩みはあくまでゆったりとして、あわてない、急(せ)かない。音量とは別な次元で静謐なんです。
作品との相性故か、BBCフィルの響きは理想的ですね。弦にも管にも豊満な艶を感じさせないが、ドレスデンみたいですか?と問われれば、もっと淡彩であって、音の厚みとか、痺れるような腕利き団員の主張、みたいなものは存在しない。薄くヒステリックかというと、もちろんそんなことはない。地味ながらオーケストラ全体が溶け合って、ついにティンパニも絡んだ金管の大爆発へと至るが、ついぞ威圧感はやってこないんです。やさしく、激昂しない。
第2楽章「ラルゲット」の弦は幻想的に調和しております。これほど美しい弦は久々に聴いたような気がしますね。表情あくまで柔和だけれど、空はいつも曇っているような味わいもある。呼吸を長くして、静謐なる情熱を語っているようであり、精神(ココロ)は安寧に溢れ、日々の暮らしに感謝、的弱音の魅力が続きました。じわじわ盛り上がっていって、金管とティンパニが頂点を形作る(第1楽章と同じテイストだ)が、それは潮が引くように収束されて、まるで誰もいない海。
第3楽章「ロンド」は、軽快で愉快なリズムなのに、寂しい気分に変わりはないんです。弦のほの暗く激情する旋律が魅力ですね。やがて全体を躍動が包んで大音響もやってくるが、それはすぐに収束して遠慮がちな囁きが支配します。集中力ある良いアンサンブルですね。時に木管のソロが(少しだけ)出現するが、弦に寄り添うように微笑みを返して美しい。打楽器(4/5人配置しているはず)大活躍(素晴らしい音響!)だけれど、賑やかな印象は受けません。
終楽章は、穏健なる旋律が昂揚しながら大団円を目指しているようで、胸がアツくなりますね。疾走する大爆発とか、詠嘆の表情を煽ったりとか、そんな世界とは無縁だから、人気出ないでしょうか。セクシーな旋律とは言えないし、むしろ少々難解だし。やがてトランペットの絶叫から黄昏の風景へと場面は転じて、夕映えの一本道を静かに去っていく背中のように、孤独な情景が広がりました。
極東の地・日本で勝手に思い込んだ”英国のテイスト”だけれど、こんなもんじゃないでしょうか。ゆっくりだけれど、歩みは着実で微笑みを絶やさない。日は沈んでいく。人生の幸せは、たしかに存在する。女性の方々には失礼なる言い方かも知れないが、これは「男の音楽」なんです。