シューラ・チェルカスキー(p) Chopin 名曲集(1985年)Chopin
ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 作品58 シューラ・チェルカスキー(p)(1985年録音) NIMBUS NI1748/4 7枚組3,000円 今年2010年はChopin 生誕200年記念だそう。あちこちイヴェントやら新しいCD、DVD発売、そして演奏会が各地で開催されるのでしょう。あまり熱心な愛聴リスナーじゃないけど、棚中ニキタ・マガロフ全集をリファレンスとして、時々その甘美な旋律を愉しんでおります。これは76歳の録音。もとより技巧のキレなど求めてはいなくて、なんという”間”の絶妙、得も言われぬ味わい。ムリのない枯れきったタッチは自然体のニュアンスに至って、細部のやや弾き流し(デフォルメ表現?)もふくめ熟練の粋と評して良いでしょう。聴くほどに滋味深い。ちょっと弱々しいけど。もちろん若々しく溌剌なる躍動や勢いは期待できないけれど。 ピアノ・ソナタ第3番ロ短調は「ソナタ」といった題名が聴き手(=ワタシ)に先入観を植え付けて?26分の長丁場をあまり堪能できたことはないんです。これが第1楽章「アレグロ・マエストーソ」から達観し肩の力が抜けて、柔らかな優しいタッチはほとんど別の作品を聴く思い。途切れず第2楽章「スケルツォ」に突入するが、これも同様のつぶやくような、そっとしたタッチ。少々テクニックの詰めが甘いような気はしないでもないが、それを上回る幻想的、雰囲気辺り一面薄霧のようにしっとり立ち込めました。これはこれで得がたい経験也。 第3楽章「アダージョ」の昔語りのような淡々静謐表現は絶品!ここまで音楽は途切れず、満を持して終楽章前に一息、そして深刻なるフィナーレへと突入します。声高に叫ばなくても迫り来る悲劇を存分に表現して、ラスト迄叩いたり、徒に走ったりしない、滋味深い、親密で重心の低い演奏でした。全曲通してひとつの妖しい幻想曲を聴いた感じ。 マズルカには絶妙なるリズムの揺れ/タメがあり、夜想曲のゆったりとしたテンポはかすかに遠雷が響くようでもあり、気怠い静謐が支配して自然と揺れ動き、ほとんど消え入るような世界となります。後ろ姿から滲み出る深い哀しみがある(作品72)。これも馴染みの旋律なのに、ほとんど別ものに聞こえちゃう・・・ ラスト、ワタシお気に入りのアンダンテ・アスピアナート。粛々淡々と、透明な心情が広がって陶然といたします。華麗なるポロネーズには精一杯の華やかさはあるけれど、技術の衰えは少々聴いていて痛々しい感じ有。それでもスケールの茫洋とした大きさはあって、聴き手を暖かい気持ちに包み込んで下さいました。 (2010年2月26日)
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