Bizet 歌劇「カルメン」抜粋(マリオ・マリオ・デル・モナコ(t)/
アレクサンドル・メリク・パシャエフ/ボリショイ劇場管弦楽団 1959年)


Bizet 

歌劇「カルメン」抜粋

アレクサンドル・メリク・パシャエフ/ボリショイ劇場管弦楽団/アルヒポーヴァ(ms)/マリオ・デル・モナコ(t)/マスレンニコーヴァ/リシチアン 

LP→DAT→MDに保存(コロムビア・ダイヤモンド1000シリーズ)  1959年6月13日ボリショイ劇場ライヴ

 マリオ・デル・モナコのみイタリア語、他はすべてロシア語というもの凄い録音。CD時代になってむしろ手に入りやすくなりましたが、LP時代は「いったいどうしてこんな音源が?」状態で、しかもマリオ・デル・モナコの絶唱ばかり集めた不思議な収録なんです。もともと映像も含めた放送音源だけれど、これに限っては出所がわからない。よろしい音ではないが、聴きやすい。

 ま、なんと申しましょうか、とにかくマリオ・デル・モナコのアツい激情の前に言語の違いなど、すべて無力化させる衝撃を持った一枚。「なんという態度だろう」「母の便りを聞かせてよ」〜悪女のはずのカルメン=アルヒポーヴァが可憐に聞こえるくらい、テンションが高くて鳴り響くテナー。これこそウワサの「黄金のトランペット」か。

 「花の歌」ラストの長〜く伸ばしたサビ、そして絶妙の泣き(大受け!拍手喝采!)。「いいえ、愛してはいないわ」における、硬質で生真面目なアルヒポーヴァの責め〜深まるドン・ホセの苦悩を表現するたしかな存在感。(この絡みがアツい!喝采!)。「なんの恐れることがありましょう」〜マスレンニコーヴァの怪しげな雰囲気を醸し出すロシア語歌唱。緩い歌い手のヴィヴラートと、ホルンの甘いヴィヴラート(これ聴きもの)が一脈通じます。

 「オレはエスカーミリョだ」は、横柄なロシア兵の味わい。(言語がね。闘牛士じゃないな、こりゃ)でも、マリオ・デル・モナコはたしかにドン・ホセなんですよ。「ミカエラとドン・ホセの二重唱」は、オケも合唱も勢い溢れて荒々しい魅力タップリだけれど、マリオ・デル・モナコの涙の絶叫に圧倒され、会場は怒濤興奮の渦に巻き込まれます。

 第4幕のみ全曲収録されていて、「アルルの女」でお馴染みの旋律がいっぱい出てくるんです。版が違うんでしょうか、こんなに長い管弦楽部分は聴いたことはないし、バレエを踊っているらしい音(ファランドール)も聞こえます。オケの肌理が少々粗めで、テンポも速い(というか、どんどこ速くなる)、テンションの高さはピカイチで、これがライヴの魅力を堪能させます。

 さて、誰もが知っている悲劇的なフィナーレへと突入します。混声合唱の、乱れきった叫びもここでは相応しい。「闘牛士の歌」が、なんと高揚することか。泣き叫び、まろびつつ復縁を迫る男の執念〜それを断固として拒否する「ニエット!」(すんげえロシア語の効果)の冷たくも決然とした女の否定。(恐ろし)

 ある時は優しく、ある時は激高し、また嘆き、懇願し〜って、これ眼前に情景が浮かびます。言語の意味を失う、というか「なにを訴えたいのか」がはっきり理解できる。これがマリオ・デル・モナコの力量であり、天才のワザなんです。ラスト、刃物を持って追いすがるドン・ホセ、叫びつつ逃げるカルメン。闘牛の雑踏が遠くに聞こえます。ぼうだの涙の中で、愛した女を刺し殺さなければならなかった悲しき男の運命よ。

 こんなマンションの一室で聴いていても、完璧に入れ込んだ激演が眼前に浮かぶから、実際はいかほどの感動があるのでしょうか。大声で泣き叫ぶドン・ホセって他にいるんでしょうか。いつもいつも聴けないくらいの興奮が怒濤の如し。(2002年6月14日) 


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written by wabisuke hayashi