Brahms ピアノ作品全集
(マーティン・ジョーンズ)〜(2)


NIMBUS NI 1788  1989/90/91年録音  6枚組2,780円で購入

Brahms

4つのバラード 作品10
Schumannの主題による変奏曲 作品9
ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品5

マーティン・ジョーンズ(p)

NIMBUS NI 1788 1989/90/91年録音  6枚組2,780円で購入

 Martin Jonesは生年不明だけれど、1968年デビューとなっているから60歳くらいかな?イギリスのピアニストで、知名度はともかく録音はたくさんあります。このジャケット写真はあまりいただけない。NIMBUSはもう倒産したみたいだけど、Brahms のピアノ曲全集としては一番安かった記憶があります。「2001/12/31」(購入)というメモが挟んでありました。通販で購入したはず。

 ルービンシュタインの一枚(RCA)が気に入って、とにかく全集が欲しかったんです。ビレット(NAXOS)を数枚買ったけど、ちょっと表情が硬くて好きになれなかった。だからといって、このジョーンズ全集がお気に入り、というワケでもないのですが。明らかに”若者向け”の音楽じゃなくって、人生の苦渋が実感として迫り、降り積もると、ある日突然理解できるんです。いずれご縁で手許にやってきたCDボックス〜大切に聴きましょう。

 録音で少々損をしてますか。集中力を欠いて”音の芯”不足気味。時に音が(ヒステリックに)割れます。少々乱暴な印象も一部ありましたね。ジョーンズさんのリキみすぎかな?その辺りをガマンすれば、曲にも演奏にも雰囲気があって、ちょっと人生が切なく思えてきた中年おじさんには心象ピタリ、でしたね。

 「4つのバラード」作品10は、Brahms 最良の瞬間でしょう。途方に暮れ、とぼとぼ薄暗闇の道を帰る草臥れ中年(いや初老かな?)の背中が眼前に浮かびます。この曲がじんわり胸に浸透するようになると、人生の黄昏が近い、といった自覚もあります。強奏でね、やっぱり平板な響きになることはあります。おおむねトツトツとした味わいがあって、切ない心情をたっぷり味わえることでしょう。

 「Schumannの主題による変奏曲 作品9」は、主題にSchumann「色とりどりの小品 作品99」〜「5つのアルバムの綴りのテーマ」、バステーマにはクララの「ロマンス・ヴァリエ 作品3」が使用されております。クララにも同名の作品20があり、Brahms は出版社に「同時出版してね」とお願いしました。

 ま、彼は師匠の妻を愛していたにも関わらず、優柔不断なる性格故か成就せずに人生を終えます。この辺りの行為に、彼の未練がましいストーカー的性癖が見え隠れするかも・・・(以上、週刊誌的ネタでした)。Schumannの甘い旋律が一気に、リズムが崩れて根暗い詠嘆へ移り変わります。ま、この中年の繰り言が増殖していくのだね。どんどこ幻想的に。酔うほどに愚痴は増え、懐かしい思い出を回顧し、やがて静かに眠ってしまう。

 細かい音型〜つまりかなりのテクニックが必要なところで、やや流し気味か。しかし全体として、静かなる部分での歌い込みに不足はなくて、嗚呼、この作品ってほんま名曲。切ないっす。

 ソナタはかなり雄弁な、やっぱり暗い雰囲気で始まる作品。第二楽章は「悲愴ソナタ」にちょっと似てますね。安寧に満ちた、繊細なひととき。若かった頃の暖かい思い出か。大好きな楽章です。第3楽章「フィレンツェの思い出」に似た、躍動する哀愁と激情。

 第4楽章「間奏曲」は「運命」のリズムが連続して、やっぱり深刻。終楽章の流れはとても良い感じ。この人、弱音では美しい味わいがあります。ピアノは美音とは言えないでしょう。味わい系だけれど、オーソドックス過ぎて特別なる個性的味わいは薄いのかも知れません。ルービンシュタインやら、ケンプの老熟した深さ、には少々疎遠でしょうか。

 しかし、Brahms のムッツリとした味わいはちゃんと出ていて、ワタシは彼の全集を数回楽しみました。

(2003年12月19日)

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written by wabisuke hayashi