Brahms ピアノ協奏曲第1番ニ短調(スティーヴン・コヴァセヴィチ(p)/サヴァリッシュ/ロンドン・フィル)/
「アルトのための2つの歌(鎮められたあこがれ、聖母の子守歌)」(アン・マリー(ms))


EMI  5 75502 2  7枚組総経費込1,700円ほど?にてオークション入手 Brahms

ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15

ティーヴン・コヴァセヴィチ(p)/ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ロンドン・フィル(1991年)

アルトのための2つの歌(鎮められたあこがれ、聖母の子守歌) 作品91

アン・マリー(ms)/今井信子(va)/スティーヴン・コヴァセヴィチ(p)(1994年)

EMI 5 75502 2/4 7枚組総経費込1,700円ほど?にてオークション入手

 Brahms はBeeやん程でもないにせよ、やや苦手系、それでもピアノ・ソロ、室内楽だったら落ち込んだ心象風景に似合って聴く機会は多いものです。大柄な2曲のピアノ協奏曲は好んで聴くわけでもないが、ここ最近、偶然入手が連続して在庫を確認いたしました。その中でとくにこのコヴァセヴィチ盤が印象深く、手応えありました。EMI録音は一般にコシのない音質が多いと感じる(我が貧者のオーディオ環境との相性も有)んだけれど、この録音も例外とは言い難い〜が、オフマイクで芯ははっきりしないが、残響豊か、瑞々しく、柔らかく響いてこの作品から威圧感を除いております。もちろん演奏の質にも依るのでしょう。

 この時期、サヴァリッシュはフィラデルフィア管のシェフだったのに、いったいどーして?ロンドン・フィルと一連のBrahms 録音をしたのでしょうか。(当時ウェルザー=メスト時代)この演奏の傷にはなっていないが、時にオーケストラの響きやや薄く、ホルンなどの音色に不満はないでもない。豊かな残響に救われている印象もあります。いろいろ聴いたけれど、この演奏が一番気に入りました。スティーヴン・コヴァセヴィチのピアノはエエ感じに地味で、キラキラ華やかだったり、強靱な威圧感からは遠いものなんです。テクニックを要求される作品だけれど、切れ味鋭い技巧の冴えは表出させない。粛々と自分の仕事をします、てな感じか。

 第1楽章「Maestoso(堂々と、威厳をもって)」にはテンポ指示がないんだけれど、たいてい落ち着くところに落ち着いて、あまり違和感たっぷりな演奏は聴いたことはない。先ほど”オーケストラの響きやや薄く”と失礼なことを書いたけれど、サヴァリッシュのオーケストラは端正に、しっかり地に足付けて貫禄充分の開始でっせ。迫力も充分であり、響きはぎらぎらせず”渋い”感じ。コヴァセヴィチは美音でもないし、強烈硬質な打鍵でもなし、内省的であり、落ち着いた風情であり、走らない。静かな部分は弱くなく、粛々ゆったりと歌って説得力有。悠々と落ち着いた風情に説得力がありました。サヴァリッシュのオーケストラとの相性も上々。

 第2楽章 「Adagio」 。クララへの手紙の中で、この楽章を新たに書き起こしたことについて「あなたの穏やかな肖像画を描きたいと思って書いた」と述べている〜とは、wikipediaの情報だけれど、まるっきり恋文じゃん。深く抑制した情感が、奥底に流れているのが理解できる繊細、かつ暖かい(でも女性的なものではない)演奏であります。静謐繊細なる楽章であり、とつとつとしたタッチによる後ろ向きのモノローグであり、深いため息と諦念が感じられる後ろ姿〜絶品、ここ全曲中の白眉。ロンドン・フィルも幻想的なサウンドで、そっとピアノを包み込みます。

 第3楽章 「Rondo: Allegro non troppo」 は激しい激情が迸(ほとばし)る出足。どんよりと重いタッチではなく、また安易に走り出すものでもない。キレのある強烈タッチではなく、やや芯のはっきりしないピアノは録音のせい?軽妙で柔らかいタッチの技巧はたしかなものでしょう。サヴァリッシュともどもリズム感がよろしく、青白い炎がじょじょに燃え広がった”ノリ”有。ものものしい重圧感なし。これだけ熱演しても、派手な印象はないんだな。第2カデンツァの流麗はそう滅多に聴ける演奏ではない・・・サヴァリッシュは上手いですね。爽やかに盛り上がって全曲を締め括りました。

 ヴィオラを伴う女声ソロが組み合わされていて、これぞ制作者の矜持を感じさせるものでしょう。アツく、盛大に終えた協奏曲のあとに、しっとりと瑞々しい歌声、ヴィオラのセクシーなオブリガートが絶品のクール・ダウンであります。「聖母の子守歌」(訳)は勝手にネットより引用いたしましょう。

吉田秀和訳

Die ihr schwebet um diese Palmen
あなた方、この棕櫚の樹をめぐって

In Nacht und Wind,
夜どおし 風のなかを 飛びかう

Ihr heil’gen Engel, stillet die Wipfel!
聖なる天の御使いたち 梢の騒ぎ(さやぎ)を鎮めて頂戴

Es schlummert mein Kind, - es schlummert mein Kind.
坊やが眠っているのよ 坊やが眠っているの

Ihr Palmen von Bethlehem im Windesbrausen,
あなた方 吹き荒ぶ嵐の中のベツレヘムの棕櫚

Wie mogt ihr heute so zornig sausen!
何でまた今日はそんなに怒り猛るの

O rauscht nicht also,
どうか そんなに騒がないで

Schweiget, neiget euch leis und lind,
黙って そっと やさしく頭を垂れて頂戴

Stillet die Wipfel! stillet die Wipfel!
梢たち 静かにして 静かにして 梢たち

Es schlummert mein Kind, - es schlummert mein Kind.
坊やが眠っているのよ 坊やが眠っているの

Der Himmelsknabe duldet Beschwerde;
天の御子は苦難に耐え

ach, wie so mud’ er ward vom Leid der Erde,
世の苦しみにどんなに疲れたことでしょう

Ach, wie so mud’, wie so mud’ er ward vom Leid der Erde,
世の苦しみにどんなに疲れたことでしょう

Ach, nun im Schlaf ihm, ihm, leise gesanftigt,
あゝ、今こそ眠りの中でそっと宥められ

die Qual zerrinnt,
苦悩は消えてゆく

stillet die Wipfel, stiller die Wipfel,
梢たち 静かにして 静かにして 梢たち

Es schlummert mein Kind, - es schlummert mein Kind.
坊やが眠っているのよ 坊やが眠っているの

Grimmige Kalte sauset hernieder,
怒り哮る冷たい風が音立てて吹きおりてくる

womit nur deck ich des Kindleins Glieder!
どうやったら坊やの手足を覆ってやれるの?

O all ihr Engel, die ihr geflugelt wandelt im Wind,
風のなか あちらこちら 小迷い歩く 天の御使い 翼ある天使たち

Stillet die Wipfel, stillet die Wipfel,
梢たち 静かにして 静かにして 梢たち

Es schlummert mein Kind, - es schlummert mein Kind.
坊やが眠っているのよ 坊やが眠っているの

(2011年1月14日)

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written by wabisuke hayashi