Brahms ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品54
(マウリツィオ・ポリーニ/クラウディオ・アバド/ウィーン・フィル)


Brahms ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品54(ポリーニ/アバド/ウィーン・フィル) Brahms

ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品54

マウリツィオ・ポリーニ(p)/クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー

エコー・インダストリー(海賊盤) 1976年DG録音  1,000円

 Brahms はやや苦手方面の作曲家ではあるが、この長大なるピアノ協奏曲になんらの抵抗はありません。ワタシはLPでルービンシュタイン/クリップス/RCAヴィクター交響楽団(1958年)と出会いました。延々と続く老人の繰り言のような、愚痴、あるいはため息のような遺恨に充ちた旋律を、やさしく、柔らかく、暖かく聴かせてくださった記憶があります。機会があればまた聴いてみたい。

 このCDはLPを全部処分して、CDで曲目のレパートリーを回復すべく、全盛期だった「駅売海賊盤」を買いだした初期の頃。(1990年頃?)法外なる価格だけれど、ずいぶんと楽しませていただきました。ポリーニ34歳若き日の録音。アバドだってまだ43歳。

 全体としてブルー系の涼やかでクリアなサウンド。完璧なソロの技巧〜彼は天才だろうが、天性のものというより、知的に計算され、訓練され尽くした完成度を感じます。バックのアンサンブルも同様〜ホルンは大活躍だけれど、「嗚呼、美しい」というより「完璧」といった印象が先立ちました。オーボエも、フルートも、後述するチェロ・ソロも。ウィーン・フィルのBrahms というと「ふっくらゆたかで余裕のスケール」的先入観があるが、やや神経質で引き締まってスリム。第2楽章は「表情を一切変えずに激高した」ような「燃える冷酷」みたいな印象がある。音楽は青白く白熱するが、ピアニストも指揮者も汗ひとつかいていない・・・

 第3楽章、チェロ・ソロ先頭に「ウィーン・フィルの弦」を堪能すべき楽章でしょう。たしかに極上に繊細だし、美麗な弦に間違いはない〜しかし、セクシーではない。肉感とか官能性を感じない。あくまで知的でクール。ピアノが囁きながら参入し、細部までニュアンスが行き渡っているが、包み込みような懐かしさは存在しない・・・ピアノの音色は派手に輝きすぎず、常に知性を失わない。感情表現も計算され尽くして一分の隙もない。一音たりとも、安易に流した旋律はあり得ません。どんな弱音にも緊張感が漲る・・・

 表現が至らず、悪口のようになってしまったが、この完成度は希有のものだし、ワタシはこの演奏を10年聴き続けて飽きません。先人が築いてきた「厚ぼったい響きのBrahms 」を一掃した演奏かも知れません。クリスタルのような硬質な輝きを持った極上表現。最終楽章、叩き付けるソロは強靱だけれど、それさえ狙い定めた効果の成果か。しかも響きは濁りません。

 「不純物は許さない」といった決意の音楽と聴きました。これ1曲のみ50分弱の収録でも、続けて別な作品を聴けません〜緊張感に疲れ果てました。ポリーニの新録音は未聴です。

(2004年10月5日)

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written by wabisuke hayashi