ブーレーズ・フェスティヴァル'95ほか


Bartok
バレエ音楽「不思議なマンダリン」

ブーレーズ/NHK交響楽団/晋友会合唱団(1995年5月30日サントリー・ホール・ライヴ)

Scho"nberg
管弦楽のための3つの小品(遺作)

Webern
管弦楽のための5つの異版 作品10

ブーレーズ/アンサンブル・アンテル・コンタンポラン

Scho"nberg
ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 作品47

クレーメル(v)/バレンボイム(p)(以上1995年6月1日サントリー・ホール・ライヴ)

Ravel
「ラ・ヴァルス」

ブーレーズ/ベルリン・フィルハーモニー(1993年3月24日フィルハーモニー・ホール・ライヴ)

Schubert
交響曲第8番「未完成」より第1楽章

ヴァント/ベルリン放送交響楽団(1993年3月20日シャウシュピール・ハウス・ライヴ)

DATにてFMエア・チェック〜MDへ

 休みの日に、脳みそカラにしながら趣味に打ち込む快感。ふだん整理整頓の行き届かない男だから、こうしていつのまにか貯まってしまった、エア・チェック音源をMDに落としていくのも楽しいもの。あらためて聴き直すと、貴重な音源であったと気付くこともあります。

 手元にあるMDが74分用なので、なんとかムダなく納めようと考えるのも楽しい。まず、1995年の「ブーレーズ・フェスティヴァル」からNHK交響楽団との演奏から収録。ブーレーズの体力もすごくて、連日連続してLSO、NHK交響楽団、CSO、アンサンブル・アンテル・コンタンポラン、と演奏会を続けるのは驚くばかり。NHK交響楽団とはRavel 「ダフニスとクロエ」と「マンデリン」が演目でした。(「不思議なマンダリン」って、この訳なんとかならんでしょうか)

 バルトークに駄作は存在しないが、この曲、けっこう難しくて楽しく聴かせるのには苦労するはず。NHK交響楽団も、ブーレーズの手にかかるとずいぶんと洗練された響きになるのは少々驚きでした。リズムのキレも悪くない。これだけで聴いていれば、不満はない完成度なんです。アンサンブルの精緻さも文句ないでしょ。

 でも、ほかのオーケストラとの共演を聴き比べると、金管楽器の音色が垢抜けない。色気が足りない。技術的な不備はないが、先入観抜きで、どうも静謐さが足りないかも。それは、次のアンサンルブ・アンテル・コンタンポランの演奏を聴けば、よく理解できます。

 シェーンベルクもウェーベルンも、なかなか求めて聴く機会は少ないが、切りつめられ、最低限の言葉の中に真実を込めたような、難解で哲学的な音楽。短い曲ですが、透明な響きのなかに、巧まざる官能を感じさせるようで、思わずなんども聴き返したくなるものです。

 クレーメル/バレンボイムという恐るべき顔合わせも、説得力があって、避けて通るような縁遠さは感じさせません。拍手も盛大。で、ここまででひと区切り。


 次の2曲は、じつはエア・チェック失敗の音源なんです。放送の録音って、電波状況が急に悪くなったり、テープが足りなくなったり、スイッチのタイミングを誤ったりと、いろいろと事故はつきもの。「ラ・ヴァルス」はラスト数秒のところでテープ切れ(惜しい !)、ヴァントは、タイマーの設定ミスで冒頭数分間が切れてしまいました。(ふつう廃棄してしまうのですが、これは珍しく残しておりました)

 「ラ・ヴァルス」は、これ以上ない、と思われるぐらい見事な演奏。おそらくブーレーズは、かなりオーケストラに細部を任せているはずで、そのにじみ出る色気は並みの水準ではない。冒頭、仏頂面でリズムを刻むが、弦が優雅な旋律を刻み出すと、もう陶酔の連続です。たしかにその多彩さは、カラヤン伝統のものだけれど、厚化粧できつい香水プンプンの世界(それを好まれる男性も多いことでしょう。時にワタシも???)ではありません。

 厚みのある圧倒的な迫力は健在だけれど、もっと爽やかで気持ちのよい味わいがあって、喩えて言えば1990年頃、キョンキョンが風邪薬のコマーシャルに出ていたような、ちょうどそんな好感を覚えます。(なんの説明にもなっていないか。例が旧すぎ!なので、プチモビクスにおける彼女たちの腕の筋肉、と言い換えるといっそう混迷を深めるか?)つまりセクシーだけれど、スケベェでもなく、エッチでもない。

 ラスト、無情にも音が切れると、唐突に「未完成」が飛び出します。この曲、名曲であることを認めるに吝かではないが、なかなかこれといった演奏に出会わないも事実。このオーケストラ、現在はベルリン・ドイツ響と呼ばれる団体で、ホールの響きのせいか、ベルリン・フィルに負けず劣らずのなかなか深々とした音を聴かせます。

 ヴァントの性格かもしれないが、フレージングはもっと明快で、シューベルトらしい歌心に溢れた節回しが最高です。日本でのライヴも立派な演奏だったそうだけれど、これだけ聴けば(頭がチョン切れているのが残念だけれど)なんともいえない陶酔のひとときを味わえました。(2001年5月18日)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi