Beethoven 交響曲第3番 変ホ長調「英雄」
(オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団/1959年)


EMI TOCE90062 Beethoven

交響曲第3番 変ホ長調「英雄」(1959年)
大フーガ 変ロ長調(1956年)

オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

EMI TOCE90062

「大フーガ」(弦楽合奏版)のほうはフルトヴェングラー、コンヴィチュニー等、いずれも音質条件が整わない中で聴いていたせいか「?」的印象だった作品。1956年とはいえちゃんとしたステレオ録音、しかも細部まで明快+盤石に腰を落ち付けて、この作品の巨大さ、巨魁さがはっきり認識できました。「英雄」は音の条件いっそう整って、前のめりに激昂せず、緩すぎず、クールなバランス感覚が抜群の広がりと説得力!「英雄」をこれほど楽しんで聴いたのはずいぶんと久々・・・クレンペラーの録音はどれを聴いても立派だけれど、フィルハーモニア管弦楽団との相性はよろしいと思いますね。爽快軽快でキレのあるサウンドに、太い筋が一本通るような気がします。(2008年駅売海賊盤を聴いて)
 やがて2017年に正規盤を聴いて曰く
時代は古楽器隆盛時代へ、重厚長大より軽快軽妙へ。音楽は嗜好品だから人それぞれ好き好き、Beeやんは重厚長大!という方もいらっしゃることでしょう。作品のスケールに相応しい恰幅よろしい貫禄、まったりとした風情+微妙になクールなタメを味わいつつ、自分はもう軽快軽妙の世界に行っちまったなぁ、そんなことを感じたものです。音質は時代を勘案すれば立派なものでしょう。
 ずいぶんと素っ気ないコメントを残しておりました。

 じつはここ最近、Otto Klemperer conducts the Concertgebouw Orchestra/Legendary Amsterdam Concerts 1947ー1961 Live(24CD)をそれなり、まとめて拝聴する機会を得て、かつて怪しげ激安輸入盤にいくつか記憶のあったライヴ音源は、その音質改善に少々驚いたもの。そして重量感と骨太サウンド、どれも意外とモダーンな表現と勢いを感じたもの。その流れでフィルハーモニア管弦楽団とのセッション録音(新しいほう)を聴きたくなりました。最近主流の高品質音源に非ず、レギュラーなもの、それでもこの間種々モノラル・ライヴばかり聴いていたので、その解像度、フィルハーモニア管弦楽団の清潔な響きを堪能できました。低音と臨場感にやや不足するのは、このレーベルの特徴でもあります。

 第1楽章「Allegro con brio」は既にゆったりとした序奏ではない、いきなりの強烈2和音開始は新時代の交響曲幕開けを感じさせるもの。あまり力まず、重くなく、テンポは急がず、アツくならず、噛み締めるようにじっくりとした始まり、提示部反復はありません。力強い威容を感じさせるけれど、その落ち着いた歩みはほぼ同時代の各種ライヴとはずいぶん違う。オーケストラの音色はとても素直に明るく、とくに木管、ホルンにそれを強く感じて、ゴリゴリの重いサウンドから遠い。やや凄み、みたいなものには足りないかも。(16:41)

 第2楽章「Marcia funebre: Adagio assai」は葬送行進曲。堂々たる歩みだけれど重苦しくはなく、最近の古楽器系のようにリズムが弾むこともない。旧態のものものしい、深刻な表現だけれど、オーケストラの響きが明るく、爽やかに響きます。ここもホルンがとても印象的な明るさ。(16:54)

 第3楽章「Scherzo: Allegro vivace」は蒸気機関車の疾走を連想させるスケルツォ。ここもテンポはやや遅く、抑制した始まりからオーケストラが爆発します。木管が明るく、推進力はあっても表情はクールでしょう。トリオに於ける印象的なホルン三重奏も独墺的な野太い響きに非ず、スッキリと素直な音色。(6:34)

 第4楽章「Finale: Allegro molto」は巨大な変奏曲。これも急がぬテンポにじっくり堂々たる始まり。例の「プロメテウス」や「エロイカ変奏曲」の主題は優雅に提示され、朗々たる節回しに歌って大きく変奏されます。21世紀の古楽器系演奏の快速リズムに馴染んだ耳には、いかにも昔の頑固爺さんの風情だけれど、オーケストラの響きがクリアなのでさほどに旧さを感じません。クレンペラーはけっして走らず、表情もクールに激高とは無縁でした。ラストへ向けて朗々たる変奏の果て、ホルンも相変わらず上手い。(13:26)

 大フーガ 変ロ長調は1956年のステレオ録音。ちょっと広がりが狭い感じ。弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 作品130のオリジナル最終楽章だったとのこと(当時評判よろしなくて、差し替えたそう)圧巻のフーガ・ラッシュはカッコ良い作品、弦楽合奏はスケールの激性緊張をいっそう高めて、凄い名曲ですよ。(16:32)

(2023年8月19日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
written by wabisuke hayashi