Beethoven 交響曲第1番ハ長調/第3番変ホ長調「英雄」
(アンタール・ドラティ/ロイヤル・フィル)


DG-UK LP Beethoven

交響曲第1番ハ長調
交響曲第3番変ホ長調「英雄」

アンタール・ドラティ/ロイヤル・フィルハーモニー

DG UK LPデザイン 1976年録音

 英国にてLP発売されて以来「幻の全集」と呼ばれた音源がCD復刻されております。Antal Dorati(1906ー1988洪牙利→亜米利加)ロイヤル・フィル首席在任時の録音(1975 -1978)。一部の手厳しいカスタマーボイスには「幻のままであって欲しかった」との酷評もありました。全曲中数曲確認してみた印象は、細部曖昧さや流したところは一切ない、噛みしめるようにかっちりと生真面目、楷書の表現に好感を抱いたもの。作品になにを求めるかは嗜好の世界ですよ。音質は上々でした。

 青春の若々しい息吹を感じさせるハ長調交響曲第1楽章「Adagio molto - Allegro con brio 」清涼な序奏から引き締まった響き、やがて主部は慌てずじっくりと腰を据えて、推進力に不足はないけれど安易には走らぬ明晰なバランスに始まりました。(9:41)第2楽章「Andante cantabile con moto」は速めのテンポに軽快淡々として、力みや停滞を感じさせぬリズミカル。(7:15)第3楽章「Menuetto, Allegro molto e vivace」はメヌエットとなっているけれど実質上のスケルツォ。ここは中庸のテンポに流れよく、重厚さとは皆無なところ。(3:47)第4楽章「Adagio - Allegro molto e vivace」も勢い充分に肩の力も抜けてテンションの高さ、やや速めのテンポ設定に疾走して、晴れやかな表情でした。(5:51)引き締まったサウンドが初期作品に相応しい爽やかな、重厚長大とは無縁の演奏でしょう。作品風情に似合っていると思うけれど、この辺り好き嫌いは分かれて「幻のままであって欲しかった」評の所以(ゆえん)かも。

 最近Beeやんと云えばこればっかりな、力強い浪漫派への幕開けを告げる「英雄」第1楽章「Allegro con brio」冒頭の強烈2回和音からアンサンブルの縦線はかっちりと揃って速めのテンポ、重くならず気持ち良いすぱっとした音の立ち上がり。提示部繰り返しも彼らしい。明るく軽快な響きに大柄なスケールを強調しないスリムなサウンド、テンションの高さと輝かしい推進力、ノリノリのリズム感がカッコ良いところ。優秀なオーケストラですよ。ここも重厚長大派からは嫌われるかな?(17:13)第2楽章「Marcia funebre: Adagio assai」は葬送行進曲。中庸のテンポに、情感詠嘆に揺れず味わいある淡々クールな歩み。クライマックスも響きは明るく、軽いもの。(15:53)第3楽章「Scherzo: Allegro vivace」はまるで蒸気機関の疾走。軽快な勢いに、かっちりとしたリズムとアンサンブル、バランスのよろしい清潔な響き、途中ホルンの重奏は意外にも控えめに抑制しておりました。(5:51)第4楽章「Finale: Allegro molto」は怒涛の始まり。馴染みの主題は速めのテンポ、わかりやすい変奏曲は清潔なフレージング、クリア明晰な響きが続いてデリケート、ムダに大柄なスケールを強調しない。熱狂や前のめりに非ず、明るく引き締まった推進力は充分に全曲を締め括りました。(12:17)

(2023年1月20日)

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written by wabisuke hayashi