Beethoven ピアノ・ソナタ第25番ト長調/第26番 変ホ長調「告別」/
第27番ホ短調/第29番 変ロ長調「ハンマークラヴィーア」
(ウィルヘルム・ケンプ(p))


DG PROC-1731 Beethoven

ピアノ・ソナタ第25番ト長調
ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調「告別」
ピアノ・ソナタ第27番ホ短調
ピアノ・ソナタ第29番 変ロ長調「ハンマークラヴィーア」

ウィルヘルム・ケンプ(p)

DG PROC-1731 1964/65年録音

 往年の名ピアニストWilhelm Kempff(1895ー1991独逸)による世評鉄板のBeethovenピアノ・ソナタ全集録音より。明るく軽い音色、バリバリと切れ味たっぷりの技巧派とは一線を画した優しい演奏。久々に拝聴して音質は時代故、ちょっぴり草臥れた印象を得ました。

 第25番ト長調ソナタは著名なハ短調交響曲や田園、皇帝と同時期の作品とのこと。
 可憐に快活に歩みだす第1楽章「Presto alla tedesca」(3:12)
 ほんのり暗く寂しく優雅に歌う第2楽章「Andante」(2:41)
 第3楽章「Vivace」はそっと話し始めるように、そして上機嫌に闊達に弾んで、これはほんの短い珠玉の名曲でした(2:08)

 第26番変ホ長調ソナタ「告別」もほぼ同時期の作品。
 第1楽章「"Das Lebewohl" Adagio」が「告別」の愛称になっていて、名残惜しい惜別の哀しみから胸に湧き上がる切ない旋律が幾度繰り返して優しいもの(7:06)
 第2楽章「"Die Abwesenheit" Andante espressivo」これはほんの短い、淡々と寂しい「不在」(2:57)
 第3楽章「"Das Wiedersehen" Vivacissimamente」これは「再会」。気分変わって、晴れやかな歓喜に充ちた細かい音型が疾走しました。(4:24)

 第27番ホ短調ソナタは2楽章のみの短い作品。
 第1楽章「Mit Lebhaftigkeit und durchaus mit Empfindung und Ausdruck」は劇的な迫力から始まって、時に優しく緊張感ある風情が続きました。(5:17)
 第2楽章「Nicht zu geschwind und sehr singbar vorgetragen」は安寧の表情に落ち着いて、静かに名残惜しい締め括り。(8:57)
 厳密に云えば細部技巧云々あるかも知れないけれど、短い小規模な作品をしっとりていねいに仕上げて、ケンプのタッチは華やかに明晰な浪漫。楽器はスタンウェイでしょう。音質も悪くない。

 そして大曲第29番 変ロ長調「ハンマークラヴィーア」は拝聴機会の少ないピアノ・ソナタ中の例外、意外と日常聴いている作品でした。LP時代はこれ一曲で1枚分でしたっけ。
 第1楽章「Allegro」冒頭からBeeやんらしいぶちかましが力強く、大仰な始まり。ここは抑制を利かせて欲しいところ、その力強い打鍵の音色、響きが薄く、ちょっぴりヒステリックに感じて、弱音部分は味わい深いけれど、ケンプに大仰な作品は似合わないのかも。(8:51)
 第2楽章「Assai vivace」は軽快なScherzo。大きく深刻な楽章に挟まれて可憐に軽妙な風情にほっとして大好きな楽章でした。明るいタッチにちょっぴり「叩き」が気になるところ。(2:44)
 第3楽章「Adagio sostenuto」は静謐深遠なる緩徐楽章。ここは絶品の心情の揺れ、全曲の白眉でしょう。しっとりとした情感はピアノのタッチに似合っておりました。(16:31)
 第4楽章「Largo - Allegro risoluto 」は前楽章の静謐を引き継いで始まってデリケート。それが時に激昂してBachを連想させる主題と巨大なフーガへと成長して、この作品はほんまにスケールが大きい。ちょっとテクニック的には怪しいけど、この楽章の演奏にさほどの不満も感じません。(12:05)

(2025年5月24日)

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written by wabisuke hayashi