Beethoven 弦楽四重奏曲第15番イ短調
(ズスケ・カルテット・ベルリン)



Beethoven

弦楽四重奏曲第15番イ短調 作品132
弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 作品18-6

ズスケ・カルテット・ベルリン

DEUTSCHE SHCALLPLATTEN  1977年録音  TKCC-70017 550円(中古)にて購入

 音楽はなるべく偏りなく、幅広く聴こうと常々考えております。「とにかく安ければCDを買って、聴いてみる」という基本スタンスもそういう意味なんです。どちらといえば(とくにここ数年)Beethoven は敬遠気味だったし、正直、室内楽は聴く機会が少なかった。それでもヴァイオリン・ソナタとかチェロ・ソナタなんかは折に触れ聴いてきたつもりだし、残る未着手の宿題は弦楽四重奏曲。LP時代のバリリ・カルテットの全集も、とうとう(処分するまで)馴染めなかったのは残念至極。

 世評高い(らしい)ズスケ・カルテットは全7枚のうち、6枚購入しておりました・・・が、どうしても手が伸びないまま・・・数年経過。で、ある日のこと弦楽四重奏曲第15番イ短調に目覚めました。約40分に及ぼうかという大曲。1825年Beethoven 最晩年55歳円熟達観の作品。第3楽章から聴き始めましょう〜「病気が治った者の神に捧げるリディア調の感謝の歌」〜「新しい力を感じながら」〜「内的な情感で」。巨大な変奏曲になっております。

 まるで「ゆったりとしたBach 以前の音楽」を感じさせるような、高潔な「リディア調の感謝の歌」。やがて表情明るく、決然とした決意に変化し、幸福感に充たされながらこの楽章を閉じました。なんという暖かさ!安寧に充ちた表情。滲み出る喜び。17分に及ぶ長丁場ながら、この楽章は名残惜しい。Beethoven が残したであろう、数々の名旋律のなかでも屈指の魅力を誇ります。

 第1楽章は悲劇的な推進力だけれど、かつての全力前向きではなく、人生の悲哀を引きずりながらの歩みを感じさせます。爽やかな朝のような第2楽章はHaydnを連想させ、時に暗転しながら粛々と音楽は進みました。先の歳3楽章(白眉!)を経て、わずか2分少々のスケルツォ的楽章は一気に暗転し、ほの暗く情熱的な最終楽章へ。「哀愁のワルツ」とでも名付けたくなるような、親しみやすい悲劇。ここのリズム感は特筆すべき躍動感(抑制充分ながら)でしょう。明るい表情で全曲は閉じられます。

 ズスケの表現は知的でしっとりマイルド、過剰なる浪漫性を感じさせないものです。どちらかといえば、引き締まったモダーンなスタイルのはずなのに、どこか古風な印象も受けます。音色が艶消しだから?官能もない。真面目一徹、大仰な表情などとは無縁だけれど、自信に満ちた味わいは素晴らしき完成度。録音極上。なんせ他の演奏はほとんど聴いたことはないんです。比較は出来ないが、おそらくは間違いなく感動を運んでくださる演奏でしょう。名曲。


 第6番 変ロ長調はまだ30歳の頃の作品ですね。交響曲第1番の頃か。これは生気に充ちた表情が明るくて、躍動感溢れる作品です。晩年の陰影には乏しいが、若さの勢いはそれだけで魅力です。切ない憧憬溢れる第2楽章、思わず踊り出したくなるようなリズムの第3楽章、「ラ・マリンコニア」(メランコリー〜憂鬱のこと)と題された最終楽章は一転して暗鬱な出足だけれど、やがて春を呼ぶような日差しが雲の切れ目から覗きました。それでもココロは晴れないのかな。ちょっと複雑なる心象風景か。

 嗚呼、また音楽の楽しみが増えちゃったな。CDは買っておいて、いつの日にか目覚めるのを待つのも悪くないでしょ。 (2004年4月30日)


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written by wabisuke hayashi