Beethoven 交響曲第3番 変ホ長調「英雄」/第4番 変ロ長調
(ジョン・ネルソン/アンサンブル・オーケストラ・ドゥ・パリ2006年)
Beethoven
交響曲第3番 変ホ長調「英雄」
交響曲第4番 変ロ長調
ジョン・ネルソン/アンサンブル・オーケストラ・ドゥ・パリ(2006年)
NMLにて拝聴
・・・いつまでも物故した往年の巨匠とか、ヴェテランばかり聴いても仕方がない、ということで、話題の録音を〜NMLで聴けるというのが便利。HMVのユーザー・レビューが酷い。曰く「拒絶反応。何と酷い演奏。やることなすこと素人っぽい。所々で変な味付けをして気持ち悪いし、何よりもベートーヴェンの偉大な魂がこれっぽっちも伝わってこない。スケルツォのホルンの三重奏ときたら全くもって「お笑い」だ」〜なるほどね。世評とか、人様の言うことは参考程度にしている自分の立ち位置(自分の耳しか信じない)に確信が持てました。
おそらくこのコメント氏は独墺系盤石の重厚深淵なる巨匠演奏を求めていたのでしょう。「素人っぽい」とも「変な味付け」とも思わぬし、「偉大なる魂」などもとより期待してなくて、むしろ軽妙軽快、躍動演奏が嗜好です。素直で軽快、方向としてはデイヴィッド・ジンマンに似るが、あれほどの過激さはない。もっと明るく、変なこだわりもなく、整ったアンサンブル、ストレート系の”穏健派”と見ました。現代楽器だけれど、対向配置、これが現代の流行なのでしょう。スケルツォのホルンの三重奏の技量もお見事!これに「お笑い」を感じるとは?
但し、どうしてもこの演奏でなくてはっ!という説得力があるかどうかは別でしょ。よくできたモダーンな”フツウの”演奏と思います。
これは「音楽日誌2009年8月」のコメントであります。ワタシはBeeやん苦手を公言する不埒者だけれど、先人の名曲に対する畏敬の念は失いませんよ。好んで積極的に聴かないが、こうして現役演奏家には虚心に耳を傾けたいもの。よくできたモダーンな”フツウの”演奏というのが虚心な評価かどうか怪しいものだけれど・・・日本には根強い重厚深遠(頑迷?魂?)系”独墺”崇拝の気風があるようで、人の嗜好は各々自由だからそれでよろしいが、こうした軽快軽妙洒脱なるBeethoven は新鮮、ワタシにはこちら方面のほうがずっと威圧感が少なくて愉しめちゃう。
話は逸れるが、某Beethoven を熱心に研究されているサイトで「ジンマンだけは止めておけ!」と強く主張されていたことにも驚きました。おそらくジョナサン・デル・マー更訂の楽譜から逸脱する、指揮者独自の”改変”がお気に召さなかった模様〜一理あるが、音楽ってもっと自由に、気楽に聴いたらエエじゃないか。楽譜にもの凄く忠実なる”ツマらん/ダルな”演奏が先人の精神を具現化して現代に反映させているかは疑問です。デイヴィッド・ジンマンの全集は新鮮、溌剌、颯爽としておりますよ、現在の耳で聴いても。音質も極上だし、オーケストラも上手い。閑話休題(それはさておき)
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おそらくはBeeやん交響曲国内人気No.1は「英雄」なんでしょ。(ここ数年は”のだめ人気”で第7番躍進かも)フルトヴェングラーの呪縛か?(彼の凄さは否定できないが)第1楽章冒頭二つの和音がいきなりラッシュ!ハラの奥底に共鳴するド迫力〜ではないのがジョン・ネルソン。編成が小さい(内声部が良く聞こえる)し、弦は薄味系、金管も木管も軽快に明るいサウンドの「英雄」の開始です。残響豊かな録音ので、厚みの物足りなさはありません。速めのテンポ、きびきび颯爽としたリズムを刻んで快走するBeethoven 。提示部繰り返し有、表現としてはオーソドックスで奇異を衒ったものではなく、穏健派。けっこう昔馴染みっぽい”タメ”もあります。ティンパニを粗野に強調することもない。ヴィヴラート少なめながら、弱音の繊細な味付けも上々の開始でしょう。
上記コメントへの言及だけれど、第1楽章もホルンは上手いっすよ、間違いなく。独逸系の音じゃないが(ちょっとノーテンキ?迫力不足?いえいえセクシーでしょ)。オーボエは目眩がするほどセクシーな音色。
深刻な曲想がひときわ人気高い第2楽章「葬送行進曲」。平穏で淡々、濃厚なる表情を付けない悲劇は際立つものです。やや軽量だけれど、響きは薄くはない、クリアなんです。木管金管の華やかな音色にも違和感はない。オーケストラの大爆発でも響きは濁らない。大きなリズムが呼吸して(但し重くはない)流れは良好。第3楽章「スケルツォ」は弱音が繊細であり、リズムにキレがあって輝かしい。この躍動感は全曲中の白眉でしょう。肌理細かいアンサンブルは優秀〜”ホルンの三重奏の技量もお見事!”とは先に書いたとおり。
終楽章も速めのテンポに乗って、さらさらと、やや素っ気なく、さっぱりと音楽は進みます。ノリノリの熱気とは言えぬクールなリズム感。流れが悪いという意味ではなく、熱狂没入じゃない、ということです。勇壮雄弁に歌い過ぎて、徒に柄を大きくしないところに共感有。独墺系伝統からやや離れた、新鮮で軽快デリケート、華やか、そしてちょっぴり素っ気ないBeethoven 。
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上記のような個性は、作品的に第4番 変ロ長調交響曲にいっそう似合うと思います。序奏はものものしい重さを伴わず(低音を強調しない)、主部の晴れやかな推進力はオーケストラの明るい響きにぴたり。のびのびすっきりとしたスピード感に異論を唱える人は少ないでしょう。第2楽章「アダージョ」はさらりと流したようなテイストだけれど、細部が曖昧なワケじゃない。かっちりとした強面のリズムを刻まないんです。淡々すっきりとしたサウンド。
第3楽章「アレグロ」〜「英雄」でもそうだったが、ジョン・ネルソンにはスケルツォ楽章が一番似合思います。軽快なる諧謔。喧しさ、響きの濁り皆無。終楽章も柔和であって、壮絶さからほど遠いテイストとなります。流れの良いスムースな推進力、細部曖昧さも力みもない。熱狂汗水とは無縁のスタイルで、ファゴットによる16部音符の速い旋律の難なくクリアして全編を締め括りました。 (2010年3月26日)
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