Beethoven 交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
(ケーゲル/ドレスデン・フィル)


LASERLIGHT  14 256 Beethoven

交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
交響曲第1番ハ長調 作品21

ケーゲル/ドレスデン・フィルハーモニー(1982/82年録音)

LASERLIGHT 14 256   5枚組2,350円で購入したウチの一枚

 アンチ・メジャーも度が過ぎると、ひとつのファッションになって気に食わない。やたらと「狂気」とか騒ぐから、ケーゲルも誤解さてしまうんです。若い女性は絶対に近づかない。一部珍しもん好きの中年オッサン(含むワタシ)が、少ない小遣いのなかから激安ボックスものを買うから、ケーゲルは有名になります。KEGELならぬGOOGLEで「ケーゲル」を検索すれば、山ほど出てくるから耳(聴く方の耳じゃない)年寄りは増える一方なんです。

 もっと自分の耳を信じないと・・・・と、ワタシも棚の奥から5枚組を取り出しました。今となっては価格が悔しいが、1996年くらいには買っていたから文句は言えない。おお、箱の中からレコ芸の切り抜きが出てきて、第3番は「第1楽章展開部やフガートの処理は光っているが、全体としては平凡」〜なんという粗っぽい評論だこと!これでかなりの音楽ファンが「ケーゲルは全体として平凡なのか」と先入観を植え付けられたことでしょうか。

 「期待してベートーヴェン交響曲を買ったのですが、意外に普通の演奏であれ?」「ケーゲルさん自身はベートーヴェンの交響曲に対して独特の考え方を持っていたのですが、自身の考えをぐっと抑えて、慣習的に演奏される部分も含めてオーソドックスに演奏しきったもの」とか、ウチのbbsでも論議沸騰だけれど、そんなもんかなぁ。演奏の質なんて、時代の変遷(演奏スタイルの流行り廃れ)とか、慣れの問題であって、全部が全部シェルヘン/ルガノみたいに「阿鼻叫喚の渦」(あれはあれで希少価値)だとマズいと思うんですけど。


 久々(正直、集中したのは初めてか?)に聴いてみて、まず録音状態がよろしいこと。シュターツカペレ・ドレスデンが使用する聖ルカ教会での収録だそう。Beeやんは、意外と録音状態は気にならないもんだけれど、芯のないヘロ録音だとやはりツライものです。それと、ドレスデン・フィルの音がすること〜って、当たり前でしょ?高音にクセがあって、洗練されない悲痛な叫びっぽい響き。流麗でないこと、表情がカタいこと、絶叫すること。

 ま、いわゆる一流じゃないってことですよ。でも、それは好き嫌いの問題。適度な緊張感と、メリハリのある旋律の浮き立たせかた、そしてクセのある高音の刺激で「英雄」は始まりました。「全体として平凡」?ん??とんでもないテンションとヒステリックさもあって、オーソドックスな表現とスレスレのところで同居しています。これは聴き応えのある演奏なんです。オーボエ、フルート、ファゴットの抜いたところの音色も美しい。

 やや濁る弦が主体の演奏だけれど、細部まで明快。しかしスムーズに流れているわけでもない。アクが快感と感じられるかは微妙。そして絶叫の山場へ。「葬送行進曲」もかなり入魂で、なんとはなしに不気味な集中力が凄い。この部分、けっこうツマラん演奏って多いじゃないですか。

 スケルツォは「厚みある響き」について考えさせられます。ワタシはリズムも勢いも充分だと思うが、響きは濁るんです。薄くはない。でも、たまに極上腕利きオケが、そんなにリキんでいるふうもないのに、いつのまにか奥行き深い怒濤の迫力を生み出すことがあるでしょ?あれは期待できないんです。でも手慣れた演奏、というのとは異なる真剣な表情があって新鮮です。

 終楽章変奏曲は一番の聴かせどころですよね。ここまで聴いて気付いたが、特異なテンポ設定とか、あっと驚くルバート、アッチェランドがないんですね。だから「全体として平凡」とか「意外に普通の演奏」なんて感じるのかも。耳目を驚かす表面的な変化ワザだけが個性ではない。器用なオケではないようで、水も漏らさぬ緻密なアンサンブルのはずもないが、骨太で悲痛な響きなんです。

 絶叫すればするほど音が濁り、そしてそれが聴き手の心をくすぐります。正直、かなりたどたどしい終楽章。アクも渋みも少々有。でも、いまさら流麗で上手い「英雄」を聴きたいですか。ワタシは久々、根性の入った「英雄」と思いましたが、如何?時代遅れのガンコ一徹英雄だけれど。なにを以てオーソドックスというのか?


 第1番はもっとわかりやすい。レコ芸評論子は「第1は楽しくて良い」とのこと。(これで金くれるんなら文句ねえよ)編成上の問題か、こちらのほうが響きが濁らないんです。弦の決然とした切れ味は健在だけれど、フルートの深い音色が全体を中和しております。(ほかの木管は快調とは言い難い)ここでもテンポが中庸で、そういった意味では特別な演奏ではない。

 第1楽章のリズムは力強く、第2楽章アンダンテの軽快なノリ(一見フツウに聞こえる)も悪くない。でも、聴き流すことを許さないような雰囲気があって、かならず不純物が隠されているような気持ちになります。メヌエットの叫びも徹底していて、飽きさせない。終楽章の推進力にも文句ないでしょう。

 でもこれ、けっして美しい演奏ではない。見た目の奇異さではなくて、響きそのものがなんとなくヘンなんです。強奏のバランスがそう感じさせるのでしょうか。ワタシは楽しみましたが、「楽しくて良い」なんていう評価にはなりそうにもありません。ドレスデン・フィルの音というのは、一種特有の個性が充満していて、忘れられません。(2002年3月1日)


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written by wabisuke hayashi