Sibelius 交響曲第5/7番/組曲「ペレアスとメリサンド」
(ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団)


EMI 7243 5 67299 2 6 5枚組 2,280円也 Sibelius

交響曲第5番 変ホ長調 作品82(1966年)
組曲「ペレアスとメリサンド」(4曲/1967年)
交響曲第7番ハ長調 作品105(1966年)

ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

EMI 7243 5 67299 2 6 5枚組 2,280円也

 2009年秋、心身ともの不調+マンネリに加え、丸5年ほど愛用し、ずいぶんと手を加えてきた愛用マシンが突然逝去・・・ただでさえ途絶えがちの【♪ KechiKechi Classics ♪】 更新停滞状況にブレーキを掛けるべき状態であります。以前だったら、”新しいPCが買える!”的喜びに溢れたものだけれど、最近は自らの悪しき保守化を反省いたします。3年に渡り精力的にCDをオークション処分し、そして激安化成った全集ものボックスを連続購入し、聴き残し、挙げ句、音楽への集中力を失いつつあります。CD処分も購入も滞ってしまった矢先の出来事でした。さて、気分転換だ。

 以下の文書は2回に渡って駅売海賊盤にコメントを付けたものです。そこにもあるように”2004年7月に正規盤にて、全集購入できました”と。Sibelius はもっともお気に入りの作曲家、聴く頻度も高くて、かえってコメントしにくい〜そんな感じもあります。言及のあるザンデルリンク/ベルリン響のSibelius 交響曲第1番(1977年)には未だに(サイト上にて)コメントできず、そして、このバルビローリ盤への印象もかなり変わりました。まず音質がずいぶんとよろしい〜これは駅売海賊盤との比較だから当たり前なんだろうが、「奥行きが少々不足気味であり、乾燥」ということはない。「アンサンブル・・・オーケストラだって、そう上手くない〜魅力ある音色とは思えない。あちこちモタついたり、ラフだったり」というのも的外れに思えます。

 交響曲第5番 変ホ長調は、暗く難解晦渋なる第4番とはかなり印象変わって、清涼であり、明るい雰囲気に溢れるます。初期の第1/2番ほどの勇壮雄弁ではなく、独特の”話法”が完成しつつあります。バルビローリは例の如しで、粘着質な旋律でメリハリも揺れもたっぷりあるけど、自信たっぷりの濃密サウンドを聴かせます。あくまで清潔清涼さは失わぬないけれど。ハレ管は切れ味あるヴィルトゥオーゾ軍団ではないが、響きが薄かったり濁ったり、バルビローリの指示について行けないようなアンサンブルではない。驚くべき充実(金管の迫力も文句なし)!

 第2楽章は、第3番ハ長調で見せたシンプルな繰り返しが、やがて大きな説得力を以てせまる〜というパターンですね。バルビローリのマジックは、”シンプルな繰り返し”を詠嘆と吐息、名残に変えてしまう。微細に表情を変遷させていって、あくまで空気は澄んで見通しがよい。「間」の説得力の素晴らしさ。第3楽章「アレグロ」にて最終楽章となるが、息を潜めるような弦のトレモロがやがて(これもシンプルな)上下旋律のモティーフに発展して、転調し、成長し、劇的な結末がやってきました。ホルンの説得力は凄いが、これは独墺系の濃いサウンドではダメなんじゃないか。ましてや、亜米利加の輝かしい切れ味でも。

 濃厚だけれど、あくまで抑制とバランスを失わぬバルビローリの世界を絶賛。けっして走らない、しっかりと、纏綿と歌う。

 駅売海賊盤には収録されなかった組曲「ペレアスとメリサンド」(16分ほど)が収録されました。全9曲より第1曲「城門にて」/第2曲「メリザンド」/第7曲「間奏曲」/第8曲「メリザンドの死」収録。台本は例のメーテルランクのものであり、舞台の劇付随音楽だそうです。バルビローリの詠嘆の徹底は、交響曲の比ではない表情付けであり、弦の表情付けの美しさ、木管の歌に痺れます。細部微細なるニュアンスに溢れ、涙が出るほどセンチメンタルであります。

 交響曲第7番ハ長調は全曲が22分ほどの連続する幻想曲になっており、独特の”話法”といういうなら、ここに極まったというべきでしょう。バルビローリの表現は、ほとんど立ち止まりそうなくらいの入念なる味付け、呼吸が止まりそうになるほどの囁きと抑制に充ち満ちております。こんな冷涼なる世界は、色彩と隈取りのはっきりとしたオーケストラでは表現できないでしょう。

 難解ですか?ワタシは中学生の時に出会って(ロリン・マゼール/ウィーン・フィル1966年)、一発で打ちのめされた記憶有。”北海道で生まれ育ったワタシは、雪に特別な思いはある。吹雪のなかを、息も絶え絶え学校に通った経験。夜半に雪が降り出すと静謐さが辺りを支配し、翌朝起きてカーテンを開けると純白の世界。そんな情景”とは以前のコメントだけれど、この作品を聴くたびの感想であります。ハレ管のアンサンブル、技量に何らの疑念もないけれど、かっちり縦線を合わせて、リズムのメリハリ決めて!という世界ではないでしょう。

 緩急取り混ぜて、変幻自在。時に決然とオーケストラをせき立て、爆発させるが、基本は”呼吸深き歌”であります。混沌とした幻想のなかに、懐かしい思い出のような旋律(トロンボーンにて、そして弦)が回帰します。最終盤は圧巻のアパショナータ(熱情)とカタルシス(浄化)が待っておりました。(2009年10月4日)


 やがて幾星霜(とまぁ大げさに・・・数年)。バルビローリの全集は結局買っていないけれど、Sibelius は一番聴く交響曲かも知れません。あいかわらずのお気に入りです。世の中、劇的に価格破壊が進み、廉価盤のありがたみが薄れました。音楽に対する謙虚な気持ちだけは失いたくないもの。

 別項にまとめるつもりだけど、ザンデルリンク/ベルリン響のSibelius 交響曲第1番(1977年)を聴きました。これが細部まで入念な思い入れに満ちて、「もしかしたら最高の演奏かも?」と思わせる説得力。でも、Sibelius って、そんなんじゃないと思うんです。その例がこのバルビローリ盤。

 まず、録音がよろしくない・・・というか、一連のEMI録音の中では出色の方ではあるが、奥行きが少々不足気味であり、乾燥しています。アンサンブルなら、この上を行く演奏はいくらでもあるでしょう。オーケストラだって、そう上手くない〜魅力ある音色とは思えない。あちこちモタついたり、ラフだったりで、ザンデルリンク盤(これはたまたまの例です)とは大違い。

 でも、殺伐とした寒さ、みたいなものが感じられる演奏なんです。なんども同じ話で恐縮だけれど、セル、トスカニーニ、クーセヴィツキー、パレーの第2番が、どれほど優秀で集中したアンサンブルだとしても、この荒涼とした味わいは感じられません。大好きなモントゥーの演奏だって「緑豊かな」で、やや場違いな感じはあるんです。(ウワサのアンセルメは聴いてみたいが)

 ざわついて、構成感がなくて・・・・結局、数年前の上記の思いと変わらないという結末。コシや骨や芯、重心の低さはSibelius には必要ないのかな?でも、かわりに、時に見せる詠嘆のような節回しがあるでしょ?第5番第3楽章「アレグロ・モルト」〜それも後半に行くに従ってダメ押しの感動有。

 第7番は文句なし。ま、交響曲なんて名前が付いているけれど、幻想曲でしょう?(専門的なことはわからない)この曲、カラヤンの叶姉妹的超色気横溢豪華香水爆発厚化粧系演奏も凄い(なにが?)んですが、バルビローリのは地の体質でまったく自然体。第5番よりハレ管は好調のようで、全編自然のため息を聴かされる思い。

 やれテンポ設定が、とか、オーケストラの響きが濁るとか、録音云々は忘れてしまって、ひたすら雪景色が流れゆく景色を堪能しました。嗚呼、Sibelius にハマってBeeやんやBrahms になかなか戻れない。やはり全集はほしいが、格安で出ませんか?(2002年1月11日) * 2004年7月に正規盤にて、全集購入できました。EMI 7243 5 67299 2 6 5枚組2,800円


 Sibelius に馴染んだのは、音楽を聴き始めてすぐだった記憶があります。北海道で生まれ育ったワタシは、雪に特別な思いはある。吹雪のなかを、息も絶え絶え学校に通った経験。夜半に雪が降り出すと静謐さが辺りを支配し、翌朝起きてカーテンを開けると純白の世界。そんな情景は、すべてまっすぐにSibelius の音楽から聴き取ることができます。

 ハレ管は不思議なオーケストラですよね。腰が軽い、響きが薄い、技術的に特別とは思えない。でも、ツボにはまるとバルビローリのマジックが発生します。Sibelius には、特別に涼やかな響きが必要で、濃厚で密度の高い音は似合わない。

 第5番は、Sibelius の交響曲の中でもとくにまとめにくい曲でしょう。細かい音形の積み重ねによって、繊細な響きが形作られていく相当な難曲。とぎれとぎれ、ため息のような旋律の全貌をつかみ取るには少々慣れが必要かも。

 バルビローリは構成をはっきりさせたり、がっちりとした音楽を作る人ではありません。旋律のフレージングを明快にして、自然な音楽の流れをつくります。リズムの切迫感はない人で、ズルズルと横に流れているように見えて、結果的にちゃんとした結末にしているのは「体質」というか、Sibelius に対する自信の表れでしょうか。(ま、ショスタコヴィッチのレニングラード交響曲みたいに厳格にリズムを刻んでも、しょうがないのは当たり前)

 「この旋律はこう歌うべき」といった確信が感じられ、例えば弦のゆらゆらとしたヴィヴラートの詠嘆もじつに効果的。最終楽章は訳のわからんような、とぎれとぎれの主題の中に、じつは終盤のクライマックスにつながる「隠れたリズム」が息づいていて納得。ラスト、怒濤の感動が押し寄せますが、威圧感は最後まで感じさせない。

 第7番は、切れ目なく演奏される22分ほどの短いものですが、幻想的な旋律が凝縮された最高の名曲。

 その自信に満ちた節回しは香気がが立ち上るよう。北欧の厳しい原野で、吹雪が荒れ狂う風景が眼前に浮かびます。そして、最終部分の高揚−開放とやすらぎ。第5番よりある意味いっそう難解で、Sibelius らしさが徹底され、無定見のようであり、これ以上刈り込みができないくらいの必要にして充分な作品。

 彼のSibelius は、いつも納得のテンポと思います。そうとうなオーケストラの技量が要求される曲と思うんですけどねぇ、「パワー」とか「テクニック」だけではない「技量」が。不思議です。弦も管も、凄い音ではないはずなのに。

 録音も最良とは云えないし、アンサンブルもピタリと合っているわけではない。響きもあちらこちらで濁る部分もあります。でも技術的にもっと上のオーケストラが、いとも簡単に心のこもらない音色でスルリと鳴らしてしまうのと、なんという違いでしょう。Sibelius の旋律のひとつにとつに対する共感が、確実に伝わります。

 さすがに海賊盤で購入したことをちょっと後悔させるるような、すばらしいCDでした。全集が安く出たみたいなので、買おうかと検討しています。(以上1999年頃?執筆)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi