Bach 無伴奏チェロ組曲第1/4/5番(フルニエ1959年ジュネーヴ・ライヴ)


Lily KLD-17 Bach

無伴奏チェロ組曲
第1番ト長調 BWV.1007
第4番 変ホ長調 BWV.1010
第5番 ハ短調 BWV.1011

フルニエ(vc) (1959年ジュネーヴ・ライヴ)

Lily KLD-17(仏ADDA581154〜55の海賊盤) 780円

 いつもながらこのCDの出目については目をつぶってください。1996年頃博多のホームセンターで(偶然)購入した記憶有。「チェロの貴公子」と呼ばれたフルニエには数種「無伴奏」の録音が残っており、日本でのライヴ音源もCD化されたのは記憶に新しいところ。ワタシはBach をココロより愛するが、この作品だけは何度聴いても、晦渋で暗鬱、(始末に悪い)親父の説教風で馴染めませんでしたね。いろいろな演奏を聴くよう意識しているつもりだけれど、つい先日、気分も優れない出張・新幹線中、トルトゥリエ(1962年)を聴いたら、立派過ぎ、雄弁過ぎ、語り過ぎか、どうも楽しめない。

 ワタシはこども時分から整理整頓は出来ない性格でして、CDは棚中に埋もれ、どこになにがあるかさっぱりわからない。時々、大整理発掘作業するが”発見”がたくさんあります。今回その収穫物一枚がフルニエのBach 〜今やなかなか手に入りませんか。「環境で選ぶクラシック名曲集〜勉強能率アップ」なんていうトンデモ題名付き駅売海賊盤に、こんな貴重な音源が紛れ込んでいるのも一興。もしかしてBOOK・OFF100円処分コーナーに、人知れず眠っている可能性はないではない。閑話休題(それはさておき)

 これはずいぶんと浪漫的で、甘く優しく上品な演奏です。勘違いバロックか?と問われれば、それは違う、と答えましょう。朗々と雄弁・重厚なスタイルが(おそらくはカザルス以来)主流だと思うけれど、もともとは舞曲だから、もっとハズむように軽快で、そこはチェロだから豊かで幅広い、バランスの取れた演奏を望んでおりました。フルニエがそっと囁くように、流れるようにト長調組曲をアルペジオで開始したら、ああ、求めていたのはこれだった、と。

 素晴らしい技巧です。テクニックがバリバリ切れるように表出しない、それが当たり前であるかのような自然体でスムースな歌。低音を重く粘らせない。表現に抑制があって、雄弁・声高に叫ばない。でも、音楽には弱さを感じさせない充実と官能がありました。チェロの音色に気品があって、さっぱりとして、深い風味が漂う。どこにもムリがない。歌うような、ハズむような旋律表現。

 この3曲、なんども聴いてそれなり馴染みの作品なのに、まるで別な曲に聞こえましたね。例えば第4番 変ホ長調組曲「サラバンド」〜そっとデリケートに、息を殺して呟くように、寄せては返す吐息が漏れるようにセクシーでした。(手持ちシュタルケル盤より50秒=1/4ほど長い*)「ブーレ」の軽快なこと!

 第5番ハ短調「前奏曲」は悲劇の詠嘆だけれど、それさえ甘美な苦痛のように歌われました。「アルマンド」にもリキみはない。「クーラント」には上品なメリハリがあり、「サラバンド」(これ、よくアンコールで使われます。「マタイ」の「エリ、エリ、ラマ、サバクタニ」の旋律を彷彿とさせる)も寂しげな溜息でした。ガヴォットでさえ乱暴な表現にならず、ラスト・ジーグはサラリとタメを作らず終えていく・・・

 音質極上、フルニエはほかの録音でもこうなのかな?こんな「無伴奏」なら、いつも聴いていたいな。

*EMI 7243 4 89179 2 8 1957-59年録音 ヤーノシュ・シュタルケル(vc)の全曲盤〜いかにも腕が鳴る、といった感じの演奏です。少々強面だけれど、スムースでこれも立派な演奏・・・というか、フルニエを聴くとこの作品に目覚める、といったことかな?

(2005年4月1日)


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written by wabisuke hayashi