Bach 無伴奏チェロ組曲全6曲
(アンドレアス・フォン・ヴァンゲンハイム/ギター版)


ARTE NOVA 74321 67522 2 Bach

無伴奏チェロ組曲全曲(ギター版)
組曲イ長調(組曲第3番ハ長調 BWV1009)/組曲二長調(組曲第1番ト長調 BWV1007)/組曲ロ長調(組曲第4番変ホ長調 BWV1010)/組曲イ短調(組曲第2番ニ短調 BWV1008)/組曲二長調(組曲第6番ニ長調 BWV1012)/組曲イ短調(組曲第5番ハ短調 BWV1011)

アンドレアス・フォン・ヴァンゲンハイム(g)

ARTE NOVA 74321 67522 2  1999年録音  2枚組 790円で購入

 以下はなんと14年前の素朴なコメント、壮年の元気な中年はサラリーマン現役引退直前に至って、音楽の基本的嗜好は変わらず(成長もせず)耳鳴りの悪化、体力の劣化に悩まされるようになりました。CDは最盛期の1/4ほどに処分して、この2枚組は棚中現役でした。久々の拝聴に耳も心も震えるような感銘をいただいたものです。幾度同じネタを書いたけど、Bachの偉大なる音楽はどんなに編曲しても、その真髄、骨格、魅力に変化はないんです。無伴奏チェロ組曲は名曲中の名曲、幾度聴いてもその感銘の深さに変わりはないけれど、重苦しい、厳つい、頑迷な親父の説教みたいな敬遠感はありますよ(偉大なるカザルスの影響かも)。朗々とした低弦であるチェロの宿命かなぁ。原曲だったらできるだけ軽快に明るくスッキリ、もちろん技術的にスムースな演奏を選んで聴くようにしております。

 今回、原曲との調性の違いを加筆しておいたけれど、ギターに弾きやすいように移調して、もちろん複数音によるハーモニー可能な楽器の個性を活かして、美しい和声の響きを堪能できました。全体に軽妙、すっきりと旋律が浮き立ってテンポ速め、眼からウロコ何枚も落ちるくらい新鮮!そのもの。第3番ハ長調 第3番ハ長調 BWV1009の「bourree」はもっとも著名、ちょいとユーモラスに華やかな舞曲はしっとり優雅に、陰影に富んで典雅に響きました。

 第1番ト長調 BWV1007(ここでは二長調)冒頭「Prelude」のシンプルなアルペジオは、まるでギター原曲のようにスムースかつ静謐であります。終楽章「ジーグ」の躍動もギターのほうがずっと映える感じ。第2番ニ短調 BWV1008(ここではイ短調)「Prelude」「Allemande」は抑制され、揺れ動く風情もチェロの雄弁さとは味わいが違うもの、「メヌエット」のリズムも寂しげに軽快です。次の「Courante」も著名な旋律ですよね、秘めた涙が揺れるようなリズム感は、チェロとはまったく異なるもの。

 組曲第6番ニ長調 BWV1012は「Prelude」の扱いが原曲とはまったく扱いが異なって、連続音が響き合って幻想的。「Allemande」の豊かな間の味わい深さ(「Saraband」も同様)、「Courante」の弾むようなリズム感、「Gavotte」はこの作品中白眉の晴れやかな旋律の躍動・・・第5番ハ短調 BWV1011(ここではイ短調)「Prelude」に於ける流麗な哀しみ(原曲はもっと重い)途方に暮れた「Allemande」の静謐な劇性、「Srabande」ってマタイ受難曲の「エリ、エリ、レマ、アザブタニ(わが神、なんぞ我を見捨てたまいし)」っぽいですよね、ド・シロウトの勘違いですか?これもとつとつとシンプルに寂しげ。「Gavotte」のノリは軽快です。

 朗々と雄弁じゃないから、音量低くBGMとして流しても、落ち着いた雰囲気として楽しめるもの。CDとしてちょいと入手難っぽいかも。

(2016年4月2日)

 ここ最近ARTE NOVAが安い。さすがのNAXOSも、少々影が薄いくらい価格と演目は意欲的です。このCDは、ワタシにとって大きな発見をもたらしてくれた一組になりました。

 Bach をこよなく愛するワタシですが、無伴奏チェロ組曲はやや苦手です。子供の頃から聴いていたし、ケータイの着メロは第1番ニ長調の前奏曲にしてあるくらいだけれど、どうも続けて聴いていると陰鬱な気分になってしまう。偉大なるカザルスの立派な演奏のせいでしょうか。でも、トルトゥリエ(1962年)でもシュタルケル(1954/55年)、カサド(1957年)でも「重苦しさ」にそう変化はない。グートマンや藤原真理のライヴ放送で、ようやく一息つようなく状態なんです。

 とぎれとぎれとか、一部分の楽章を独立して聴くと、こんな名曲は他にない、というくらい感動します。だから旋律は好きなんです。ドイツの若手ヴァンゲンハイムのギターによって、ワタシは救われたような気持ちになりました。軽やかで、しっとりとした爽やかさが溢れている。なにより曲の構造がわかりやすいんです。これ、ほとんどオリジナルと言い切って良いくらいギター向けに変貌しておりました。

 アルマンド、クーラント、サラマンド、ブーレ、ジーグ、ガヴォット〜とかなんとか、いずれも伝統的な舞曲でしょう。「舞曲」と言うくらいだからリズムに乗って踊れる音楽じゃないとダメなんですよ。カラダが自然と揺れるような。カザルスの偉大さは筆舌に尽くしがたいが、少々頑強に、生真面目なクラシックとして無伴奏チェロ組曲を固めてしまったのかも。もっと気軽に、美しい旋律を楽しく聴かせて欲しい〜そんな思いを叶えてくれたのが、このギター版と思います。

 ワタシ、楽器も楽譜もド・シロウトなのでようワカランが、単旋律でも和声をちゃんと表現しているんでしょ?ギターだと、主旋律に伴奏がちゃんと付くからそこら辺がわかりやすいんじゃないか、と考えました。それにギターって「早弾き」ができるじゃないですか。(クラプトンのスロウ・ハンドを見よ)だからチェロのように「苦心惨憺」みたいにならないのかな、なんて思います。繊細な味わいは、チェロの重厚な世界とは少々異なってこれも素敵です。

 馴染みの旋律がとても新鮮に聞こえます。これはギターが自然とハズむようなリズムのタメを作っているからで、第6番ニ長調組曲の「ガヴォット」辺りに成果が顕著です。第2番ニ短調組曲における「メヌエット」の寂しげな味わいも出色。第3番イ長調組曲の「アルマンド」は甘やかで微笑みがこぼれます。(ワタシのケータイの着メロである)第1番ニ長調の前奏曲だって、なんと優しくて、ゆらゆらと歌が溢れていること。

 チェロだと中年男の説教臭さが時に感じられるが、ギターだともっと若い日の憧れが見えてきました。録音も出色。女性にはこちらがお勧めか。

(2002年4月19日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi