Bach ブランデンブルク協奏曲第1番〜6番全曲
(ルートヴィヒ・ギュトラー/ヴィルトゥオージ・サクソニエ)


Berlin Classics/BC17302/312bc Bach

ブランデンブルク協奏曲
第1番ヘ長調 BWV1046
第3番ト長調 BWV1048
第5番ニ長調 BWV1050
第4番ト長調 BWV1049
第6番 変ロ長調 BWV1051
第2番ヘ長調 BWV1047

ルートヴィヒ・ギュトラー/ヴィルトゥオージ・サクソニエ/エッカルト・ハウプト(fl)/アンドレアス・ローレンツ(ob)/ローラント・シュトラウマー(v)/ヨアヒム・フシュケ(fg)(1990年)

Berlin Classics/BC17302/312bc NMLにて拝聴

 ギュトラーは旧東独逸系トランペットの名手であって、ディジタル時代に至って指揮活動に手を染めております。Virtuosi Saxniaeは”ザクセン・ヴィルトゥオージ”との邦訳もあって表記は統一されておりません。シュターツカペレ・ドレスデンの首席によって構成される現代楽器アンサンブル(上記メンバーは適当にネットから拾ったんです)は、日本ではほとんど話題になっていないんじゃないか。現代の主流である古楽器じゃないから?ワタシは昔からギュトラー(トランペット)の輝かしい、軽快なるトランペットの大ファンだったし、作品は子供の頃からのお気に入り〜嗜好に変化なし。音質極上。

 子供の頃聴いていたのは、カール・リヒターの峻厳なる演奏でした(今ではとてもだけど愉しめない/厳しすぎ重すぎキツ過ぎて)。バロック音楽ここ50年ほどの演奏スタイル変遷は激しくて、使用楽器がどうの、という話題を超えて、リズム感のノリ、キレ、装飾音、各プレーヤーの演奏技量の向上に驚かされます。+それにディジタル録音の効果がプラスされる・・・ヴィルトゥオージ・サクソニエは旧態なセンス無縁なるスタイルであって、柔軟軽快流麗なる技巧を誇ります。ここまでくると古楽器やら現代楽器云々論議は少々空しい感じ。詳細情報がわからぬが、一部古楽器を使用しているのかも知れません。

 結論的に、第1番が抜群に楽しい!ここだけ聴けばヴェリ・ベストと折り紙を付けたい気持ち。つまり、ギュトラーの専門である金管が活躍する作品では、その多彩かつ自在なる響きに文句はないということです。第1番は3本のホルンが中心に活躍するんだけれど、これがかつて聴いたことのない軽妙と躍動、ユーモアを以て朗々と響き渡ります。もしかして、御大ギュトラーもご出馬か、使用楽器にも一工夫あるのかも知れない。いやぁ、んもうとにかく上手い、滅茶苦茶上手い。3本のオーボエの洗練された響きも特筆すべきでしょう。全体テイストは軽く、すっきりとキレの良いリズムに乗って歌っております。しかし、どことなく独逸的生真面目さを刻んでいる感じ。

 第2楽章「アダージョ」はさらりと流し、第3楽章「アレグロ」のホルンのスッタッカートは爽快愉快そのもの。ヴァイオリン・ソロも控えめだけれど上手いですよ。終楽章「メヌエット-第1トリオ-メヌエット-ポラッカ-メヌエット-第2トリオ-メヌエット」も速めのテンポ、さっぱりきりりと仕上げてお見事。油断すると「いつ終わるんじゃい!」的しつこい繰り返しに聞こえますから。

 第3番ト長調は、これだけ単独で聴けば”古楽器?”と見まがうばかりの柔らかい弦の響き。子供の頃より大好きな作品だけれど、センスはモダーンでリズム柔軟、まったりとしたノリがやはり往年の1970年代頃までのサウンドとはずいぶんと違って”古楽器テイスト”に影響を受けているのでしょう。例の第2楽章「フリギア終止の2つの和音」には、前に第1楽章主題をなぞったヴァイオリン・ソロがまったりと付加されます。エエですね。終楽章も、いっそうテンポを上げても柔らかい語り口は.に変化はない。

 第5番ニ長調も馥郁たる香り漂うリズミカルなアンサンブルだけれど、第1楽章弦のリズム刻みがどーも厳格なのだな。独墺系によく見られる現状で、ワタシは(そこだけ)神経質過ぎて好みではありません。もちろん、ヴァイオリン・ソロ、フルートのゆったり余裕の絡み合いはお見事。フルートも仏蘭西系とは異なる集中力ある深い音色が素敵です。ここでの主役であるチェンバロは、実際の演奏で聴くべきバランスに収録されていて、つまり大音量+中心に据えた捉えられ方ではなく、ずいぶんと控えめ。そこはそこ、録音芸術だからちゃんと聞こえるけれど。テンポは走らず、ややタメを作って味わい深いソロであります。技巧をバリバリ披瀝するスタイルに非ず。

 第2楽章のソロ楽器のみによるトリオは、正統派のバランス。終楽章のフーガは愉悦に充ちて、弾むようでありデリケートなんだけど、どこか生真面目端正な姿勢を貫いておりました。

 第4番ト長調は清廉なるリコーダーをメインに、ソロ・ヴァイオリンの華麗なる技巧が大活躍する牧歌的作品。このヴァイオリンが凄い。技量発揮の場であり、間違いなく上手いんだけれど、けっこうさらり涼しげな表情で、むしろ抑制を利かせて演奏しております。結果的に、品のある演奏に仕上がりました。前時代は大仰なる表情で演奏されがちだった「アンダンテ」ホ長調は、生真面目に奏されて清潔そのもの。ヴァイオリンの表情は豊かであります。終楽章のフーガは、軽快であり、チェンバロの隠し味が夢見るように美しく弦、リコーダーを支えます。この楽章主役も、柔らかくも自在に深いヴァイオリン・ソロであります。

 第6番 変ロ長調第1楽章変ロ長調は、2台のヴィオラによる冒頭主題はスタッカーとしていて、おお、これは懐かしいクルト・レーデルと似ているではないか。ヴァイオリンを欠く、地味な響きの作品にメリハリを付けているのですね。第2楽章「アダージョ」は数多いBach 作品中屈指の美しい旋律を誇って、懐かしいところ。終楽章「アレグロ」の晴れやかな世界もなんとシアワセに充ちているか。

 ラストに第2番ヘ長調を配置したのは御大将ギュトラーの登場故でしょう。トランペットではなく、コルノ・ダ・カッチャ(狩りのホルン)使用。これはサーストン・ダート以来の研究成果だけれど、バランスとしては甲高いトランペットよりオクダーブ低いホルンのほうがよろしい感じ。但し、昔のトランペットも機能的には不器用でそう鳴るものでもなかったらしい。(バッハ・コレギウム・ジャパンでは島田俊雄さん手作りトランペットというのを使っていて、そうとう無骨)第2楽章(金管抜き)「アンダンテ」の寂しげなカノンは素敵というか、ここ数年緩徐楽章が好きだからなぁ。終楽章は、流麗なるコルノ・ダ・カッチャが文句ない流麗な技巧だけれど、ワタシはトランペットの耳をつんざくようなサウンドを期待したいところでした。ラストは妙にさっぱりと素っ気なく終了。

 ワタシは伊太利亜風自在な愉悦、モウレツに明るい躍動演奏を好みます。例えばリナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ(2005年)。それに比べると、ちょっぴり堅苦しい生真面目さを感じました。

(2011年5月6日)

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written by wabisuke hayashi