Stravinsky「火の鳥」全曲(1910年版)
(エルネスト・アンセルメ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)


海賊盤(輸入元エコー・インダストリー) CC1070 Stravinsky

バレエ音楽「火の鳥」全曲」(1910年版)

エルネスト・アンセルメ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

駅売海賊盤(輸入元エコー・インダストリー) CC1070 1968年英DECCA録音 1,000円で購入。 

 ロバート・クラフトの精緻な演奏(1996年)を楽しんでいたら、アンセルメを思い出しました。以下の(かつての↓自らの)文書はまったく気に食わない。「間違いなく優秀録音。でも聴き直すと、人工的な感じがしてそれほど好きな音質ではありません」・・・この鮮明なるアナログ末期、バランスの良い音のどこに不満があるのか。「NPO」とか「OSR」とかの通ぶった略称呼称もいやらしい・・・よく考えたら、30年(一世代)後とはいえクラフト盤も同じオケなんですよね。時代の相違、録音個性の違いを考慮しても、別種の音楽を聴くような趣がありました。

 「このひとは、雰囲気で聴かせる人」とは随分な言い種と思うが、たしかにメルヘンな雰囲気、ここ彼処に充満して貴重な味わい系に間違いなし。ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のアンサンブルは優秀で「精緻」だが、クラフト盤だったら時として”醜”を隠さない。クールさは共通だが、アンセルメだったら、もっとセクシーで美しい。相変わらずスイス・ロマンド管弦楽団との旧録音を聴く機会を得ないが、おそらくはこれほどの緻密な集中力は期待できないでしょう。このオケは清廉で明るい響きがウリだが、スイス・ロマンド管弦楽団みたいな軽量で、緩くて、薄っぺらい響き(悪口に非ず/個性です)じゃないんです。

 おそらくは指揮者の個性を素直に反映しているのであって、さりげない旋律表現でありながら、常に響きをていねいに磨き上げて”嗚呼、キレイだね”的世界からはみ出さない。時代だと思いますよ。作曲者/作品と同時代を生きてきて、旋律ひとつひとつを大切に十八番(おはこ)として到達した世界。例えば、ヘップバーンの昔の映画を見ているような完璧な美しさ。でも、現代には蘇らない。当時この団体は、自主運営として再出発して、意気軒昂だったはず。弦も管もエエ音で鳴っております。名手の響きであります。

 ワタシは、これが「アンセルメ最後の録音」としてFMで流された時(リハーサル風景とともに)、発売直後(または直前)に聴いております。当時中学生、そのなまなましい体験がこの演奏に対する”思い”にいっそうのバイアスを掛けているのでしょう。次世代の人々はこの演奏をどう聴くのでしょうか。

 蛇足を少々・・・1990年頃、駅売海賊盤1,000円でも(充分に)安かったんです。先のロバート・クラフト盤(+ペトルーシュカ1947年版全曲付き)新品送料込みで1,000円でお釣り来ました。より音楽に多く接することが容易になった時代〜しかし、感動の質が比例しません。聴き手の感性は摩耗するばかり。久々、こんな怪しげなCDが(未だに)プレーヤーでちゃんと再生され、美しい音楽を生み出してくださる事実に感慨を深めておりました。

(2007年2月2日)


 スター不在の指揮者界。「必ず売れる」という保証がないもんだから、減価償却済みの「往年の名匠」が手を変え品を変え再発売されます。ここ数年アンセルメも話題になって、評価もめまぐるしい。このひとは、雰囲気で聴かせる人、と思います。なんとなくホンワカとした味わいは悪くない。好きです。LP時代から廉価盤が出ていたことにも好感が持てます。

 このCD、1990年頃買ったはず。録音が素晴らしい。・・・・・と、いままで思ってきました。おそらく間違いなく優秀録音。でも聴き直すと、人工的な感じがしてそれほど好きな音質ではありません。(劣悪な音質よりずっと良いが)

 スイス・ロマンドとの旧録音は未聴ですが、メカニック的にNPOはずっと上だと思います。録音のせいもありますが、細部まで明快で、ひとつひとつの楽器のていねいな味付けが楽しめます。それでいて、アンセルメ特有のクールで粋な味わいも充分。最晩年に、手兵とは別なオケでこの録音をしたということは、やはりOSRでは表現できない思いがあったのでしょう。(でも、この録音が最後となりました)

 「クール」と書きましたが、この演奏もずいぶん冷たい、というか、ひとつひとつの旋律に情念を込めるような(バーンスタイン/NYPOの組曲版など)そんな方向とは違うもの。クラリネット、フルートにしても、ソロ・ヴァイオリンにしても、すっきりと未練のない弾き方。しかし、全体として出てくる音楽はたしかに「粋」。

 これは、ほぼ初演時からこの曲を知り尽くしているアンセルメの確信と業の世界。力みも、よけいな思い入れも、芝居っけも一切なし。でも極上に美しい。弦の透明な響きにも満足。「異様な鋭さ」「極限の緊張感」が足りないのは、世代問題でしょうか。

 ほぼ同時期の録音で、ブーレーズ/NPO(同じオケ)の「海」がありました。その無慈悲で冷たい演奏に驚いたものです。たしかに木管などは似たような感じですが、アンセルメのほうが「色気」があります。録音の差もあるでしょうが、それだけでは説明は付かない魅力。

 「火の鳥」は、組曲版のほうが演奏機会は多いようですが、全曲版は別な曲と考えてもおかしくないくらい違います。50分弱、楽しめます。2000年に、オリジナルの練習風景付きでCD復活するそう。


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written by wabisuke hayashi