「コンサートへ行こう」へ

エリザベト音楽大学大学院音楽研究科研究発表会
 器楽専攻管打楽器分野チューバ演奏会


2001年7月10日(水)PM6:30〜エリザベト音楽大学ザビエルホール(広島)

アウスケトル・マウッソン(1953年〜)
ボレアス(1999年) *ソロ

P.A.ハイセ(1830〜1879年)
二つの幻想的小品

ヴォルフガング・プラッゲ(1960年〜)
ムジカ・サクラ(1993年) *日本初演

小林 宏光(チューバ)/YAMANEさん(p)

 岡山在住のワタシが、わざわざ新幹線に乗って広島まで音楽を聴きに・・・・、行くはずないじゃないですか。山口〜広島の出張移動中にお誘いを受けちゃって、ま、タダでしたし、こんな機会がないとチューバとピアノの室内楽なんて、ましてや現代の作品なんか聴く機会も一生ないでしょうから。

 「ノルディックサウンド広島」という、極限まで北欧の音楽と演奏家に専門化したすごいCDのお店をHP読者からご紹介いただいて、ド厚かましくも訪問してみたら、狭いマンションを売場にしながら、その試聴盤の豊富さ(売り物と同じくらいある)、それなりにマイナーなものに注意を払ってきたワタシでも、90%は初めて見る音源ばかりで驚愕。世の中は広く、深い。

 場所は難しいですよ。広島駅から電車に乗って「銀山(かなやま、と読むそう)町」下車。駅側を瀬にして右の道を入りすぐ、中華そばの赤提灯の隣のマンションの4階。シロウトでは絶対に探せません。(ワタシ、極端な廉価盤主義者なのでCDは買わない、タダの冷やかし客だったのに)店員さんに素性がばれ、コーヒーまでいただいて恐縮。

 コッソリ店に入ると、奥の机でまどろんでいる、人気若手料理人ケンタロウ(小林カツ代の息子)風のお客が一人。CDを見ているだけで勉強になるし、ここ最近、安易な知っている曲ばかりで保守化しているワタシの音楽嗜好に対する、無言の圧力でもある。これではいけない。

 で、このお店にも関係深いらしい小林さんの演奏会にお誘いを受けて、行ってみましたよ。ワタシのような市井の人間でも勝手に入れるんですね。エリザベト音楽大学はすぐ近所でした。ザビエルホールって、数百人くらいの響きのよいきれいなホールでした。

 細面の実直な眼鏡の青年が、デカいチューバを抱えて出てきました。マウッソンってアイスランドの現代作曲家らしく、ま、チューバの無伴奏ソロ曲というのは珍しいですよね。「ボレアス」とはギリシア神話の「北風の神」だそうで、もしかしてラモーの「ボレアド」と同じ題材か?(ちがったらごめんなさい)

 音を鳴らさず、キーだけを使って息のみで効果音を出したり、チューバの音って、重量があるし、一種押しの強さもあって聴き手の脳髄を渋れさせるような効果があるんですね。ものすごく緊張させます。

 2曲目もハイセという見知らぬ作曲家だけれど、デンマークの作曲家らしく、甘く親しみやすい旋律なんです。もともと、ホルンとかチェロで演奏されるそうだけれど、それをチューバで、という意欲的な取り組み。ピアニストが出てくると、先ほどのケンタロウさんでした。まず、チューバでこれほどの伸びやかな、よく歌う高音が出るというのは初めて知りましたね。(というか、正直、チューバは真剣に聴いたことがない)

 ケンタロウさんならぬYAMANEさんは、後ろから見ても華麗なる指さばきで、背中が踊っていました。音色がエラく繊細で、とくに弱音の美しさは絶品。(つまり、弱すぎず、明快であり、抑制は利いているが、説得力がある)あとで訊いてみると、スタインウェイだったそう。

 ラスト、プラッゲさんはパンフには書いていないが、日本初演だそう。(ま、正式な公開演奏会ではないが)作曲家からコメントを取り寄せたそうで、いわば具体的な「カトリシズム」ではないが、宗教的静隠を意図した曲、とのこと。

 現代音楽といえば、暴力的・破壊的なイメージが強いが、そのような難解さは感じられません。ピアノの静かでシンプルな和音の繰り返し(あとで訊いたら無茶苦茶むずかしいそう。でも効果的)に乗って、チューバの幻想的な響きが会場に充満します。これ、やはりナマの説得力なんですね。音が空気の振動となって顔にぶつかるのが理解できる。

 やがて、途中からチューバ・ソロのみの展開となり、苦悶に満ち、救いを求めているようでもあり、自由なカデンツァにも聴こえます。苦しみが極限まで達したときに、はるか天上からピアノが密かに救いの声として現れ、全曲の幕を閉じました。


 演奏終了後、「ノルディックサウンド」でお話を伺いましたが、「あれ、自由なカデンツァなんですか」というド・シロウトの質問にいやな顔ひとつせず、YAMANEさんが楽譜を見せてくれました。全部、書き込まれていて、「ピアノの救いの声」が入る直前の全休符にフェルマータが付いている。つまり、どうピアノが入っていくかは演奏者同士の息の合わせ方なんですね。


 職場の上司には「おまえ、何しに出張行ってんの」と言われそうだし、「ノルディックサウンド」の皆様には「CDも買わずにタダ・コーヒー飲みやがって」と思われていることでしょう。このレポートはせめてものお詫びの印です。

YAMANEさんのHPもありますよ。素敵なピアニストでした。(防府の方)YAMANEさん、トップページのHTMLのタイトルに「NORDIC GARDEN」と入れて下さいよ。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi